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天空のリヴァイアサン  作者: 朧塚
独裁国家。エル・ミラージュ
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独裁国家。エル・ミラージュ 闘技場。戦闘訓練。

 訓練場の闘技場にて、ベドラムとロゼッタ、ダーシャの戦いが始まった。


「ドラゴン形態の私と戦うか?」

 ベドラムは二人に訊ねる。


「そんな事が出来るのか?」

 ダーシャが訊ねる。


「効率は良くない。リベルタスとの戦いも今の人型形態の方が戦いやすかったからな。それにドラゴンの形態になるには、隙が大き過ぎる」


「人型の今とどっちが強いの?」


「当然。単純な強さだけならドラゴン形態。ただ小回りがきかない」


「まあ、いいわ。それで戦う」


「じゃあ。待ってろ」



 ベドラムは闘技場の中央で魔力を解放する。

 ゴシック・ドレスが変形し、彼女の全身が真っ黒な影に埋もれていく。影は巨大化していき、強大な翼が生えていく。


 真っ黒な鱗に、真紅の輝きを持つドラゴンがそこには鎮座していた。


<一応、手加減はしないぞ>


 ドラゴン化したベドラムは、翼を広げて空へと飛び立つ。


 ロゼッタは自身の魔法『アクアリウム』を発動させる。


 ベドラムは大きく口を開けて、ブレス攻撃をする仕草をする。


 ダーシャのいる周辺がいきなり爆撃され、燃え上がった。


「ちょっと待て。ブレス攻撃に見せ掛けた『ゴールデン・ブリッジ』じゃねぇか」


 ダーシャは駆け足で闘技場を駆け抜ける。

 そして矢をベドラムに向かって射ながら、闘技場を飛び出して近くの洞窟へと潜り込む。


<なるほど。そっちは潜伏して私を狙撃するつもりか>


 ベドラムは冷静に状況を分析しながら、闘技場に炎を撒いていく。

 ロゼッタはアクアリウムから放たれる水流で、冷静に炎をかき消していった。


 ……駄目だ。やはりまるで桁違いだ。

 ロゼッタは内心冷や汗をかいていた。

 案の定、戦いになっていない。


 手加減はしないと言っておきながら、充分過ぎるまでに手加減をされている。


 闘技場の外にある森の奥から何本もの矢が放たれていく。矢は正確にベドラムの口を狙っていた。ベドラムは吐息で矢を払い除ける。

 ベドラムは闘技場に前脚を叩き付けると、闘技場がめくれていく。瓦礫がそのまま、ロゼッタへと襲い掛かる。


<駄目だな。お前らはやはり弱過ぎる。こんなんで魔王の一角を倒せると思っているのか?>


 ロゼッタはアクアリウムによる空中に生まれた水族館によって瓦礫を払い除けていった。そしてロゼッタも闘技場の外に出て、森の奥へと逃げる。


<闘技場内で戦って貰わないと困るんだけどな。まあいい。訓練は終了していない。私はゆっくり追うとするよ>

 ベドラムは翼をはためかせながら、森へと向かった。


 この辺りの森にブレス攻撃を行えば、山火事になりかねない。

 ベドラムは救助隊や消火活動にあたる者達の事を考えて、面倒臭そうな顔をする。


<たくっ。他人の事、考えろよ。地形利用たって、そんな小細工が通じるのは、ダンジョン探索でモンスターを狩っている時やゴロツキの夜盗を相手にした時くらいだぞ>


 ベドラムはぼそぼそと呪文の詠唱に入る。


 それは“竜言語”によって生み出される古代魔法だった。

 ドラゴン達は、竜言語による詠唱を使う事によって独自の魔法を使用する事が可能だ。


 詠唱が終わった後、巨大な大竜巻が生まれた。

 巨大な大嵐が森の木々を薙ぎ倒していく。


「おいっ! ちょっと待て! 固有魔法以外にも使えるのかよっ!」

 何処かでダーシャが叫んだ。


<当然だろ。リベルタスとの戦いの時は、使えないと判断したから使わなかっただけだ。相手の手札が一つだけなわけないだろ>

 ベドラムは呆れたように返す。


「そうか。心しておくよ」


 竜巻によって破壊されていく森の中から、稲妻の魔法が撃ち込まれていく。稲妻の魔法に混ざって、毒の霧が巧妙に混ぜられていた。ベドラムは吐息で毒の霧を吹き飛ばしていく。


 追撃として水の刃が撃ち込まれていく。

 ベドラムはそれらを肌の鱗だけで弾き飛ばしていた。


 荒野の岩々が見える場所にダーシャの姿が見えた。

 ベドラムはその姿を見つけると、竜言語による詠唱を始めた。


<もう一種類、古代魔法を教えてやるよ>


 天空から光り輝く太陽のようなものが作られた。

 それは巨大な質量を持った岩の塊だった。


 無数の隕石が荒野へと降り注いでいく。

 荒野には次々とクレーターが生まれていった。


「畜生! まるで手加減なしかよっ!」

 手加減なしの話だったのに、ダーシャの悲鳴が聞こえてきた。


<闘技場も、この辺りの土地も余り壊したくないからな。かなり手加減した隕石の魔法だよ。本気を出せば都市一つが無くなる>


 ベドラムは空を飛びながら、隠れながら襲撃している二人を暗鬱とした表情のまま見下ろしているのだった。



「いくらなんでも、ちょっと弱過ぎるだろ。お前ら」

 ベドラムは呆れ果てたといった顔で闘技場に這いつくばるロゼッタとダーシャの二人を見下ろしていた。ベドラムは元のゴシック・ドレスを纏った人間の女の姿に戻っていた。


 それぞれ森の洞窟に隠れていた二人をカギ爪で引きずり出して、闘技場に連れ戻して叩き付けたのだった。全身を打って二人はまともに立てなくなっているみたいだった。


「これから毎日、訓練してやるって言いたい処だが。私も色々やる事がある。だから私の仲間の幻影使いのドラゴンや竜人と訓練を受けて貰う」

 ベドラムは先行き不安な表情をしていた。


 ロゼッタは地面に仰向きに倒れながらも、ベドラムを睨み付けていた。

 闘志は残っているが、身体がどうしても動かない。

 こんなザマでは悪態も付けなかった。


「一時間と12分って処か。お前ら二人が私と訓練していた時間は」

 ベドラムは懐中時計を手にしながら時間を計っていたみたいだった。


「あー大半が逃げる事に使った時間だけどな」

 ダーシャは悪態を付く。


「この時間、覚えておけよ。逃げながら魔王ヒルフェと戦うんだろ? 一時間12分以内に奴の固有魔法を解明して即座に始末する」

 ベドラムは地面に座り込んだ。


「現時点で奴の固有魔法は幻影の可能性が高いって事以外の情報がない。何なら私より強い可能性もある」


 ロゼッタがジュスティスを上手くはめて倒せたのは、ジュスティスの油断慢心もあったからだろう。好条件が偶然、整い過ぎていた。ヒルフェとの戦いでは間違いなく、上手くいくわけがないだろう。


「何にしろ、お前ら二人共、基礎体術も魔法の基礎的な能力も駄目だ。それを踏まえて、魔王に挑むか考えるべきだな」

 そう言うと、ベドラムは訓練場から立ち去っていった。


 ロゼッタは腹立たし気な顔をしながら、ベドラムの後ろ姿を見ていた。

 アクアリウムによる奇襲を行う体力も魔力も、まるで残っていなかった。


 やはり、現実は厳しい。

 プランを練り直すしかない。

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