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天空のリヴァイアサン  作者: 朧塚
エル・ミラージュの崩落。
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エル・ミラージュの崩落 魔王ベドラムVS魔王ステンノー

 ベドラムがサンテとの戦いを終えて、二日後の事だった。


 長引く戦争によって、互いが消耗している。

 ベドラムはエル・ミラージュ周辺にある、次元橋の政治会談の場に訪れていた。

 ロゼッタとアネモネの計らいで、ベドラムとステンノーは政治会談を行う事になった。


「この戦争でエル・ミラージュの人間が沢山死んだ。エル・ミラージュの代理戦争に加わって兵士となった者達も大量に死んだ」

 ステンノーは椅子に座り腕組みをしながら、無感情な瞳で告げる。


「空中要塞の私の家族達も沢山死んだ」

 ベドラムも腕組みをして、恫喝するような憎悪の瞳で告げた。


「マスカレイドはボロボロで戦争によって経済格差が広がっている。王族や貴族共もまあ没落しているけど、一般市民や貧困階層が一番しわ寄せが来ている。犯罪率が過去最悪だ」


「お前ら、サンテを動かして、スカイオルムを水浸しにしやがって。復興にどれくらい時間が掛かるんだろうな。街が壊滅していて人が海の魔物や洪水で沢山死にやがった」

 ベドラムは憎しみの溜まった声音を吐いた。


「ドラゴンが暴れ回るから、ウチの“同盟国”の人間が多く兵士になった。馬鹿だよね。死ぬ事によって英雄になりたいんだってさ」


 リトル・アーチという国を中心に、多くの者達が代理戦争に傭兵として徴兵された。ドラゴンの息吹やカギ爪によって、何十万名もの人々が命を失った。


 戦争が長引けば長引く程、軍事兵器を売っている死の商人やマフィア達に利潤がいった。投資家や鉄工所や自動車を作っている大企業も儲かった。


 儲かる人間達と対比的に、エル・ミラージュとその周辺の国々、空中要塞とその周辺の国々が疲弊していった。

 エル・ミラージュは核兵器の開発と、ステンノー達の一族の脅威によって他の大国を黙らせていたが、今回の戦争で露骨に脆さが現れた。GDP(国内総生産)も世界トップレベルで高い国だったが、多くの者達が貧困層に転落していくだろう。


「ベドラム。竜の王。お前ら、俺を殺したら、スカッとするわけ? 俺は最高の悪役? お前らの陣営の連中はこの俺と俺の国に対する憎しみに満ち溢れている」

 ステンノーは少し小馬鹿にするように言う。

 世界征服によって全体主義を敷こうとしているベドラムに対して、ステンノーは皮肉っぽく告げる。


「お前らの国の陣営は、私に対する憎悪と悪意が凄いな。ドラゴン退治の英雄を募ってやがる。ドラゴンは人間共にとって、最悪の恐怖の象徴だな」

 ベドラムは自嘲的に笑った。


「面倒臭いな」

 ベドラムは告げた。


「魔王同士らしく、一体一で戦おう。それがシンプルでいい」


「そうか。お前はそんな精神性だったな。なら、俺は全力で行かせて貰うよ」


 国家元首同士の戦い。


「俺の『カコデーモン』は対象を石化させるが、触れる事のみが条件じゃない」


 ステンノーの肉体が変化していく。

 彼の背中から異形の天使のような翼が生える。

 物質の再構築魔法。


 大理石の流弾などが、ベドラムへと襲い掛かっていく。ベドラムは全て、それらを避ける。あるいは自身の手にする伸縮自在の剣から放たれる『ゴールデン・ブリッジ』の爆撃によって攻撃を防いでいく。


 流弾の次にはステンノーの周りには天使の羽が舞い散っていく。ベドラムはそれらが直感的に極めて触れるとまずいものだと知っていた。全てを爆撃によって叩き落していく。流弾や天使の羽が触れた大理石の地面や床などは、次々と石化していく。ステンノーは別の一般魔法に自身の固有魔法『カコデーモン』を加える事によってリーチを広げていった。


 戦いが長引けば、ベドラムは不利になっていくだろう。

 ステンノーも同じだと判断した。


「言っておくが。俺の『カコデーモン』の石化を治した魔法使いは、かつて存在しないからな。ついでに念入りに石化させた後も、一般魔法や特殊な暗器を使って、外側をなるべく傷付けないように、中身の脳味噌や心臓などを破壊したり、抜き取っている。お前を石の彫像にして飾るのも悪くないな」


 ステンノーは水流や稲妻、炎の弾丸を放つ魔法を次々と唱え、ミサイルのように発射していく。触れれば石化する全てに『カコデーモン』が付与された即死技だ。


 ステンノーの全身にゴールデン・ブリッジが撃ち込まれる。

 ステンノーは巨大な異形の天使の翼を硬質化させて、ベドラムの爆撃から身を守っていた。


「なあ。ステンノー」

 ベドラムはふいに告げる。


「なんだ?」

 ステンノーは自身の攻撃を全て爆撃して撃ち落としたベドラムに対して、攻めあぐねていた。


「お前に会わせたい奴がいる。そいつ自身もお前に会いたがっている」


「誰だそいつは?」

 ステンノーは戦闘態勢を崩さずに、ベドラムを迎撃しようと構える。


「お前と“話し合い”がしたいそうだ。話して貰えないか?」

 ベドラムの意外な提案に、ステンノーは笑う。


「この戦いは、茶番という事か。確かにそれでいいだろう。そいつの名はなんだ?」

 ステンノーの顔から表情が消える。


「黒竜ディザレシーだ。我が国の最高戦力だ」

 ベドラムは笑った。


 ステンノーは『カコデーモン』による戦闘態勢を解除した。


 †


「これから向かう次元橋での政治会談は、俺が向かう。ベドラムは甘い部分があるから、俺が政治交渉をする。この戦争に終止符を打つ」

 黒竜はその場所へと向かっていた。


「一ミリも奴に好条件を出さねぇ。戦争終結の条文を書く際に一文字もこちら側が屈服したようなものを書かねえぇ。徹底して戦う」

 ディザレシーは人間の姿を取っていた。

 真っ黒なコートを着た鋭い目付きをした黒髪の青年だった。


「同じ空の下に生きているのに、なんで人々も魔族も、種族だとか国だとか人種だとかの違いで争いを引き起こすんだい? みな神様の下に創られた尊い命じゃないか。お互い手を取り合って仲良く生きる事こそが素晴らしい事だと思うけどね」

 吸血鬼ソレイユは嘲り笑うように言う。


「吸血鬼。お前にだけは言われたくない。マジで死ねよ」

 ディザレシーは憎々し気に言う。


「でもまあ。ソレイユ。良かったなぁ。エル・ミラージュから、イモータリスは敵国って見なされて。吸血鬼の街に大陸弾道ミサイル向けているんだってよ。そういう情報入ってる。いつまでも安全圏で金稼ぎ出来るって思うなよ」


「うーん。一つ聞いていいかな? ディザレシー」


「なんだ?」


「君はこの戦争。どっちの側が正しいと思っている?」

 吸血鬼の王は、まるで遥か高みから状況を楽しんでいるようで、忌々しかった。


「どっちも間違っているし、どっちも正しい。クソみたいな自分達の都合の良い正義感で動いている。だからもう終わらせる」


 ディザレシーはそう吐き捨てると、会談の場へと向かった。

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