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ハズレスキル「逃げる」で俺は極限低レベルのまま最強を目指す ~経験値抑制&レベル1でスキルポイントが死ぬほどインフレ、スキルが取り放題になった件~  作者: 天宮暁
第四章「異聞」

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155 譲れないもの(10)よかったら覚えておいてくれ

 俺は「現実から逃げる」を解除し、崩壊後奥多摩湖ダンジョンのボス部屋に戻る。


 保留されてた広域殲滅魔法の詠唱は解除した。


「……えっ、今、なにか……?」


 戸惑った声を上げたのはほのかちゃんだ。

 俺の心を読んでるほのかちゃんには、俺の意識がいきなり切り替わったように見えたんだろう。


 ……べつに、戻ってくる必要はなかった。

 異空間で「逃げる」スキルレベル3を使用すればよかっただけだ。


 それを使ってしまえば、彼らが納得するかどうかは関係がない。

 問題自体が消滅するからな。


 それでも戻ってきたのは……この数ヶ月でこいつらに情が湧いたからかもしれないな。

 たとえ意味がないとしても、別れの言葉くらいは告げたかった。


 俺は彼らに話しかける。


「解決策が見つかったかもしれない」


 俺の言葉に、三人が目を見開く。


「まあ、確実にうまく行くとは限らないんだけどな」


「なっ……いきなり何言ってやがる!?」


 春原が噛み付いてくる。


「……どうやったらこの状況を解決できるというんですか? どう考えても詰んでるようにしか思えません」


 訊いてきたのは紗雪だ。


「そうだな。この状況はたしかに詰んでる。どうしようもない」


「だったら……」


「――なあ、目の前に、どうしても越えられない壁があったらどうする?」


 俺の突然の質問に、三人が顔を見合わせた。


「だから……いきなりなんなんだよ!」


「いや、参考までに聞きたくてな」


「……どうすると言われても……越えられない壁は越えられない、としか」


 俺がふざけて訊いてるわけじゃないとわかったのか、紗雪がそう答えてくれる。


「越えられないのでしたら、迂回する、抜け道を探す、梯子を探してきてよじ登る……といったところでしょうか。あくまでも比喩的な話ですが」


「それすらできなかったら?」


「……あきらめるしかありませんね。今更そんな説得がしたいのですか?」


「そうじゃない」


「じゃあ、俺たちと力を合わせて解決策を探そうって話か?」


「悪いけど、そうじゃない。俺には待ってる人がいる。解決策を見つけ出すのに何年もかかるようじゃ困るんだ」


「壁の越え方を知ってる人を探してはどうでしょうか?」


 と、これはほのかちゃんの意見。

 なるほど、ソロ専の俺にはない発想だな。


「それも悪くないけど、誰にもわからないことだってあるよな」


 この世界の神様にもわからないんだ。


「どうしようもないのなら……受け入れ、壁の前で楽しく暮らすという方法もあります。立ちはだかる壁を全部越えようとする必要はないはずです。好きな人と一緒にいられるなら、それでもいいのではないでしょうか?」


 とほのかちゃん。


「……この世界の俺は幸せ者だな」


「えっ?」


「いや、ほのかちゃんみたいな彼女がいる奴ならそれもいいだろうって話だ」


「で、でしたら……」


「大丈夫、ちゃんとこの世界の俺は置いてくさ。いや、正確には違うんだが……」


「元の世界に戻る方法が見つかったっていうのかよ? なんでいきなり、そんな……今の話と関係があるっていうのか?」


「まあ、俺の自己満足みたいなもんかもしれないな。どうしても越えられない困難にぶつかったときにどうするか? しかも、その壁の前で楽しく残りの人生を過ごすって選択も無理ってときのことだ」


「……現実を変えられず、かといって現実を受け入れることもできないということですね」


 紗雪がわずかに眉を寄せる。


「それは……精神の死です。本当に心の底から現実を受け入れられないというのなら、死ぬよりほかありません」


「……紗雪はやっぱりそういう発想か」


 ぽつりとつぶやく俺。


「え?」


「いや、なんでもない。受け入れられない現実を拒むために命を断つ――そんな選択をした人たちもいるけどな。だが、そんな究極の選択にいきなり飛びついちゃダメだ」


「……では、どうすると言うのですか?」


「そういうときは……逃げるんだよ。後先考えず、他人から嘲われようと逃げるんだ。どうせ失うものなんてないんだからな」


 俺は異空間で確認した「逃げる」スキルレベル3の能力を思い出す。



Skill──────────────────

逃げる

S.Lv1 戦闘から逃げることができる。

S.Lv2 現実から逃げることができる。

【NEW!】S.Lv3 困難から逃げることができる。


【NEW!】S.Lv3「困難から逃げる」

使用条件:

自分の置かれた状況が完全に解決不能であることを心の底から認識する。

特記事項:

「困難から逃げる」による因果の遡行では、自分自身に属する因果は最新の状態のまま保持される。

ただし、因果の認識は人間の魂には負荷が大きいため、因果の遡行に時間をかけすぎると自分自身の因果が摩滅する。

また、認識した「困難」と直接的な関係がない時点まで因果を遡行することはできない。

同じ困難から繰り返し逃げることは可能だが、そのたびに魂に負け癖がつき、自己肯定感が永続的に減少する。減少した自己肯定感は同種の困難に打ち克つことでしか回復できない。

────────────────────



 ……まあ、いろいろと突っ込みたいところはある。


 まず、能力の具体的な内容が説明されてないこと。

 説明文の使用条件だけだと効果がいまいち曖昧だ。


 ジョブ世界のアビリティや技能に比べて、スキル世界のスキルは定義に厳密で説明不足な傾向にある。

 アビリティや技能は使い方が直感的にもわかる仕様だが、スキルは説明文だけが手がかりなんだよな。

 せめて最低限の説明くらいはしてほしいもんだ。


 そして、あいかわらずデメリットがヤバすぎる。

 ただでさえ低い自己肯定感を永続的に減らされてはたまらない。

 ひきこもりを脱してようやくドン底を抜け始めたところだってのに。

 説明文の内容からして同じ困難から逃げるのが一回だけならペナルティはないみたいだけどな。


 「自分の置かれた状況が完全に解決不能であることを心の底から認識する」に関しては、時空間でたっぷり認識を練ってから戻ってる。

 これで発動できるはず、という感覚は既にある。


 効果については……使って確かめてみろってことなんだろう。


「……俺たちの悠人は、そんなことは言わねえよ」


 春原が顔をしかめて言ってくる。


「なら、忘れてるんだろうな。困ったら逃げればいいんだよ……と、その悠人に伝えておいてくれ。ガキの頃はちゃんとわかってたはずなのに、どっかで忘れちまったみたいでな」


 中学のときに部活の人間関係で悩んでた芹香に、当時の俺は逃げろと言ったらしいからな。


「大丈夫だ。みんな、外から見るほど思い通りの人生なんて送っちゃいない。頭で考えてるより、逃げた先にも道があるもんさ」


「けっ、歳上だから人生経験が豊富だってか?」


「さあ、それはどうだかな」


 と苦笑する俺。

 たしかに説教くさかったかもしれないな。


「じゃあな。よかったら覚えておいてくれ――あきらめずに逃げるんだ」


 そう言って、俺は「困難から逃げる」を発動した。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 安全に〝自分で〟分列を試すチャンスを逃しちゃったなぁ 今頃気付いたけど… 「分列」、「スキル付与」、「モンスターのカード化」を持った今なら憑依能力を持つモンスターを捕まえたらヤバい事…
[一言] いじめだの自殺だの、不愉快なものを見せられて。でもようやく幼なじみと結ばれるのかと思ったら、これかよ。吐き気がするわ。
[一言] 解決できない問題は逃げれいいって そりゃあその逃げるのスキルがあれば逃げればいいけども 主人公以外はその逃げるのスキルないんだから 主人公みたいな逃げかたはできないよね この章入ってから話…
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