T-08 第3X回書き出し祭り第一会場タイあら感想
1-01 「全覇掌全帰無」構築の道筋
1-02 震闇
1-03 我が愛に曇りなく
1-04 シルクロードジャンクション
1-05 ハンドラン戦記
1-06 かつて善良であった
1-07 君と僕と世界のジジョウ
1-08 バカ言ってんじゃないよ
1-09 消えたのは何か?
1-10 歪な真球
1-11 白く散り行く君を留めん
1-12 腹を割って話そうか
1-13 死に水は要らんかね?
1-14 8つの深い絶望を集めた童話集
1-15 火中の栗は爪を隠す
1-16 小さな窓の中と外
1-17 洋上の道化は退屈を紛らわす
1-18 強すぎるのも悪くない
1-19 開店休業がらん堂
1-20 消えた聖女の失われた記憶
1-21 欲しいものは手に入れたのに溺愛されて逃げられない
1-22 富豪と謎の八面体
1-23 魔法少女マジカルうどん
1-24 親父の形見は特級呪物
1-25 本文公開を待て!
「なんだ、もう気が付いちまったのか。つまらねぇ」
その一文を二十五のあらすじたちの中に紛れ込ませたのはほんの遊び心からだった。それが俺の意図していたものとは、まるで異なる意味を持つことになるとは思いもせずに……。
書き出し祭りへの参加は十回を超え、今回は読者を驚かせるギミックを仕込んだ実験作で勝負に出る。鍵となるのは掲載順。狙ったのは第一会場のラスト二十五番。原稿受付開始から八分後に投稿し、二週間後の提出期間終了をそわそわと待つ。
迎えた提出期間最終日。十八時に締め切られて三時間ほど経った。その間、何度も運営のポストを確認する。いよいよ、タイトルとあらすじがズラリと一覧で並び、自作の順番は……首尾よく二十五番目。よし。
いつも沢山の感想を貰うので、自分も出来るだけ感想を書こうと思ってはいる。ただ、本文全感想なんてのは俺には不可能だ。あれが出来るのは人を超えた怪物だと思う。なので俺は本文感想もいくつか書くが、せめてタイあらだけでも全て感想を書きたい。順番は……第一会場の一番からで良いだろう。早速読んでいく。
1-01「全覇掌全帰無」構築の道筋
ここに「全覇掌全帰無」を構築する道筋を記す。これを完成することができれば、世界の全てを支配することも、また世界の全てを無に帰すこともできる。
なんだか、漢字ばかりの堅苦しいタイトルだ。あらすじも「全覇掌全帰無」とやらを組み上げるために必要な、これまた漢字の並ぶ素材名。
たとえば「玄龍の隠伏鱗」。これは「黒き龍の逆鱗の裏に隠された小さな鱗。時の記憶を遡ることができる」とある。「赫焰の八面体」。これは「八つの深き絶望を集めて造られた八面体。正しく使えば壊れたものを元に戻したり過去を変えたりする事ができる」のだそうだ。同様に「紫紺の愛執環」「雪絹の虚球」「琥珀の夢幻盃」と続き、これら特殊な能力を備えた五つの素材を集めれば世界を支配も無に帰すことも意のままとなる兵器を組み上げられるというのだ。
これが今回の第一会場の一番手。つまり、一番早くに提出された作品ってわけだ。設定や考証、難解な固有名詞には、なんだか出典や由来が隠れていそうで、そういうのが好きな人には刺さるのかも知れないが、俺には取っつきにくいタイトルとあらすじだ。誰に聞かれるわけでもないから正直に言うが、漢字が多くて目が滑る。本文もこの調子だと思うと不安になる。うーん、最初からタイあら感想に躓いてしまった。
どうするか……? 当たり障りのない「面白そうです」「本文に期待しています」あたりに逃げるか? そんな事を考えながら一旦タイあら感想は脇に置いて、このまま次のあらすじを読んでみようと考えた。
1-02 震闇
森に「震闇」という巨大で俊敏な化け物が現れた。身の丈は家よりも大きく、その大きさ故、人里に降りてこようものなら甚大な被害をもたらすのは間違いなかった。今までは、なんとか森から出さないよう食い止めてきたが、いつ突破されてもおかしくなかった。そんな時、長老が言った。「遥か東の国に『雪白の虚珠』なるものがあると聞く。永遠に散り行く娘とそれを押し留める男を神が球体に封じ込めた物だそうだ。その球の中では今なお娘と男がせめぎあい散華と開花を続けておる。球に取り込まれた者もまた永遠に散り行く定めなのだそうだ。その珠に震闇を取り込むことができれば、あるいは……」
和風の昔噺のようなテイストのあらすじだ。この『雪白の虚珠』とかいう代物を村の若者が探しに行く物語らしい。語り口は全く違うというのに一作目となんだか似ているように感じる。
立て続けにタイあら感想を書きにくいと感じる作品が並び、果たしてタイあら全感想出来るのだろうかと一抹の不安を覚える。仕方ない、このまま次のあらすじを読んでみよう。
1-03 我が愛に曇りなく
老婆は、ひとつの指環をうやうやしく王に差し出して言った。
「いかがでしょう? 怪しく艶かしく紫に輝いているのがお分かりになりますかな? この指環の中では男を取り合って敗れた女の愛念と嫉妬が衰えることなく駆け巡っておるのです。この指環は愛する者を愛するほどに加護の力を増します。しかし愛する者を疑うとき指環の中を永遠に巡る愛念と嫉妬に取り込まれることでしょう」
老婆の言葉を聞いて王は答えた。
「ならば何も案ずることはない。私の愛は揺らぐことなどない」
ハイファンタジー物のようだ。
――またか……。
登場する指環に堅苦しい名前が付いていない(少なくともあらすじには出てこない)ものの、何やら特殊な能力を秘めた指環。しかも二作目の何とか珠に設定が似ている。
――一体どういうことだ?
俺はタイあら感想の事をすっかり忘れ、それぞれ別々の作者の手になる書き出しにも関わらず妙な共通点のある事に不信感を募らせていた。
――書き出し祭りってテーマや設定が案外被ることあるしな。たまたま三作、そうした作品が続いただけに違いない。
四作目は、国際貿易の要衝となる地「敦煌」を舞台とした中華風の独特な魅力で異彩を放つ、まるで雰囲気の違う作品だった。ところがホッとしたのも束の間「『全覇王全無神』を作るために必要な5つの秘宝たちは惹かれ合う」との一文に俺は凍り付いた。
――何が起きている? なんだろう? なんつーか、こう。カラーって言うかトーンって言うか。なんか似てないか? この作品たち?
二つまでならよくある。三つもそうそうある事ではないが偶然だと言えなくもない。しかし、四つともなると……偶然で片付けるには出来過ぎだ。
そして、恐々と読んだ五作目の異世界戦記ものに「強大な魔法兵器」「作り方」「巻き物と必要な五つの素材」といった単語を見つけ背筋に悪寒が走る。さっき食べた食事が胃の中で暴れている。
その後も、王宮ロマンス、現代恋愛もの、ギャグ、ミステリー、SF……まるで雰囲気もジャンルも異なる作品たちが名称や細部に違いはあれど、何か共通の「強大な威力を持つ兵器」や「それを作成するために必要な素材」について触れている。素材そのものについて掘り下げた作品、五つの素材の集め方について書かれた作品、それらの素材を組み上げる事、あるいは作り方について書かれた作品、起動方法や制御の方法など、どれもが一作目で言うところの「全覇掌全帰無」について書かれている。
――ちょっと待てよ? これだけ偶然同じ世界線の作品が続くなんて事があり得るか? いいや。断じて、あり得ない。偶然でないとしたら、残る可能性は……、必然。
ここまで来ると、逆に俺は何か確信めいた物を感じつつ、残りの作品のあらすじにも目を通していく。
間違いない。これは名称こそ違えども一作目に出てきた「雪絹の虚球」が生まれた経緯について書かれている。次は「玄龍の隠伏鱗」を手に入れる話だ。志半ばで倒れた者の最後に吐き出した息を圧縮して固めると琥珀になる……「琥珀の夢幻盃」に似ているな。八つの深い絶望で綴られる童話集? ……これは「赫焰の八面体」に関係した話か? 恐ろしい兵器の作り方の書かれた巻き物を巡る戦記物……同じだ。同じだ。これも、これも、これも……。超国宝を手に入れるために後宮に潜入したのに溺愛されて出られない? 不思議な八面体を手に入れた富豪の元に胡散臭い奴らばかりが次々と押し寄せる話? これは魔法少女ものだが主人公が護ろうとしているのは……やはりあの兵器のようだ。この恐ろしくくだらないナンセンスギャグの臭いしかしない作品でさえあの兵器を護ろうとしている。
どういうことだ? 俺以外の二十四作品がひとつの壮大なシリーズの物語を紡ぎ出す。俺は改めてその視点でこの物語たちを整理する必要があるようだ。
まず、物語の軸となるのは「全てを支配することも全てを無に帰すこともできる」という究極の魔法兵器「全覇掌全帰無」だ。
これを完成させるには作り方が書かれた巻き物と五つのアイテムが必要とある。それらのアイテムは個々でも深いいわれや強い能力を持っている。
一連の作品群はそんなアイテムの誕生の話であったり、アイテムの使用による顛末だったり、巻き物やアイテムの争奪戦であったり、それらを使って魔法兵器を作る話であったり、魔法兵器を隠したり奪い合ったり、手に入れて使おうとしたりとバラエティーに富んだものである。
断じて偶然などではない。何故か、全ての作品のあらすじがこの一つの形に捉われている。何がどうなってるのか。一体全体、どういうことなのか。
俺以外の二十四名が結託して共通のテーマで書いている? それも妙な話だ。だが、一体何故?
俺は何か人間を超越した者による介入を垣間見たような、そんな不安に襲われた。
そして、その後に来るのが俺の作品のあらすじだ。そんな意図はまったく無かったにも関わらず、俺のあらすじが作者の意図を離れ、別の意味をもってそこにあった。
1-25 本文公開を待て!
「なんだ、もう気が付いちまったのか。つまらねぇ」





