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天空のリヴァイアサン  作者: 朧塚
独裁国家。エル・ミラージュ
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独裁国家。エル・ミラージュ 美麗絵画の部屋。

「イリシュさん。空中要塞にある“絵画室”ってご存じですか?」

 吸血鬼の美女ミレーヌはイリシュに訊ねる。


 スカイオルムの船場から出航し、マスカレイドのシルクロードの列車を通ってエル・ミラージュに向かう事になる。しばらくの間、長い旅路になるので、女四人は色々な雑談に花を咲かせていた。


 空は無数のカモメが飛んでいた。

 何処までも続く水平線が美しく、広大な青が広がっている。海は晴れ渡って白い雲が綿菓子のようにたゆたっていた。


「絵画室ですか?」

 イリシュはきょとんとした顔をする。


「あの御方。絵を集めるのが趣味なんですよね」

 ミレーヌは恐ろし気な表情をしていた。



「ゾートルートの前例があるからな。ミレーヌ。無いと思うけど、パーティーを組んで潜入する前に、お前には見せておかないとな」

 ベドラムは吸血鬼の美女ミレーヌを、空中要塞の地下にある、とある場所へと案内する。


「何を見せてくださるのですか?」

 ミレーヌはドラゴンの女王に訊ねた。


「お前が裏切った時、どうなるかだよ。こっちも吸血鬼に対しては思う処があってな」

 ベドラムはステップでも踏むように歩く。


 部屋には沢山の絵画が飾られていた。

 魔女狩りやギロチン、黒山羊の魔物の絵画などが飾られている。


「実は絵画集めの趣味があってな。これ全部、私のコレクションだ。ソレイユから譲り受けたものもある」


「恐ろしい絵画がお好きなんですね……」


「まあな。うちの母親の代から集めている。湖とか空とか普通の絵もあるんだけどな」


 ミレーヌはある一枚の絵を見て気付く。

 それは巨大な城が描かれ、大量の串刺し刑、車裂きの刑が描かれている絵だった。


「血の匂いがしますわね」


「空中要塞で雇って重大な罪を犯したリザードマンの血と皮膚と骨、臓器を絵具に混ぜた描かれた絵だ。巧みな技巧を持つ竜人の画家に描かせた」


 ベドラムは更にミレーヌを奥へと連れていく。

 そこにはユニコーンに乘った清らかな乙女の絵が描かれていた。

 絵画のタイトルにも『ユニコーンと乙女』と描かれている。

 この絵からも血の匂いがした。


「こっちはオーガを使った。綺麗な絵だろ。この綺麗な絵にはオーガの血肉が使われている。母であるバスティーユは人間を素材にした絵画も描いた。奥にいけば、それらの絵画も並んでいる。“腸巻き器”の絵とかあったな、素材になった者もそういう処刑の仕方をしたらしい。拷問官が生きながら腹を裂いて巻き取る刑だ。美しい容姿をした人間の女の絵だったなあぁ。私が描かせた絵画はまだニ枚って処だな。『城と大剣山』と『ユニコーンと乙女』だけだ」


 ミレーヌは寒気を覚えた。


「ミレーヌ。お前はゾートルートと違い、ソレイユの腹心の部下でも何でもない。城に仕えない吸血鬼の一般市民だ。ソレイユから許可も取ってある。だから“血の償い”も無い。ミレーヌ、もしお前らがイリシュ達を裏切ったら、そうだな」


 ベドラムは指先をミレーヌの額にあてる。


「お前は“スカフィリム”の絵にしてやる。船の上に女が蜂蜜とミルクを塗られ生きながら船に括り付けられて鳥や虫に喰われている絵だ。お前で絵画を作る過程でも同じ事をしてやる。二度と吸血鬼がふざけた真似が出来ないように。この絵画室じゃなくて、会議室の方に飾ってやるからな」

 竜の女王は、ドス黒い憎しみの声を滲ませていた。


「こ、心得ておきます………………」

 ミレーヌは息を飲んだ。



「という事をベドラム様からされたので、私が皆様を裏切るような事をする事はまず無いので、ご安心くださいませ」

 ミレーヌは思い出して半泣きになっていた。


「ベドラム様、怖すぎるんですけど」

 イリシュはミレーヌの話を聞いてドン引きしていた。


「あの御方の優しい側面ばかり見ていたのですね……………。本当に怖い方ですよ…………」


 イリシュは改めてベドラムは“魔王の一角”である事を思い出す。

 魔王は“面子”にこだわる。

 舐められたらおしまいだから、恐れられる存在でなければいけないとイリシュは聞かされている。……もしミレーヌが裏切ったらベドラムはやるだろう。イリシュはゾートルートの件を想い出して震え上がっていた。ディザレシーにも詰められそうになった。彼らを絶対に敵に回してはいけない…………。


「なんなんですか、そのリョナ趣味! 私もちょっと絵画室見たいなあっ! 美女、美少女がそういう事されるのって、控えめに言って、エッチ過ぎますね!」

 エレスは非常識な口調でげらげらと笑っていた。

 エレスの態度を見て、エルフの少女であるリーファがドン引きしていた。

 この人間の女もだいぶ頭のネジが駄目だ、と、リーファは視線で言っていた。


「エレス様。“きっしょ”って、エレス様のあだ名なんですか?」

 リーファは真顔でエレスに訊ねる。

 彼女なりの精一杯の嫌味を言ってみた。


「なにそれ?」

 エレスは首を傾げる。


「いえ。エレス様のお仲間の人間の冒険者達が、よくエレス様に対して使っていたので…………」

「あー。私、気持ち悪いとかキモいとか変態とか、よく男から言われる!」

 エレスは何故か嬉しそうな顔をしていた。


 イリシュは何となく、エレスという少女を見て、マスカレイドで会った殺し屋のシトレーを想い出していた。性的嗜好が歪んでいる感じがして、何となく似ている……。


「というか。ベドラム様、相当、吸血鬼恨んでません?」

 エレスはイリシュの顔をじろじろと眺めていた。


 イリシュはだらだらと汗を流す。


「『傾国の美女』でごめんなさい! 生きていてすみません!」

 今度はイリシュの方が半泣きになっていた。


「そう言えば、ソレイユ様はどうされているんですか?」

 リーファは、ミレーヌに訊ねる。


「せっかく戦争前夜だから、国民を鼓舞する為に、舞踏会をするんですって。参加したかったんですけどね。ベドラム様は“馬鹿じゃないのか、本気かよ。戦中に平和ボケしやがって”って毒づいていました」

 ミレーヌはベドラムの口調を精一杯真似してみる。

 エレスが腹を抱えて笑っていた。


「舞踏会ですか。ロゼッタ様もベドラム様も美しいドレス着ているのかなあ」

 エレスは何故か涎を垂らして、海の向こうをぼうっと眺めていた。

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