独裁国家。エル・ミラージュ スカイオルム包囲。
既に戦争は始まりを告げていた。
空中要塞とエル・ミラージュ。
互いの陣営は、徐々に互いの陣地へと兵士を派兵していっていた。
エル・ミラージュの兵士達はジャベリンの周辺国である海上都市スカイオルムにも侵攻した。スカイオルムをジャベリン侵攻の際の駐屯地にする計画みたいだった。
海上都市全体に大津波が襲い掛かる。
セイレーンや肉食魚、人喰いヤドカリなどといった海の魔物達が次々と集まってくる。何体か海の覇王であるクラーケンの姿や、天空の神の似姿と言われる海蛇の魔物達も集まってくる。
海上都市は阿鼻叫喚に包まれていた。
巨大な戦艦が何体か侵攻軍の中には見えた。
戦艦は巨大なエビやヤドカリの魔物で、背中に軍事基地が作られており、中にはエル・ミラージュの兵士達が待機しているみたいだった。
海の魔物達の背後には、水中を歩く魔王サンテの影があった。
巨大な魚の怪物が暴れ回り、津波が起こっていた。津波によってスカイオルムの建造物は次々と倒壊していき、街全体が水浸しになっていく。
「どうやら海上都市スカイオルムはサンテの海の魔物の軍団に攻められているみたいだねぇ」
漆黒のローブを被った男が通信機で連絡を入れる。
<マジか……。料理がマジで美味い国なのに……>
男は頭の頭巾を取る。
そして懐から魔力感知や諸々の魔法が込められた魔導具である眼鏡を掛ける。
魔王ジュスティスは遥か高い丘の上から海上都市を見下ろしていた。
「僕が撃退しておくよ。既にスカイオルム全体に、以前、ジャベリンに施した封印魔法の方陣を仕掛けておいた。向こうの兵隊達が占拠する頃には僕の魔法は発動するだろう」
<助かる。なあ、ジュスの兄貴―。何でジャベリン側を手助けしてくれるの?>
電話の向こうのオリヴィは嬉しそうな声をしていた。
「手助けしているわけではないよ。ましてやジャベリンや空中要塞の味方でもない。くれぐれも勘違いしないように。ローズ・ガーデンに向かう前に僕の都合で色々やっておく事があってね。その一つがその悪名高き魔法学院の産物である、サンテの魔力、細胞を奪取する必要がある」
<OK。俺の方も時間魔導士の資料が幾つか手に入った。後に合流したら兄貴に渡すぜ>
「君。夜会の魔王。吸血鬼の王、ソレイユとも取引しているね?」
<………………。ああ? 気付かれたのか?>
確認を取った後、ジュスティスは苦笑する。
「地雷原で一人でダンス・パーティーをしたいならお好きにどうぞ。君が誰に首を刎ねられるか見ものだ。ロゼッタ王女か竜の女王ベドラムか。黒竜ディザレシーか。……彼らの仲間達かも…………」
ジュスティスは呆れ声で皮肉を言う。
<俺はヒルフェを殺せればいい。悪魔に幾らでも魂を売るさ>
「人間の言葉に直すと。“裏切り”って呼ぶと思うんだけどねぇ。まあどうでもいいけど」
<吸血鬼の王は話が分かる奴だったよ。あいつ、この戦争でしこたま儲けるつもりだ。ロゼッタとベドラム。そして向こう側はステンノーとサンテが哀れに思えてくるな。故郷だとか仲間だとか理想を掲げている奴も、世界に対する悪意を振りまいている連中も、どっちも滑稽に見えてくるんだろうな>
「ステンノーは悪意。サンテは憎しみで動いているみたいだからね。……でもそれはソレイユみたいなタイプの外道が一番、喜ぶ。他人の正義感も理想論もサディズムも復讐心も、金稼ぎに利用している者が、この戦争で一番、得をする」
<他人の事を外道って、兄貴が言う?>
「僕が言うくらいだから間違いない。ソレイユは外道だよ。闇市場のビジネスモデルの多くは彼のアイデアだ。後は分かるだろう?」
<…………。だろうな>
「ロゼッタ王女様は馬鹿丸出しだよ。僕がいなくなったら、今度は吸血鬼の王に国家を侵略されている。ジャベリンは王族がその程度だから僕の玩具にされたり、吸血鬼のカモにされる」
<あんたはどんなタイプの外道なんだ?>
「僕は他人の悲劇が見たい」
ジュスティスは薄っすらと笑った。
晴れ渡った空のような笑顔だった。
封印魔法によって、次々と水の怪物達の動きが止まっていく。王都ジャベリンでベドラムの力を奪った魔法だ。今度はサンテの軍団を苦しめている。
施された封印魔法は、エル・ミラージュの兵士も、スカイオルムの一般市民も巻き込んでいた。
「さてと。悪夢の魔王サンテのお手並み拝見って処かな」
ジュスティスは隠し持っていたキメラの軍団を解き放ったのだった。




