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天空のリヴァイアサン  作者: 朧塚
独裁国家。エル・ミラージュ
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独裁国家。エル・ミラージュ ソレイユVSステンノー

「ガキの頃。王宮周りに咲いている花が好きでさー。夏頃に咲く紫色の花なんだ。セージの花らしい。凄く綺麗なんだ。ああいう景色を守りたい、って感情が、俺の愛国心の根底なのかもしれないね」


 ステンノーは遠くにある大きな保育園を眺めて、運転手に語っていた。


 子供達の声が聞こえる。

 どうやらサッカーのようなものをやっているらしかった。


「子どもは国の宝だよね。彼らにはエル・ミラージュの国民として穏やかに暮らして欲しい。全国民の幸せこそが俺の幸せなんだ」


「さようですか。ステンノー様」

 運転手は穏やかな笑みを浮かべていた。


 しばらくして、巨大なドーム状の場所へと辿り着く。

 此処はエル・ミラージュ国に存在する“次元橋”。

 政治会談の場所だった。


 ステンノーは車から降りる。

 運転手はうやうやしくステンノーに礼をする。

 

「ありがとう。この国を守る為にクソ野郎と会談してくる。大丈夫。俺は負けない」


 ステンノーは運転手に手を振り、政治会談の場へと向かった。



 室内には観葉植物として色取り取りの花が置かれている。

 壁や天井まで、びっしりと四季の花の造花が並べられていた。


 中には吸血鬼の王、ソレイユが椅子に座っていた。

 周りには付き人である吸血鬼達が何名もいた。

 彼らは黒を基調とした夜会のような衣装を身に付け、腰元には得物を帯刀していた。


「君は独りで来たのかい?」

 ソレイユは訊ねる。


「まあ。一人だよ。お前相手だとボディーガードがいたら巻き込むだけだからね」


 ステンノーは飄々とした顔をしながら、長い髪の毛を弄っていた。


「で。率直な話なんだけど、エル・ミラージュ国は、お前ら吸血鬼と同盟を結ばない。お前らがいるから、マスカレイドはボロボロの格差社会になった」


「私は福祉施設と製薬会社の設立を検討するべきだと思うのだけどね」


「お前らクソ野郎の吸血鬼はそうやって他人を騙す。反吐が出る。福祉施設とか言って中抜きしているし、製薬会社が国民を薬漬けの病人にして医療を負担させる。控えめに言って腐れ外道だよねー」

 ステンノーは少し気怠そうな表情をしていた。


 ソレイユは相変わらず薄ら笑いを浮かべていた。


「ミリシアってメイド。お前の差し金だろ? 俺の周辺を探っていたけどさ」

 ステンノーは、探るように告げる。


「処刑したのかい?」

 ソレイユは薄ら笑いを浮かべ続けていた。


「お前らクズと一緒にするなよ。生かして泳がせているよ。俺の“恐怖による統治”の話も散々聞かせたから少しは委縮してくれたよ。やはり刑罰の話を聞かせるのはよく効くものだな」

 ステンノーは腕組みをする。


「そうかい。君が処刑してくれたら、私に仕えている姉妹であるメリシアの信頼を勝ち取れたんだけどね。エル・ミラージュの王様は、こんなに腐れ外道だったって人間達に教える事が出来た」


「最低のクソ野郎だな。お前。新手のハニー・トラップの亜種かい?」


 ステンノーはまっさらな笑顔で返した。



 しばらくの間、二人の間で言葉の駆け引きが行われる。



 先に真顔になったのはステンノーの方だった。


「エル・ミラージュ国は優生思想だと他の国から言われる。人種差別全開だし、他の国の人間を奴隷か何かとしか思っていない。俺は“悪魔”と呼ばれるし、この前は魔王の役職にまで就いた。俺を怖れる国民も多いだろうさ」


 ステンノーはソレイユを睨み付けていた。


「まあ。何を言われたって構わない。俺はこの国を、国民を愛している。吸血鬼の王。お前がこれ以上、俺の国を強請ろうって言うのなら。俺はお前を始末するだけだ」


 ステンノーは両手から彼の固有魔法である『カコデーモン』を発動させる。


 ソレイユは薄ら笑いを続けていた。


 配下の吸血鬼達が次々とステンノーへと襲い掛かっていく。吸血鬼達は手に剣のようなものを掲げていた。


 ステンノーは彼らの身体に触れる。

 すると、吸血鬼達が石へと変わっていく。

 霧のような形状になったり、全身が血の塊になって肉体を変形させた者達も、そのまま石へと変わっていってしまった。霧になった者は地面へと砂金のように崩れ落ちる。


「ほう。それが君の固有魔法か」

 ソレイユは侮辱するように、煽るようにステンノーの行動を見ていた。


「吸血鬼の王様。お前は俺に襲い掛からないのかい?」


「さて」

 ソレイユは楽しそうな顔をすると、部屋の出口へと向かう。

 ステンノーは警戒心を解かなかった。


「君に私のビジネスの話は無理そうだ。だが、そのうち、良い答えを待っているよ」


 そう言うと、ソレイユは次元橋から離れていく。


 先ほどまで、そこに存在していた痕跡させ消えてしまったように見えた。


「配下を使い捨てるなよ。絶対にお前は信用しないからな」

 ステンノーは腹立たし気に壁を殴る。


「他人の命を金に換える吸血鬼を生かしておくわけにはいかないな。エル・ミラージュが独裁国家である事は認めるが、その裏で吸血鬼や人間のマフィアが利権を得て戦争や経済の発展に便乗した結果、途上国化して貧困や紛争で苦しんでいる国も多い。なんで、偽善者(ソレイユ)は薄ら笑いばかり浮かべているんだろうなあ」


 壁が徐々に石へと変わっていった。

 ステンノーは静かに怒っていた。


「そうだ。この国から薄汚い吸血鬼をあぶり出そう。父上に頼んで皆殺しにして貰おう。やはり吸血鬼はこの国にとっての癌だ。絶対に生かすわけにはいかないな」

 ステンノーは強く決意するのだった。



 次元橋の外では彼の専属の運転手が待っていた。

 ステンノーは車に乗り、そのままとある場所へと向かう事になる。


 数時間後の事だ。

 ステンノーを乗せた車はある場所へと辿り着く。


 そこは軍事基地だった。

 軍事基地の中でも、特別な場所だった。


 置いてある戦車の横には巨大な爆弾が設置されて並んでいる。

 基地の責任者の一人が軍服を着て現れて、ステンノーにうやうやしく頭を下げる。


「核ミサイルの発射ボタンを押すのは気が重いだろう。俺自ら押してやろう」

「ステンノー様自らですか?」

 基地の責任者は驚いた顔をする。


「死刑囚を首吊りとか電気椅子で処刑する時みたいに三人とか四人で、共犯関係でボタンを押してるだろ。それ止めろ。俺自ら一人で押す」


「狙う場所は?」

 責任者の男は訊ねる。


「まだジャベリンと空中要塞には落とさない。周辺国に三本程、ミサイルを撃ち込む。時限式の奴がいい。ボタンを押した後、連中に伝える」

 ステンノーは憎しみも、笑顔も浮かべていなかった。

 ただただ暗い感情がその瞳には込められていた。


「何も貴方様、自ら手を汚さなくてもいいのではないですか?」


「ミサイルのボタンは誰かが押さなければならないだろう? この基地だと罪悪感を中和する為に三人態勢で押す。でも俺は汚れ仕事でも何でもやるから自ら押すよ。それが国家元首の務めだと思う」


「前国王であるザイレス様もそうでした。ステンノー様の御心は本当に恐れ多いものです」


「そうだね。俺はこの国を愛している。だから敵国に悪意を撒く。それがこの国の一番上に立つ者の使命だ。我が国エル・ミラージュと敵対した国がどのような結末になるのか思い知らせなければならない」

 そう言って、ステンノーは核ミサイルを操作する室内へと向かった。

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