ラウンド27
まさかの公開告白に盛り上がる会場、返事を望む声が上がり続ける。
しかしながら俺は想定外のことに冷汗が止まらない。そして、湊と俺の関係性を知っている生徒たちもまた驚いている。
「湊ちゃんやるぅ。ほら、伊織返事しないと」
「む、無理っすよ!」
「なに言ってんの、女が覚悟決めて告白したんだぜ? 男ならきちんと返しやがれ」
ユウキ先輩は俺の制服を掴むと、引きずるように連れ出される。抵抗しようにも女子とは思えない力で押さえつけられる。確かに告白には答えないといけないが、俺はこういう感じで湊に返事したいわけじゃ……!
だが、有無を言わせずに舞台袖まで連れてこられた俺はユウキ先輩に押し出されるような形で舞台上に出る。俺の登場に盛り上がる会場、熱は収まることを知らない。司会から握らされるマイク、当の湊は恥ずかしそうに座り込んでしまっている。
「早く返事しろよー!」
からかいの声が増える。
うるうせえなあ。俺には俺の流儀がある。ユウキ先輩、イベントを潰して申し訳ないが、ここは俺のやり方でやらせてもらいます。
俺は手に持ったマイクのスイッチを入れ、大声で叫んだ。
「うるせええええええええええええ!!」
一気に静まり返る会場。
このくらいがちょうどいい。
「確かに公開告白みたいな形になったかもしれねえ。だが、お前らがそれに勝手に介入すんな。こういうのは、もっと大事にするもんだろ? この場の勢いで答えるもんじゃねえ。まして、湊が本気で言ったなら尚更だ。俺はきちんと返したい。だって、俺は自分で思っている以上に湊のことが大切だから」
マイクのスイッチを切り、司会に渡す。そして、座り込んでいる湊の手を引いて舞台を後にする。袖で見守っていたユウキ先輩はすれ違いざまに「悪かった」と言った。
「いえ、俺も台無しにしてすみません」
何も言わずうつ向いたままの湊と二人、体育館を後にした。
人のいない場所を探した結果、結局屋上に戻ってきてしまった。
「大丈夫か?」
湊をベンチに座らせ、問いかける。公開告白してから湊は一言も発していない。何か飲み物でも、と自販機に行こうとすると湊が俺の手を掴んだ。
「答えてくれ」
「え?」
「答えを、聞かせてくれ」
真っ直ぐに俺を見つめる湊。おそらく告白の答えを求めている。
……ここでごまかしても仕方ないか。俺は湊に向き直った。
「答えは、正直言ってわからない。だって、俺はまだ湊のことをほとんど知らないから。お前のことは可愛いと思う、いい子だってこともわかる。だけど、心の底から好きかと言われたら、素直にはいとは言えない」
「そ、っか……」
湊は瞳を潤ませている。文化祭はそろそろ終わるらしく、校庭では後夜祭のキャンプファイヤーの準備が始まっている。夕暮れが迫り、空はオレンジ。出会いときっかけの春は終わり、青春の夏が始まろうとしていた。
「でも、俺はきっと、湊に恋しかけてる」
思いがけない返しだったのか、湊はきょとんとしている。
「自分でもびっくりしてるんだけどさ。ちゃんと話すようになってから、湊のことばっか考えるようになってた。不意に話したくなったり、笑顔が見たくなったり。……気になってるって、言った方が早いな」
「え、え?」
困惑している湊。俺はもう一度、はっきりと言葉にする。
「だから、恋しかけてるんだ。俺は湊紗季っていう女の子に、恋しかけてる」
「私を好きになりそうって、こと?」
「ああ。だから、もっと湊のことを知りたい。もっと話したい」
「うん……」
「ホント、こういうのって気恥ずかしいな。なあ、湊。……先ずは、連絡先でも交換しようぜ?」
「ふふ。うん、そうだな。そうしよう!」
互いにスマホを取り出し、連絡先を交換する。
「これで正式に、私と君が繋がった。もう、匿名の大和とイオじゃなくて」
「おう」
「毎日メッセージ送るぞ? 毎日電話するかもしれないぞ? 私は君のことが好きだからな」
「構わねえ。むしろこっちから連絡とるかもな。湊を好きになりかけてるから」
「な、何を!? 私だって負けないぞ!」
二人、屋上で笑いあう。
心地の良い夏風が吹く中で。
俺と湊の関係性が変わり始めていた。




