絹の道、シルクロード 再び。マスカレイドに。
1
イリシュはダーシャと共に、再びマスカレイドへと向かっていた。
オリヴィを探す為に。
彼の無事と確認し、彼と再会する為に。
再びスカイオルムの海上都市に向かい、船によって旅立っていた。
一週間程して、ようやくマスカレイドの地へと降り立つ。
「しかし。お前の処の王女様は太っ腹だな。路銀をかなり出してくれて」
海上都市と船内で、海の幸を沢山、口にしたダーシャはかなりのご満悦な顔をしていた。
「そうですか……? 馬鹿王子の事は私の知った事じゃないって辛辣に言ってましたよ」
今回は海が前回よりも荒れ狂っていた。
「後。オリヴィの詳細がまったく分からないから。助けようも無いって言っておりました」
「ロゼッタ。たまにベドラムより冷たいからなあ。政とか色々、しがらみがあるんだろ。偉い魔王様の前に、お前らは普通に一国の王女に良くして貰っていい身分じゃねーかよ」
ダーシャは相変わらず、何処吹く風といった態度をしていた。
「取り合えず、情報収集だな。オリヴィの姿形を見て貰おうしかないな。写真とか無ぇの?」
イリシュは震えていた。
「ひょっとして、写真無ぇの?」
イリシュは、こくこくと頷く。
「地道に聞いて訊ねるしかねぇか」
ダーシャは波止場のベンチに座り込む。
辺り一帯には、沢山の人々の群れがあった。世界中から集まってきている。
「こ、こんな時、こんな時、きっと、オリヴィさんと偶然知り合いの人とかと出会うんですよ……! も、物語の、て、鉄則ですから…………!」
イリシュは引き攣った笑みを浮かべていた。
「小説や絵本や漫画の読み過ぎだっつーの。……探偵にでも依頼するか…………」
ダーシャは不貞腐れていた。
「まあ時間はたっぷりある。俺達はな。色々、考えようぜ」
ダーシャは大あくびをする。
「そ、そう言えば、オリヴィさんが寄っていた古道具屋さんの家がありました」
「あ。じゃあ、そこ行くしかねぇか」
†
ダズーという者が経営している古道具屋に辿り着いた。
店は閉店していた。
「おい。本当に此処の古道具屋で当たっているんだろうな?」
ダーシャは疑わし気にイリシュを見る。
「当たっています。夜になれば、開いていたから、夜しか開かないのかも…………」
そう言って、二人が去ろうとすると。
「お嬢さん。オリヴィ様と一緒に来ていた人ですよね、入ってください」
古道具屋の商人が現れる。
恰幅のいい男性だった。
そして、少しくたびれた顔をしている。
「あんたが、ダズーさんか。感知魔法を扉に掛けていたな」
ダーシャは訊ねる。
商人は頷いた。
「はい。最近、色々と物騒でして」
「心中察するよ」
イリシュとダーシャは古道具屋の中へと案内される。
二人はこれまでの経緯を、古道具屋の主人に話した。
「そうですか。わたしの方でも、オリヴィ様の素性は分かりません」
「アリジャは預かっているわ。本当はアリジャの眼を覚ましてから、オリヴィに会わせたかったのだけど…………」
「そうですか……。あれから色々な事がありまして」
オリヴィは案の定、裏社会を敵に回してしまったらしい。
こちらに何名もの裏社会の者達が訪れたが、ダズーは居場所は分からないとしか答えられなかった。
「諜報員達に、記憶を辿る魔法を使える者がいて助かりました。でなければ、わたしは拷問を受けていたでしょうから…………」
ダズーはがっくりと項垂れていた。
「分からねぇーか。おいイリシュ、地道に聞き込んで回るしかねぇな」
ダーシャは本当に気怠そうな顔をする。
「後。奴が他に行きそうな場所って無ぇの?」
「そうですね…………。オリヴィさんにはマスカレイドの夜市を見せていただきましたから。そこにいるかも。」
「人の眼に付く場所にいるもんかねえ。探知魔法とかあればいいんだけど…………。てか、その探知魔法でとっくに追っ手の連中に捕まっている可能性が高いと思うんだけどなあ」
イリシュの事情を知っている身としては、最悪な事を考えてしまう。
とっくにオリヴィは生きていないんじゃないのか……?
魔王ヒルフェは、そんな甘い奴なのか?
……いや、諦めるのは良くない。
イリシュとダーシャは店の外に出る。
遠くでは、夜市の辺りにある巨大観覧車がネオンライトを出していた。
「オリヴィさんと観覧車、乘ってみたかったなあ…………」
イリシュは物想いに耽っていた。
「また……。大切な人間を失うのは嫌だな。そうだな、探そう」
吸血鬼の王ソレイユは、マスカレイドの裏社会を抑え込むと言ってくれた。イリシュとダーシャの身は安全だろう。
だが、オリヴィという人間の命は保証出来ないと言われた。
「俺は裏社会の情報網を探す。その前にイリシュ、取り合えず、今日は宿を取ろう」
ダーシャは小さく溜め息を付いた。
「よければ。わたしの部屋の二階に泊まっていきませんか?」
古道具屋の店主である、ダズーは二人に声を掛ける。
「ああ。そうだな。ありがたい」
そして。
結局、イリシュとダーシャはこの汚らしい店の二階を掃除させられる羽目になった。毛布にダニが湧いたりしていて、買い出しにも付き合わされた。ダズーは、わたしならこのくらい平気なんですがね、と言っていたが、二人共、蜘蛛の巣が張っている部屋を寝床にはしたくなかった。
「畜生が。宿代代わりに掃除させやがって」
ダーシャは腹立たしく言う。
「いいじゃないですか。人助けみたいで」
「俺は人助けの旅に来たわけじゃねぇからな」
ダーシャは相変わらず不貞腐れていた。




