表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天空のリヴァイアサン  作者: 朧塚
絹の道、シルクロード
55/109

絹の道、シルクロード 新たなる魔王の戴冠。

 エル・ミラージュの真昼。

 二人の客人が城へと現れる。

 国王である、ザイレスはその顔触れに辟易していた。


 ステンノーの玉座の前には、二人の者が立っていた。


 悪夢の魔王サンテ。

 陰謀の魔王ヒルフェ。


 そして二人の背後には、裏社会の王であるシンチェーロとマスカレイドの国王がいた。

 ステンノーの背後にはエル・ミラージュの国王であるザイレスが佇んでいる。


「ステンノー王子。私達はあんたを新たな魔王として戴冠させたい」

 サンテはくすんだ瞳で告げる。


「俺が魔王になったとして、俺に何のメリットがある?」

 ステンノーは二人に訊ねた。


「世界の覇権を握りやすくなるよ。より多くの者達がお前に従うだろうなぁ。魔族の多くがお前の下に付くだろうなぁ」

 サンテは楽しそうに両腕を広げる。


「それは楽しそうだね。でも、少し考えさせて貰えないか?」



「考える時間は充分に与える。だがステンノー。魔王ベドラムと同盟者である吸血鬼の王ソレイユはお前と、エル・ミラージュを敵視している。どの道、戦争は免れないだろう」

 ヒルフェは少し楽しそうな顔をしていた。


「お前ら二人と、この俺が同盟を結べ、という事か」

 ステンノーはすぐに理解したみたいだった。


「そういう事になるな。お前が魔王として戴冠してくれるのならば、よりスムーズに行く」


 ヒルフェはこつこつと歩き出す。

 巨大な大地図が壁に貼られていた。


「この世界を支配する上で。ステンノー。エル・ミラージュの王子よ。お前はこの世界を手中に収められるのだぞ?」


「敵はドラゴン。吸血鬼の軍団なんだな?」

 国王を務めているザイレスが口を挟む。


「そうだ。そしてエルフ、ジャベリンの人間共。ミノタウロスやリザードマン達といった処かな」


「連合を結ぶというわけか。お前達と」


「ああ。この私は海を支配している、私の軍団を味方に付けるのは、あんたらにとって大きなメリットがある筈だ」

 サンテは舌なめずりをしていた。


「魔王の戴冠の儀式が必要なのだろう。すぐに済まそう」


 ステンノーはすぐに決断していた。


 玉座の外で待機していたシトレーは、少し怯えた顔で玉座の中を覗いていた。隣には桃色の髪の毛をしたメイド、ミリシアが佇んでいた。


 サンテは右手によって自身の魔力を掲げていた。

 ヒルフェは左手から自らの魔力を迸らせている。


「どうすればいい?」

 ステンノーは二人に訊ねる。


「新たなる魔王の戴冠に際して、色々な作法があるが。かつての大魔王の秩序によれば、他の魔王達から魔力を贈与されて、認められるという儀式をした」

 ヒルフェが説明する。


「もっともソレイユの場合は勝手に名乗り出たのだがな。あれは特殊な例だ」


「ふうん。色々あるんだね」

 ステンノーは興味深そうな顔をしていた。


「まあいいよ。俺の両手に触れて」

 ステンノーは両手を広げる。

 石化の魔力が篭っている両腕だ。


 サンテは構わずステンノーの右手に自らの右手を重ねた。

 ヒルフェも同じように、彼の左手に自らの左手を重ねる。

 三者の魔力が絡まり合い、城一帯に波状に帯びていく。

 十数分程、続いたのだろうか。


 ステンノーは溢れかえる程の魔力に満ち溢れていた。

 魔族特有の魔力を、彼に授与したみたいだった。


「不思議な気分だ。人では無くなったような。不思議な感じ」

 ステンノーの両腕の掌には、魔法陣状の傷が出来て、そこから血が溢れ出していた。


「いずれそうなる。これより、人間の王であるステンノーは魔界の王。“魔王”として戴冠する事になった。そうだな…………」

 ヒルフェは顎鬚を撫でながら考える。


「『静寂と平穏の魔王』という称号を与えよう。ステンノー。これから、お前はこの世界に“平穏”をもたらすのだ。お前好みにこの世界をデザインしてくれ」


 ステンノーは自身の魔力を確かめる。

 確かに、自らの力は“魔”のものへと変わっていく感覚に気付いていた。


「俺はこれから、この世界に平穏をもたらす魔王か。本当に素晴らしい事だね」

 ステンノーは嬉しそうに言った。


 国王ザイレスは息を飲む。

 これから、戦争が始まるだろう。

 相手はドラゴンと吸血鬼の軍団。

 それに人間達や少数のエルフ、他、亜人達がくっ付いている。

 沢山の者達の血が流れる。


 ステンノーは残忍な表情で、玉座の外に出て街並みを見ていた。

 光が刺し込んでいるにも関わらず、暗雲が立ち込めていた。


「俺もこの世界を征服する宣言を行うよ。いいかな?」

 新たに魔王として戴冠した男は言う。


「私はそれを望んでいたのさ。存分に暴れて、存分にこの世界を蹂躙しようじゃないか」

 サンテは腹を抱えて笑っていた。

 

 シトレーとミリシアの二人が、居心地が悪そうに、三人の魔王達をそれぞれ眺めていた。


 ステンノーの瞳には、エル・ミラージュとマスカレイドを繋ぐ大砂漠である絹の道、『シルクロード』の先が見えていた。



 ステンノーが新たな魔王として戴冠した事は、世界中に映像魔法を通して広がった。


 光の月と闇の月。

 人間と魔族の戦争の時代が完全に終わりを告げた。


 これからは新たなる時代が始まる。

 新たなる戦争の時代が幕を開けたのだった。


 空中要塞に訪れていたロゼッタは、ベドラムと共に地平線の彼方を眺めていた。


「新たなる戦争が始まろうとしているな」

「ベドラム。貴方のせいだからね」

「違いないな。だが、どの道、ずっとこの世界は冷戦状態だった。つねに張り詰めていた」

 ベドラムはふん、と鼻を鳴らす。


「こちらからの先制攻撃は行わない。エル・ミラージュ。そしてサンテとヒルフェ。連中もこの世界の覇権を握りたがっている。少なくともこの私は先制攻撃を行わない。連中がどのように攻めてくるか、迎撃を考えている」


「私の望みは、ずっと冷戦状態を長引かせる事を考えているわ」

 ロゼッタは冷たく言い放った。


「お前のそれも賢い選択なんだろうな」


「でも、もし私の国、ジャベリンに手を出したら」

 ロゼッタは怒りに満ちた表情を見せていた。


「全員、倒してやるわ」

 ロゼッタの眼は本気だった。


「その時はお前は陰謀の魔王ヒルフェを殺せ。私はサンテを殺す」

 ベドラムは淡々と戦略を練っているみたいだった。


「海の魔王とはご友人じゃなかったの?」

 ロゼッタは首を傾げる。


「形だけ停戦協定を結んでいただけだ。こうなった以上、私とサンテは殺し合うしかない。いつかそうなるだろうと思っていた。相性の問題としても、サンテは物量と威力で押してくるタイプだ。策略を練ってくるタイプのヒルフェは、お前が狙う方がいい」


「ステンノーは誰が始末する?」

 ロゼッタは映像魔法によって、目に焼き付いた鼻もちならない顔の王子の姿を見て、どう戦うかを考えていた。


「ステンノーは石化の魔法を使う。石になった者は二度と戻らない。死ぬ事に等しい。物質変換系の魔法だろうな。奴の実力は未知数だが、何名かに頼んで始末して貰う。それでいこうと考えている」

 ベドラムは何名かのメンバーの顔を思い描いているみたいだった。


 こちらの魔王城である空中要塞。

 はるか彼方にある、人間達の黄金の城、エル・ミラージュの『ブラス・シティ』。

 今後、互いに睨み合う事になるだろう。


 ロゼッタは、少しでも、本格的な戦争による互いの攻撃が始まる事を遅らせる事を考えていた。……ドラゴンがジャベリンを襲った時から、戦争の悲惨さは知っているつもりだ。


 そして…………。

 ジャベリンを守る為に、いずれベドラムを倒す事も視野に入れなければならない。そしてロゼッタの思惑に、ベドラムは気付いている筈だ…………。だが、今はまだ表面上、味方である事を取り繕わなければならない。


「女同士の友情は、嘘が多いわね」

 ロゼッタは小さく呟いた。

 ベドラムに聞こえていたかは分からない。

 何処までいっても、ロゼッタにとって竜の女王は仲間達の仇でしかない。

 

 正攻法でやれば負ける。

 後ろから刃物で首を落とせば殺せるか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ