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天空のリヴァイアサン  作者: 朧塚
絹の道、シルクロード
65/109

間章 ダンジョン探索。

 冒険者の酒場にて。


「ベドラム様とディザレシー様が“竜を倒せる英雄”を募っているそうよー。自らがドラゴンの王なのに、なんでそんな事するのかなー?」

 若い魔法使いであるエレスは楽しそうに笑う。


「ドラゴン倒せれば、ベヒーモスやクラーケンみたいな最上級モンスターも倒せるからな。竜の王様的には自分達に追い付く味方いないと困るって感じなんだろ」

 若き人間の男剣士であるカーディはエールを飲みながら、酒臭い吐息を吐く。


「しかし、この前のダンジョン探索はあまり収穫が無かったね。僕の取り分はエメラルドの指輪一つってのは納得行かないよー」

 猫耳を生やした獣人族の少女サラナは不満たらたらだった。


「酒場で豪遊したら無くなる程度の紙幣しか貰えなかったぞ」

 カーディはグチグチと不満げに言う。


「私はちょっと得したかも。貰った魔法石には雷魔法の威力を倍加し、魔力消費量を下げる力がこもっていた」

 エレスはそんな事を言う。


「エレスー。お前が一番、得してるじゃねーかー」

 カーディは気怠そうな顔をする。



「ドラゴンを倒せる英雄とやらは、ワシがなってやろう!」

 酒場で酔っぱらっている老年の冒険者が自信過剰に言う。

 彼の名はヴァンネットと言って、自意識過剰な発言やセクハラ発言を繰り返して、若い冒険者達から蔑みの眼で見られていた。


「なんだ。この前、ベドラム様に平伏して椅子にされていた奴か」

 カーディは鼻で笑う。


「あの場は若人共がいただろう! 竜の女王が暴れたら、貴様らに身の危険が及ぶっ! あえて屈辱的に屈したまでよ! 守るべき者がいない一対一の決闘ならば、あのような女など…………!」


「はいはい。空中要塞はいつでも決闘を募っているらしいから、まずベドラムに喧嘩売る前に仲間の若いレッド・ドラゴンの一体にでも勝てるようになってな。俺には無理だなー」

 カーディは大欠伸をする。


「有言実行ですよ! ヴァン様!」

 エレスは禿頭の男に煽るように言った。


「しかし、ベドラム様に踏まれるなど羨ましい。私に代わって欲しかった!」

 エレスは素で変態発言を述べる。


「何なのオマエ?」

「いや。私、ベドラム様の城でベドラム様に蔑みの眼で見られながら、ベドラム様のお洋服を洗濯したり、服の匂い嗅いだり、靴磨きをしたりする夢妄想をしてます! ベドラム様に毎日、罵倒されたいなあ」


「……きっしょ。お前、マゾなの?」

 カーディは呆れた顔をする。


「ベドラム様のお靴の裏を舐めたい」

 エレスはとろん、と涎を垂らしていた。


「気持ち悪い女だね。これでもくらえ」

 獣娘のサラナは、エレスに消臭剤を吹っ掛ける。


「なんでなんですか! 強くて格好いい女性とかオンナの憧れじゃないですか!」


「お前はきもいよ、エレス。美少女じゃなかったら、パーティーから追放して、ついでに警備兵にしょっぴいて貰っている」

 カーディは辛辣に告げた。


「えー。カーディさん、男なら分かるでしょう。ベドラム様が嫌なら、ロゼッタ様に全身を縛られて、人格否定されながら鞭で叩かれたり、顔を踏まれたりしたいと思えませんか? 後、控えめに言って、ロゼッタ様の入った湯舟の残り湯が飲みたい!」

 エレスはだらだらと涎を垂らしながら、変な妄想に耽っているみたいだった。


「お前、今日からパーティー追放な。マジで気持ち悪いわ」

 カーディは心底、軽蔑の視線をエレスに送っていた。


「同性愛に理解はあるけど。僕も気持ち悪いと思うな」

 サラナは小さな体躯でエールのジョッキを一気飲みしていた。


 エレスがなおも変な性癖を声高に叫んでいたが、カーディとサラナは全力で無視していた。


「さてと。明後日にはダンジョン探索に行かないとな。お前ら準備は出来ているか? 出来れば、新しく実力のある奴をパーティーに入れたいんだけどな」

 カーディはふうっと溜め息を付く。

 もう少し危険なダンジョンに潜らなければ路銀を稼げない。

 冒険者というのはその日暮らしなので、つねに金に困っている。


「明後日は『邪蜥蜴(ダーク・リザード)の回廊』に向かおうと思っている」

「えっ」

「マジで言っているの?」

「マジ。大マジ。危険なモンスターが出るが、それだけ他の冒険者に荒らされていない。もう少しダンジョンの奥深くまで潜りたい」


「なあ。その話、乘ってもいいか?」

 エルフの青年が現れて、カーディ達のテーブルにエールを置いた。


「俺もパーティーに加わっていいか?」


 ロゼッタ達の下で動いているエルフの青年のダーシャだ。

 ロゼッタ達から認められている為に国の極秘任務に就いていると聞かされている。


「えっ。ダーシャさんが付いてきてくださるんですか?」

 エレスは驚いた顔をしていた。


「頼もしいな。本当に俺らのパーティーでいいのか?」

 カーディは訊ねる。


「この前、マスカレイドで実力不足を感じた。ちょうどレベルアップの為にお前らのパーティーに加わりたい」


「いいけど…………。リーダーとして言っておくと、足手纏いになるなよ?」

 カーディはおそるおそる告げる。


「お互いにな。仲良くしていこうぜ」

 ダーシャはエールを飲み干した。



『邪蜥蜴の回廊』。


 そこは地下四階までしか踏破されていないダンジョンだった。

 強力なダーク・リザードが徘徊し、レッサー・デーモンまで生息している。

 更にオーガ達の集落が存在していると聞いている。

 帰ってこられなかった冒険者も多い。


 四名は念の為に脱出魔法の込められた魔法石を手にして、地下へと潜った。

 

「ランプを落としたら何も視えなくなるな」

 ダーシャは慎重に階段を下っていく。


 巨大な地下の大空洞が広がっている。


 大量のコウモリが天井に群がっており、鬼火(ウィル・オ・ウィスプ)が当たり前のように徘徊していた。


 エレスが魔法の杖を向けて、ウィル・オ・ウィスプを撃ち落とす事にする。

 鬼火はエレスの電撃の魔法を受けて、ショートして霧散していった。


「ウィル・オ・ウィスプに近付かれたら、それを狼煙に他の狂暴なモンスターが大量に寄ってくるからな。見つけたら確実に始末しないと」

 カーディは慎重に階段を下っていく。


「湖底には沼魚人(サハギン)も生息していたそうだよ。群れるとやっかいで水に引きずり込まれる」

 エレスはおどおどした顔をしていた。


「レッサー・デーモンと同時に遭遇した時が一番やっかいだな」


「モンスターの知識が豊富で助かるよ」

 ダーシャは素直にこのパーティーに賞賛を送った。


「正直、森の怪物と戦ったり。後は人間相手に立ち回ったり、ドラゴン相手の戦闘訓練くらいしかしていない。マジで俺、迷惑掛けるかもしれないな」

 ダーシャは素直に心境を語った。


「まあダンジョンのモンスターは色々いるからな。その辺りは俺達の方が経験豊富かもな」

 カーディは慎重に辺りを警戒しながら、岩場を降りていく。

 

 カーディは岩場の下を一瞥して舌打ちする。


 岩場の下には巨大な黒い鱗の大トカゲが徘徊していたからだ。


「マジか。ダーク・リザード・ロードだ。こんな地上付近の場所まで来やがって。普段は地下四階をうろうろしてやがるって聞いているのに」

 カーディは頭を抱えた。


「ヤバいのか?」

 ダーシャは訊ねる。


「このダンジョンのボスみたいなもんだよ。人肉を好み、嗅覚も優れている。今の俺達で勝てるかどうか………………」


「隠密行動で逃げられるかな」


「日を改めて帰りたい」


「出来れば、今日、ダンジョンを踏破したいんだけどな」

 ダーシャは告げる。


「無茶言うなよ…………。せめてこのフロアで行くのは避けよう。間違ってもあの黒い大トカゲを刺激するなよ」


「分かった」

 ダーシャは頷く。



 一度、入り口に戻って、別の入り口から中へ入り直す事になった。


 別の入り口では、四足歩行の魔獣であるレッサー・デーモンが一体、徘徊していた。動き自体はベヒーモスに近い。ベヒーモスの方がより強大である為に、この魔獣を倒すのは容易だった。


 ダーシャが矢を放ち、エレスが追撃の電撃魔法を放つ。

 そして、トドメとしてサラナは腹を裂き、カーディが首を落とした。

 

「こいつの爪は闇属性魔導具の素材として使われる。鑑定屋に持っていけばそれなりに売れるぞ」

 カーディはレッサー・デーモンの爪を剥いでいく。


「さてと。そろそろ、ダンジョンを出るか」

 カーディは楽しそうに言う。


「ダーク・リザード・ロードは倒さないのか?」

 ダーシャは訊ねる。


「んいや。俺ら冒険者はリスクを必要以上に背負わねぇー。何事も命あってものものだねだからなー」

 そう言うと、カーディは早々とダンジョンを来た道に戻ろうとする。


「俺は修練の為に、お前らのパーティーに入った。だから倒しておきたい」

 ダーシャは告げる。


「…………。勝手にしろよ。その代わり、一度、ダンジョンの外に出てからだからな」

 カーディは吐き捨てるように言った。


「せっかくだから、私もダーク・リザード・ロード討伐に参加していいかな? ダーシャ君!」

 雷の魔法を使うエレスだけは楽しそうな顔をしていた。


「おい。エレス。死んでも知らねぇーからな」


「うん、分かってる!」



「自己責任だからな?」

 カーディは呆れたように言った。



 ダーシャは弓矢に毒を塗って狙撃して、エレスは雷の魔法を撃ち込み続ける。


 エレスは電撃で牽制しながら、ダーシャは的確に上級モンスターの急所を狙っていく。何本か矢が腹部に刺さった後、ダーク・リザード・ロードは倒れた。


 ダーシャはしばらく、動かない怪物の死体を眺めていた。


「あの魔王もこんな風に上手く倒せればいいんだけどなあ」

 ダーシャはしばらく考え込む。


「それより、ダーク・リザード・ロードの爪は武器にもなる最高級品だよ! 私はとっても嬉しいなー!」

 エレスははしゃいで叫んでいた。


 エレスが近付くと、巨大な黒い鱗の大トカゲは起き上がり死んだフリを止める。


 ダーシャは即座に矢を射る態勢へと入った。

 大トカゲがエレスの全身を飲み込もうとした。

 エレスは強力な稲妻の魔法を解き放つ。


 後には、頭部が黒焦げた大トカゲの死骸が残っていた。


「死んだフリとかするのか。これも策略みたいなものだよなあ」

 ダーシャは黒き大トカゲの死骸を眺めながら考え込んでいた。


 エレスは楽しそうに爪をはぎ取っていく。


 ダーシャは大トカゲの死骸を見ながら、物想いに耽っていた。

 魔王ヒルフェはこんなものじゃないだろう。

 どうすれば戦えるのか、まるで手立てが見えない。


「本当に憎い奴が動物みたいな動きしかしなかったら、良かったんだけどなあ」

 陽気な表情をしながら、戦利品を手にしてパーティーの仲間達の下に帰ろうとするエレスを眺めながらダーシャは顎に手を置いていた。



「すげぇーな、やっぱり、お前ら。ダーク・リザード・ロードを倒したのか」

 パーティーのリーダーを務めているカーディは意外にも、エレスとダーシャに賞賛の声を上げていた。


「冒険者って、案外、臆病なものなんだな」

 ダーシャは少し嫌味っぽく、カーディに突っかかってみる。


「臆病なもんだよ。臆病なくらいじゃなければ、すぐに死ぬ。俺の故郷の“バグナグ”に住んでいるクソ親父から、冒険者になる際に、そう教えられた」

 カーディは飄々とした口調で返す。


 エレスもかなりの腕の持ち主だったが、このカーディという青年も底が分からない。

 ダーシャは魔王ヒルフェを倒せる人材を探している。


 カーディとエレスはその人材になり得るかもしれない。


「まあ。何か色々、考え込んでいるみたいだけどさ。今日はひとまず酒を飲もうぜ。お前らが黒い大トカゲを倒してくれたから、しばらくは冒険の資金になりそうだ」

 カーディは居酒屋で大量の酒と食事を注文する。


「あ、ああ」

 ダーシャは明るく笑う事にした。

 暗い表情をなるべく見せないようにしても、どうしても出てしまう。


 新たに出来た仲間達と、しばし初陣の祝いでもする事にした。


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― 新着の感想 ―
シルクロード編読み終わりました! サンテのシトレーへの想いが意外と重そうなのがエモかったです! 結構色んなものの積み上げの章というイメージでしたが、次の章で色々と爆発しそうなのが楽しみです。
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