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T-15 引退アイドルの(合法)轢殺日和

バーチャルアイドル黎明期から続く長寿ユニットが突如解散!?母体企業によってバラバラになったメンバー達!その殆どは芸能界に居続けることにしたのだが、身バレ厳禁の掟の中"初期メンバー"で在り続けたトゥエルブ・ナインは唯一引退を宣言。芸能界から姿を消した。


それと時を同じくして富裕層ニートとなった峯島汐玖は有り余る資産を運用しつつの隠居生活に突入。しかも昔から親しんでいたVRゲーム『ネオ・アース』が最近新版に移行しワイプも行われたと聞いて早速ログイン。


「初期クラスはドライバー 速度は正義 序盤なら尚更」


ネオ・アース。就く職自由拒むものなしのの経済都市で、彼女は"速さ“で成り上がる!

「ん……」

 女は背を伸ばす。軽いストレッチ。

 右へ一、二、三、四。

 左へ五、六、七、八。

 手首足首も捏ね回してから四つ度飛び。

「すぅ……はぁ……」

 最後に深呼吸でカプセルの中へ。

 キィ──ンと閉鎖された空間で瞼を閉じる。

 

 <Login:MaSiNeMi(マシネミ)>


 すると女は茶髪に水色瞳のロリに変じた。しかも身長なんて優に数十センチ変わったというのに、慣れた様子でアバターを動かし仮想スクリーンを展開。

 アップデートが完了した一つのタイトルを選択。

 ネオ・アース。彼女のVR歴にほぼ等しく旧い世界だったが、この度大型アップデートを迎え新生したのを機に女はまた始める事にした。

「キャラメイク 結構シンプル 懐かしい」

 故に早速キャラメイキング。このゲームのステイタスはレベル&クラス制。肉体と精神に加えて技術資産魅力知性荒事の7つのレベルに初期ボーナスを振り分ける。上限は5まで。

「13ポイント なら前と同じに」

 初期から3レベルである肉体と精神へは追加で2Pずつ入れて5に。そして技術と資産を4まで上げ、知性は共通言語の認識に支障の出ない最低ラインでの3まで振り分け。余った1pは荒事へと振り分けて終了。次は12あるクラスの選択。けれど彼女は迷うことなく一つをタップ。

「ドライバー 当然一択」

 確定。合わせて服装も変化。人形めいたロリィタファッションからライダースーツを身に纏うドライバースタイルへ。

「ディーラー あるといいけど」


──Side:MaSiNeMi──


 おはよう 私。

 目を開くとそこは知らない天井だった。

 定番の言葉だけど……知ってるんだろうな、""私""は。

「ボーッとすんなよ相棒!立って寝てたのかぁ?なんてなw」

「うん 今目を覚ました」

 背中を叩いた彼は相棒。このあと死ぬ。それより チュートリアル進めなきゃ。

「しっかりしろよな〜 仕事はもう今晩なんだぜ? 整備は怠んなよ」

 やり方は知ってる。旧ネオ・アースと同じ仕様。

 人間にも車にも部位ごとに耐久度がある。それを回復させるためにしているのが今の行動。視界には赤ゲージに踏み込んだブレーキディスクとサスペンションが見える。

””私””が前の仕事で無茶なスタントをしたのが目に浮かぶ。

「仕方ない」

 パーツ交換。工具を使って取り外し、替えを取り付け。そのうちカットしたい手間。余裕が出たらかな。技能(スキル)には誓願(オース)が付随するから、持ちすぎるのもちょっとね。

「次は板金」

 ハンマーを手に。そして叩く。治る。うん、簡単。

 現実だとそうはいかないけど。ゲームだから。

 銃痕斬り傷止まないこの都市で毎回板金屋の世話になってたらキリがない。概ね叩き終えたら相棒が戻ってきた。

「流石は相棒文句ねえ仕上がりだ さて、まだ時間はあるが どうする?」

「一眠り」

 扉の方へ歩いていく。ドライバーのチュートリアルなんてこの程度。時間を飛ばして実戦に行く。

「ああそうだなぁ…ほらよ相棒、俺の胸に飛び込んできな♡」

「じゃ」

 呆れる。芸能界でも見ないくらい古い誘い方。そもそも私のタイプじゃないし。魅力(・・)は使う気がない。無縁な浪漫は不必要。

「釣れねえなぁ……ああ、後でな」

 ドアノブを捻ると視界が飛ぶ。そしてエンジン音。

「そこの車止まりなさい!」「NEPDだ!」

 後ろから喧しいサイレンと怒号が聞こえる。

 場面転換で今は仕事中。

 依頼人と戦利品を目的地まで運ばないと。

「ヒューッ!犬どもが大量に食いついてやがるぜ!」

「おい飛ばせドライバー!このままだと追いつかれっぞ!」

「わかってる 飛ばすよ」

 NOS始動。アガる回転数。マワるタイヤ。計器の針も震えて──【ロードスター】発動。一段と深くなったアクセルを踏み込みさらに加速。ボディが淡い光を纏っていく。

「オイ!検問だぞ!」「避けろ避けろ捕まるって」

「避ける?私が?」

 冗談。吹き飛ぶのは道路上に立ってる愚か者だけ。

「掴まって」

 突撃。ドギャァァンと装甲付きの強化パトカーがボウリングのピンめいて吹き飛ぶ。ああ、気持ちいい。隠れてた警官も一緒にオサラバ。後続と金属パンのサンドウィッチになってる。

「ふぉぉ!?凄えな!」「いやぁドライバーを雇っておいてよかったぜ」

「当然」

 これが技能(スキル)。この街の物理法則(げんじつ)に付け加えられた法則。【ロードスター】は一定速度以上の時に発動するもの。乗車中の車両がアーマーとプッシュを得る。その効果量は見ての通り。

「──ッチィ!ダメだ相棒!振り切れねえ!犬共ご主人様に追い立てられてワンキャン吠えっぱなしだ!」

「止まれ!今なら命は保証する!」「お前達は既に包囲網の中だ!」

 そうだね。戻ってきたサイレンの音。警察無線での手配度は3。一般犯罪では最高の位階。状況は順調に最悪になってきた。

「試作兵器の使用許可が降りた!総員射線から外れるように!」

「……試作兵器」

 私 それは知らない。

「核熱収束砲発射!」

 ぐわーっ!うん、無事に爆発。車は大破。依頼は失敗。幸いなのは悪評を広める依頼人まで死んだこと。けど……ああ 隣にいた。大きな掌が足元に来た。

「相棒……か、ハハッ 最期に見るにゃこれ以上ねえ女神だな……」

「大袈裟。はぁ、相棒。立ち上がれ……そうにはないか」

 足先は鉄骨のナイフにへし切られ。

 内臓はコンクリートに縫い付けられ。

 血液はアスファルトに染みていく。

「こりゃ ぁ も 一杯もの めなさっ そう だ……」

「だろうね。思考回路はショート寸前。今すぐリパーに会いたいところ」

 私も動けない。ここから入れる保険があればいいのに。

「だか らよ 託す……」

 相棒が私の首元へ手を伸ばす。

 ダイレクトリンク。送信内容は──遺産相続。

「なんと」

「実はよ……終わ たら 言お と 思っ たんだ ぜ」

「そう。最近コソコソしているから何かと思った」

 知らないけど、目を白黒させてるから図星かな。

「…ハッ お見通し だったか」

 頷きだけを返す。視界も暗くなってきた。

 そろそろチュートリアルは終了かな。

「じゃ な。地獄の酒 先にの でお ぜ あいぼ──」

 じゃあね。二度と会えないことを祈ってるよ、相棒。



<Tutorial END>


「夢……か」

 うたた寝から覚めた。一ポリゴンも纏わぬ姿で。

「今は初期ホームから始まるんだ」

 私の資産は4。チュートリアルを終えた(マシネミ)は綺麗な家に住めている。相棒は結構蓄えてくれてたんだね、なんて。

「初期装備は……」

 定番で安価なHPGA8(ハンドガン)。同企業の安定性に優れるLPGR88(アサルトライフル)。その他回復薬と体内機械。そしてクラス装備の乗り物が一つ。

「””スフィンクス””か。いい車だね」

 ガチャだとすれば当たりの部類。

 速度は並。代わりによく曲がるファストバックセダン。

 チューンナップで速度上げれば暫く使える。

「普段使いにも丁度いいし」

 シャツを着る。パンツを履く。

 グローブを填めて。キャップを被る。

「ポニーテールで 完璧」

 出立準備完了。内燃機関が煙を吐く。

 ガレージの扉が開く。アクセル踏んで前進。

 今から私は自由だ。まずは私を成長させよう。

 このゲームだと、クラスを得るにはそれに応じた行いが必要。ドライバーなら運び屋として、あるいはチュートリアルのように逃し屋としての行動をしているうちに育つ。けどこれは依頼がないと育てられない。

 恒常的に出来るものだと、普通に街中をドライビングするのでもいいけれど悠長過ぎる。そこで登場するのがチンピラ狩り。治安最悪の経済都市ネオアースにはチンピラやギャングが無限湧きする。コレを狩ればクラスが育っていく。

「発見」

 けど、あくまでも参考までに。商売や浪漫、作製で稼ぐクラスだと不向きだから。

「ハンドル調整完了」

 歩道で屯っている犯罪者へ向けて。

 試運転いってみよう。スリー、ツー、ワン。

「アクセル全開」

 メーターアップ。加速。加速。ここでドリフト。

 サイドブレーキを引いてリアバンパーアタック。

「なんだ!?」「おい止めろ」「テメェ!俺たちが」

「Bye」

 相手は死ぬ。車を武器にしたからドライバー、キルカウントでソルジャーが成長した。

「悪 速 轢。シーフもそのうち上げたいけど」

 先にドライバーを育ててから。不意打ちボーナスは後でいい。

「ジェームズ!」「許せねえ…!」「やっちまえ!」

 悲鳴を聞いた仲間たちも現れた。なら正面突破で。

 助走をつけてNOS。【ロードスター】発動。

「吹き飛んで」

 ドグシャガァンッとクリティカル。

 コーンもブロックもバリケードも。

 纏めてチンピラサヨナラホームラン。

 ドライバークラスがランクアップ。

 記念の白星がまた一つ輝いて……手配度だこれ。

「そこのスフィンクス止まれ!」

「お断り。See you again.」

 ハンドサインと共に方向転換。大通りを北に。

 マップ埋めも兼ねて高速道路行ってみよう。

「スキルは【クラッシュムーヴ】。オースは【スピードジャンキー】」

 前者は轢殺威力UPの恒常技能。あって損はない。

 後者は……私には関係ない制願。速ければ問題なし。

「ディーラー、見つけないとね」

 ほとぼりが冷めてから忍び込むから。

 しばらくの目標は愛車獲得にしておこう。

「あ、チンピラ」

 当然轢殺。経験値美味。Thank you.

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― 新着の感想 ―
スピード感あふれる作品!! VRゲームをやったことがないのですが、きっと面白いんだろうなぁと思わせる迫力満点のカーチェイス(というのかな、私が表現として知らない(;´∀`)) 軽快な会話テンポでサクサ…
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