独裁国家。エル・ミラージュ エル・ミラージュへの入国。
妖艶な露出度の高い服を纏う吸血鬼の美女ミレーヌ。
美しい美貌の金髪を翻しているエルフの美女ラーファ。
あか抜けていないが少し田舎娘の遊び人といった風の人間の美少女エレス。
そして同じくあか抜けていない大国に憧れる田舎娘といった感じのイリシュ。
この四人のパーティーでエル・ミラージュの夜会に潜入する事になった。
マスカレイドまで船に乘り、その後はシルクロードの列車を通って、やっと大国に辿り着いた。ドラゴンで近付ければ、最短時間で行けたのだが、随分と時間が掛かった。
入国審査の時、ボディーチェックを受けて、攻撃魔法のスクロールや武器などは取り上げられてしまった。帰国の時に返却してくれるらしい。だがひとまず、入国する事が出来た。
物価はジャベリンに比べて少し高い。
マスカレイドの安い屋台が嘘のようだ。
街を歩けば車が走っている。
その代わり自然が少ない。
巨大なビル群がそびえ立っている。
「私がガイド代わりに案内出来る場所まで案内するわね」
ミレーヌは派手な露出ながらも、上品そうな口調で三名を案内する。
「あの。最初は何処のお店に行ったら宜しいのでしょうか?」
エルフの女ラーファは戸惑っていた。
「ショッピングモールにでも行こうかしら? 香水やお洋服を買っておく必要があるわ」
ミレーヌは言いながらも、観光ガイドブックを手にしていた。
ガイドブックを片手にミレーヌはショッピングモールへと向かう。
待ちゆく男達が、ミレーヌとラーファの美貌と巨乳に見とれていた。
イリシュとエレスは顔を見合わせて自分達は男達から視線を浴びせられていない事に気付いて、何とも言えない気分になる。
「胸小さいのコンプレックスなのよねー」
エレスは恥ずかしそうに言う。
「気にしなくていいですよ。大切な人が出来たら、相手はそこまで気にしませんし」
イリシュもショーウィンドーに映る自分の胸を見ながら、エレスと同じように自身の貧相な身体に苦笑いをする。
「私が率先してこの身体で男を誘惑するから、ラーファは私の妹分。エレスとイリシュは清楚系で売り込んでね。メイクも私は濃くするから、エレス、イリシュはカジュアルな感じに」
「森にずっと住んでいたエルフとしては、この大都会は少し心躍ります」
ラーファの話し方はおしとやかそうだった。
「あとエレス、イリシュはお酒禁止ね。この街では二十代以下は未成年と言って、お酒に煙草が禁じられている。二十代以上の男性から声を掛けられても、決して愛人にならないように。ジャベリンと同じように考えない事。男をホテルに連れ込む夜の愛人も私だけでやるから、三人はあくまで別の方法でアプローチをかけて」
ミレーヌは男達のナンパを華麗にかわして見せていた。
四名はショッピングモールへと入る。
高級腕時計などが販売されている。
ショーウィンドーにはこの国の女達が好むドレスなどが飾られていた。
バッグを売っている店も見かける。
「四人分、買いましょうか。イリシュはすでに持っているんだっけ?」
「はい。スカイオルムの質屋で手に入れたとロゼッタ様から渡されて」
「バッグは幾つも持っていた方がいいわ。それでこの国の女達は競い合う。男から貰ったって嘘付くのよ」
ミレーヌを覗く三名は、異国の文化に首を傾げているばかりだった。
「花を沢山、あしらえたバッグとかは駄目なのでしょうか?」
ラーファは言う。
「エルフは花を神のように崇めます。儀礼的なものとしても」
「女の子は好きだけど。男受けは悪い。メルヘンふわふわ女と思われる。茶色とか真っ黒な装飾控えめのバッグ買って」
メルヘンふわふわ女という言葉を聞いて、ラーファは困惑しているみたいだった。
「魔導具収納用のナップザックとかは駄目ですか? ダンジョン探索用なんですけど」
エレスは手をあげる。
「国の田舎にある山登りや河でバーベキューでもするのかって思われるから駄目です。野暮ったい女と思われる。もっと遊びに来た風を装わないと」
ミレーヌの言葉に、エレスはしょぼんとしていた。
それから、ミレーヌの計らいで三名共、ファッションやメイクの指導などをされたが、それだけでクタクタになってしまった。
お洒落なランチ店で遅めの昼ご飯を食べる事になる。
パスタやハンバーガー。パフェにカレーが出てくる。
簡素で、余計な装飾の無い清潔感のある店だった。
エレスはジャベリンの居酒屋の雑多で小汚い感じに慣れているので、戸惑う。
「食事の量。少なくないですか。これでは筋肉も付かない…………」
エレスは苦言を呈する。
「この国の女はダイエットと美肌にばかり気を使っているから食事量を制限してるのよ。人間の分際で身の丈にあっていない容姿をいつまでも見繕おうとする」
「すみません。私、無知の馬鹿で…………」
エレスはしゅんとなっていた。
「大丈夫です。この国の女はもっと馬鹿だから。エレスさんなら知的な子って思われる。三人に言うけど、間違っても、政治や歴史の話なんてしない事。とにかく頭が悪い事がこの国の女のステータスなの」
「なんですか? その文化」
イリシュは呆れた。
「ロゼッタ様やベドラム様が、エル・ミラージュに住む女達を馬鹿にし、軽蔑するのはよく分かるわ。剣の鍛錬も出来ないし、一人で店を出して仕事も出来ない。自分達の暮らしの土台になっているのに政治や経済の意見を言う事も出来ない。知的な本なんて読めないから、美容とファッションの本ばかりめくっている」
ミレーヌは甘いサイダーを口にしながら心底、軽蔑したような顔になる。
「二十代半ばに成金と結婚出来ればいいと思ってる。貧民街出身でもない癖に金に執着する。この資本主義大国で大きな事業に手を出して成功した男と結婚して、男の年収の額がそのまんま自分のステータスだと思っている。若いうちにどれだけ男と遊べるか。酒の量を消費出来るかが、女の価値だと思っている。ほんと頭が悪い着飾ったお猿さんみたい」
「辛辣ですね。大都会ってよく分からないです」
ラーファが困った顔をする。
「エルフは百歳でも二百歳でも若者で、美しい容姿を保ち続けているからね。ジャベリンの女の子達は、周辺の小さな村に住んでいる子達はそれぞれの家の代々の職業に就きたがるけど。都会の子は冒険者に憧れる。ジャベリンでは当たり前のように若返りの魔法のスクロールや魔法石が取引されていて、女の子達も男と肩を並べてモンスター退治が出来る。魔法の訓練もしている。いつも世の中の動きにピリピリしながら暮らしている」
ミレーヌは演説でもするように語った。
「この国は上の王族、貴族連中が周辺国から資源を搾り取った結果、頭の中がお花畑の馬鹿女ばかり量産される国になった。核兵器所有の議論一つ出来やしない。街の外壁や武装兵士達が国を十全に守ってくれるから、狂暴なモンスターなんて何処かの世界の出来事だと思って、毎日、遊び歩いている。子育てや税金に悩まされていないし、自分達の贅沢が、途上国化している大量の人々の血肉によって得られている事も分かってない」
「ミレーヌさん、語りますね………………」
イリシュはちょっと引いていた。
「イリシュさん。何か思う処あるのかしら?」
ミレーヌは少し引っ掛かっているみたいだった。
「んー。でも、此処、最近、色々な国に行って、色々な人々や人間、魔族の人達と会って分かったんですよね。外のイメージの内実は違う事が多いなって。国も種族も関係無くて、良い人もいれば、悪い人もいるって。だから一概にその場所に住んでいる人達の文化を否定するのは良くないなって思うんです」
イリシュも力説する。
「まあ。ロゼッタ様とベドラム様は、国のトップだから、敵国をその国の人達含めて、悪く言うしかないんです。敵国の国の人々を考えていたら、戦争なんて出来ませんから。でも、私達は庶民ですから、あの人達と同じ目線では良くないかと……。庶民に対しては、同じ庶民の目線で考えないと…………」
イリシュの表情は真剣だった。
「…………イリシュさん、これまで沢山、騙されてきたでしょ」
「はい…………」
「イリシュさんの言う通りです。とにかく。私はどんな国も素晴らしいと思ってます。エルフの寿命を考えると、人間の寿命は短い。だから物事を多面的に見る必要があるのは分かります」
ラーファがイリシュに加勢した。
「生意気な子ね。修道女。また何度でも騙されるわよ」
ミレーヌの機嫌を損ねたみたいだった。
少し場の空気が悪くなる。
「私が言い過ぎたわね。謝るわ」
先に否を認めたのはミレーヌの方だった。
「吸血鬼は多種族を見下している傾向があるの。私もそう。裏社会でビジネスをしていたり、貴族階級の者達が多いから。……口論で仲間割れしても仕方ないわ。私達は“任務”として此処に来ているから」
「ですね。エル・ミラージュとステンノーの情報を、社交場で探る。それが最優先事項ですからね」
ラーファは朗らかに笑った。
「ついでに観光しに行きたいんですけど、駄目ですかー?」
エレスは空気の読めない発言を、自然体で行っていた。
今度はミレーヌとイリシュの両方から、エレスが睨まれる。
お前、何しに此処に来たのだ、と。
「あ、いえいえ、もちろん、任務優先ですけど。観光大事ですよー。その国の事を知る為にその国で豪遊すれば、見えてくるものがあるって言われましたー!」
「誰に?」
「フリースさんに!」
エレスは無邪気に告げる。
また微妙な空気が流れた。
ラーファはぴりぴりとした空気に冷や汗を流していた。
イリシュはロゼッタとベドラムから、フリースはそのうち“詰める”と聞かされている。ミレーヌは自身の君主であるソレイユから時間魔導士は危険人物だと聞かされている。
「ま。心許ないパーティーだけど。仲良くしましょう」
ミレーヌが呆れ顔で締めた。




