ラウンド10
湊に啖呵を切り、部屋を後にした。急いで学校に戻るとすでに放課後になっており、生徒は帰宅や部活に動いている。まだ帰ってないといいが。足早に教室に向かうと目的の人物が俺の席に座っていた。
「おかえりー」
「凛、やってほしいことがある」
「だろうと思った。で? 何をすればいいのかにゃ?」
「この紙に書いてある奴らの情報を集めてくれ。すぐに、だ」
「人使い荒いなあ。ま、伊織の頼みなら仕方ない。あとで倍返ししてもらうからねー」
凛は猫のように笑うと、スキップしながら教室を出ていった。
さて、俺は奴らを呼び出しますかね。
陽が傾いてきた頃、俺は校舎裏に三人の先輩を呼び出していた。
「なんだよ後輩君、俺らも暇じゃないんだよ?」
「そうそう、用なら早く済ませてくれない?」
「ほんとよねー」
言いたい放題だな、こいつら。いじめする奴はやっぱり頭が弱いと見える。
「いやー、すみません。ですが、どうしても先輩たちに仕返しがしたくて」
「は? 何言ってんのお前」
「だから、仕返しですよ。湊紗季をいじめた、ね」
「何? あんたもしかしてあの風紀姫の男? だったらウケる。彼女守るために仕返しとかダッサ」
その言葉は完全に頭に来たよ、テメエらさん?
俺の口調は完全に不良モードになっていた。
「ダサくてもなんでもいいんだよ! 俺はあいつにあんな顔をさせるテメエらが許せねえだけだ!!」
「言わせておけば!」
男が拳を震わせながら近づいてくる。このまま喧嘩してもいいが、後で湊に怒られそうなので秘策に打って出る。
「おっと、その前にこちらを」
「はあ?」
殴りかかって来た先輩に一枚の紙を渡すと、男はたじろいだ。その様子に後ろの女たちも駆け寄って紙を覗き込む。
「万引き、脅し、他生徒へのいじめ……。上げたらキリがないですね」
書いてあるのは凛に調べてもらったこいつらの悪行の数々。なんだか俺も楽しくなってきて笑いがこらえきれない。
「こんなもの! 破っちまえば問題ねえ!」
「あれ? 誰が一枚だけって言いました?」
スマホを取り出し電話をかける。
「凛、予定通り頼む」
『にしし、りょーかい!』
次の瞬間、屋上から大量の紙束がばらまかれた。
先輩たちは落ちてきた紙を拾い上げると、大口を開けて驚愕していた。
「そう、全部さっきのコピーです。皆に知ってもらえるなんて、有名人ですね」
「ふ、ふざけるなあ!!」
「あ? ふざけてんのはそっちだろ? これ以上湊に手を出してみろ」
先輩たちのもとに歩み寄り、低く怒りを込めた声で吐き捨てた。
「俺がお前らを二度と学校に来れなくしてやる」




