吸血鬼の街、イモータリス 不滅の王と竜の王。2
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そしてドラゴンと吸血鬼の争いは「終結」という名の「冷戦状態」を迎える事となった。
ソレイユはその後、新たなる魔王になる準備を始めた。
純粋な心を持つ教会のシスターであるイリシュが、空中要塞最強格のドラゴンである黒竜ディザレシーからの怒りを向けられた事に対して、身を持って知るのは、もう少し後の事になる…………。
ソレイユの下には、新たな贈り物が送られてきた。
今回は、仲間の吸血鬼を通してだ。
贈り物は小箱に入っており、中には、色取り取りの花冠と手紙が添えられていた。
花は空中要塞の庭園で咲いているものから摘まれたものだろう。
手紙にはベドラムらしい、不器用な内容が添えられていた。
‐吸血鬼とドラゴン。私達の戦争はこれで終わりにしよう。お前が魔王として戴冠する事を認めるよ。その為の花冠だ。これから私は世界征服に向けて人間界に対して行動を起こす。お前が魔王になれば、他の魔族達も、こぞって魔王になろうとするかもしれないが。そっちの方はお前が責任持って対処してくれ。じゃあな、友人。共に自分達の仲間や家族の為に、自らの信念を貫いていこう。‐
手紙を読み終わった後、ソレイユは口元を抑えた。
玉座から立ち上がった後、ソレイユは大笑いをする。
「馬鹿が! 全部、私の策略通りだ。私もドラゴンと戦争をするつもりは無い。ドラゴンの強さは身に沁みて知っているつもりだ。お前の性格も幼少期からよく知っている! 私は魔王として君臨させて貰うよ。全部、私の都合の良いように向かった。ドラゴンの王は、私と戦争するつもりが無い事も分かっていた。全部、私の目論見通りだ!」
ソレイユは顔を抑え高らかに笑っていた。
人間のメイドのメリシアが、ソレイユの態度に対して困惑していた。
「ソレイユ様…………」
メリシアは困惑したような表情になる。
ソレイユは立ち上がり、私室へと向かった。
「おい、人間のメイド。今は私を一人にしてくれないか?」
ソレイユは掌で顔を覆っていた。
「どう、されました…………?」
メリシアは困惑する。
「いや…………。ベドラムは本当に馬鹿だと思ってな。吸血鬼は人間の裏社会と通じている。人間のマフィア共と蜜月になっている。あらゆる非道なビジネスに取り組んでいる。私からすれば、ドラゴンは暴力こそ掲げているとは言え、…………政治交渉はヘタクソで、少々、純粋過ぎると思ってな…………。我々は、時には仲間だって政治の道具の為に、平気で切り捨てる種族だ。ドラゴンにはそれが出来ない。連中は、馬鹿な種族だと思ってな」
「ソレイユ様…………」
メリシアは彼の事を知っている。
ソレイユの優しい部分も知っている。
「メリシア」
「はい」
「ドラゴンの王様の為に、礼として上等なワインを送ってくれ。あの女はアルコール度数の高いものを嫌う。脳を鈍らせると言って、ドラッグなどの類も、固く空中要塞では禁じている。だから、奴好みのワインだ」
「……………………。毒でも盛るんですか?」
メリシアは困惑していた。
「そんな事はしないさ。第一、さすがに毒見掛かりが付いているだろう。贈るのは、奴と祝杯をあげた時のワインだ。ラズベリー味の、甘いものだ………………」
そう言って、吸血鬼の王は私室の中へと一人、入っていった。
「世界を統治する際に、歓楽都市マスカレイドなどの裏社会までも、統治するならば、……人間という種族に絶望しないようにして欲しいものだな!」
ソレイユは部屋の中で、そう大声で叫んだ後、静かになった。
そうして。
その半月後、吸血鬼ソレイユは新たな魔王として名乗りを上げる事にした。
通信機器、魔法による伝達。
それらによって、魔界、人間界、両方に対してソレイユが新たな魔王になった事が告げられた。
戴冠式は華やかに行われ、何日間にも及んで吸血鬼の街イモータリスでは、パレードやパーティーが行われた。
ベドラムや他の魔王達にも招待状が送られたが、殆どの者達はパーティーに現れなかった。パーティーに現れたのは、裏社会のマフィア達と、マスカレイドの裏側を仕切っている陰謀の魔王ヒルフェだけだった。
ソレイユは華やかなパーティーの中、マフィア達に盛大に賛辞を送られながらも、何処か寂しそうな顔をしていたのが、人間のメイドであるメリシアは印象的なものを受けた。




