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天空のリヴァイアサン  作者: 朧塚
独裁国家。エル・ミラージュ
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独裁国家。エル・ミラージュ オリヴィ達の裏取引。

 数日程前の事だ。

 オリヴィがジャベリンに到着して、しばらくしてロゼッタと鉢合わせになった。


「馬鹿王子さあ」

 ロゼッタは少し冷徹な眼でオリヴィを睨み付ける。


「私達に何か大きな隠し事してない?」

 ロゼッタは胡乱げな表情をしていた。


「なんだよー。誰だって大きな秘密の一つか二つくらいあるだろー。ナンパした浮気相手と一夜を共にした事があるとか。俺は秘密の多い男なんだぜー!」


「最低」

 ロゼッタは軽蔑した眼差しを見せる。


「まあいいわ。貴方は元々、こんなんだったから。じゃあ、エル・ミラージュとの対話の場が設けられた時は頼むわよ」

 ロゼッタは半ば投げ槍に言った。

 一応、ロゼッタは、オリヴィにはエル・ミラージュとの政治交渉などの時が起きた時に、その役割に付くように指示を出していた。


「おーけー!」

 軽薄そうな態度を崩さず、オリヴィはその場を乗り切ったみたいだった。



 真夜中の事だった。


「さてと。これでいいかな」

 ジュスティスは眠っているアリジャから剣を引き抜いた。


 オリヴィは腕を組みながら、その様子を眺めていた。

 

 しばらくして、アリジャが呼吸し始める。

 オリヴィは彼女の頬に手で触れる。


「じゃあ。そろそろ僕は旅立つよ。君も達者でね」


 ジュスティスは寝床の近くにあった机に、解呪用の魔法石を置く。

 この魔法石によって、解呪が出来たとオリヴィに言い訳を偽装させる為だ。

 脚本も出来ている。ブラック・マーケットで運良く入手する事が出来た、と。

 実際、魔法石には、一、二度だけ、あらゆる呪いを解く作用を持っている。これで疑われる事は無いだろう。……本当はこの魔法石ではジュスティスの魔法の呪いを解く事は出来ない。なので、魔法石はロゼッタ達に見せる前に、適当に使わなければならない。


「兄貴。やっぱ、もう少し俺達組まねぇー?」

 オリヴィは訊ねた。

 本音としては、亡命先の国での味方が一人でも多く欲しかった。


「これ以上やると、王女様達を敵に回すよ?」

 倫理の魔王は眼鏡を直しつつ呆れた顔を出す。


「まだ兄貴と組みてぇーんだわ。たとえばだな。時限式の呪いがまだ、アリジャの身体の中に残っているかもしれねぇーだろ。そうなった時に俺は非常に困る。本当にちゃんと治したのか?」

 オリヴィはじと眼でジュスティスを眺めていた。


 倫理の魔王は面倒臭そうに溜め息を付く。


「……………………。口実だね。オリヴィ。僕と関わる事でまだ君にメリットがあるんだろ?」


「ああ。そうだな」


 オリヴィは顎に手を置く。


「俺に何かやって欲しい事とかある?」

 マスカレイドの王子は、交渉事に持ち込む時の目付きになる。


「……………。じゃあ、時間魔導士フリースが手にしているローズ・ガーデンに関する研究書物の複写が欲しい。研究データなどが出てきたら最高だね」


「フリースって女が持っている分、全部か?」


「いや、それは難しいだろう。一部だけでいいよ。天体観測所に侵入してコピーを取ってきて欲しい」


「手に入ったら、いつ渡せばいい?」


「僕はもうこの国を出る。だからいつでもいいよ」

 ジュスティスは気怠そうに言った。


「ローズ・ガーデンに行って何するんだ?」


「新たな混沌…………。まあ面白い事が無いか探しに行くんだよ。正直、ベドラム達とステンノー達の争いに巻き込まれたくもないしね。狂った独裁国家同士の争いに巻き込まれたくなんてないよ」


「この戦争、どうなると思う?」


「どっちかの頭が全滅するまで続くだろうね。僕は今は関わりたくないね」

 ジュスティスは深く溜め息を付いた。


「兄貴も魔王の一角だろ。溜め息ばかりで。こんな面白い見世物、参加しないのか?」


「いや。僕は力を付けに行くよ。キメラの兵隊もほぼ残っていない」


「そうか。まあ達者でな」


 ジュスティスは手を振って、その場を去っていった。


「はあ……。人間も魔族も手酷くやられると消極的になるものなのかねえぇー。ロゼッタ達から聞いていた話の兄貴のイメージなら、第三勢力としてこの戦争を引っ掻き回すくらいやって欲しいもんだけどねぇー」

 オリヴィは独り言を言いながら、自分の立場がいかに危ないか気付いていた。

 

 オリヴィは故郷から第一級犯罪者として追われている。

 正直、ジャベリンに亡命した身としても、戦争中のマスカレイドの王子という事で危うい。このまま戦争が長引けば国民の感情が祖国に対してどれ程のものになるか分からない。そうなった時にオリヴィの立場は必然的により危うくなっていく。


 ディザレシーから言われた事だが。

 オリヴィの立場は“自分に周りから利用価値がある”と思われなければ、いつ、そのままの意味で首を刎ねられてもおかしくないのだ。


「…………。だからこっちから、進んでリスクを取らせて貰うぜ。まずは吸血鬼の王に自分を売り込んでみようかな? あいつは相当にしたたかな悪人の匂いがする。俺様と話が合いそうだぜ!」


 オリヴィはそう独り言をぼやきながら、吸血鬼の街へと向かう事に決めた。

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