独裁国家。エル・ミラージュ 太陽が落ちた日。
「あれ、なんだろ?」
最初、街の人々は空から何か鳥のようなものが羽ばたいていると思った。
普通は視認出来る速度では無かったが、力のある騎士や魔法使いは“それ”を視認する事が出来た。
それを視認した途端、彼らは意識を失った。
その街は一瞬にして焦土と化していた。
巨大なキノコ雲が街だった場所から立ち上っていく。
あらゆる建造物が瓦礫の山となり、あらゆる人々が一瞬にして炭化した黒焦げ死体と化していった。数万人の人々が死んでいった。兵士ではなく、ただの民間人が大量に死んだ。爆弾に込められた毒物によって、生き残った者達も、後日、癌や白血病でバタバタと死んでいった。
その日は黒い雨が降り続けていた。
†
かくして、エル・ミラージュからのミサイルは三発程、放たれた。
撃ち込まれた場所は『妖精の国』アプスヘルム。ジャベリンの同盟国。
ジャベリンから離れた街、冒険者達の故郷であるバグナク。
そしてジャベリンの領土でかなり栄えていた街、カシス・ロッド。
「被害者数は十数万人。副次的な被害者は更に数万人程、膨れ上がるかな。ドローンで連中の阿鼻叫喚の悲鳴が映し出されている。それを観ながら、今夜は熟睡するとするよ。最高のヒーリング・ミュージックだ」
ステンノーは部下からの状況報告を聞いた後、嬉しそうに笑っていた。
「ついでに更にジャベリンの周辺国に軍事ヘリを派遣してナパームでも撒いておいてくれ。ピンポイントで標的を爆撃出来る指向性エネルギー兵器も試すかな」
軍人達は自らの君主に恐れ戦いていた。
王子自らミサイルのボタンを押したと聞かされて、軍人達はざわ付いていたのだった。
彼は指先一つで、一日にして十数万名以上の同胞である人間を殺害した。
「実はジャベリンの僻地。グリーン・ノームに小規模のミサイルと空中要塞の庭園に一本ずつ追加で撃ち込んでおいたんだけど。命中しなかったみたいだね。何かあるのかな?」
ステンノーは新型の兵器か、あるいは防御魔法の類を疑う。
現在の防御魔法程度では、最新型のミサイルを防ぐ事は出来ない。
何者かの強大な固有魔法だと考えるべきか。
「魔王ベドラムの背後にいる、あのブラック・ドラゴン………………。多分、奴が何か仕組んでるな。広範囲に渡る防御魔法の類かな」
ステンノーは楽しそうで、そして嬉しそうな顔をしていた。
その瞳は、天真爛漫な子供のガラス玉みたいな瞳をしていた。
彼は人として、根本的な倫理観が何処か欠如していた。
「俺は死そのものだ。この世界の破壊者だ。充分に連中に伝わった筈だ」
ステンノーは現地の中継をドローンで撮影するように、軍人達に告げた。
ドローンに映った“地獄絵図と化した”映像を見て、軍人達の中には涙を流したり、その場で嘔吐する者達も出た。神に祈りを捧げる者もいた。ステンノーはただただ楽しそうに微笑んでいた。




