表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天空のリヴァイアサン  作者: 朧塚
世界樹のエレスブルク
29/109

世界樹のエレスブルク 迷いの森とエルフの里。2


 王女と魔王は二人きりで、森を探索していた。


 濃い霧から抜け出す事は出来たが、道がまるで分からない。


 どうやら森の中で迷ったらしい。

 地図も無いのだから当然か。

 もし、可能ならガイドでも付けておけば良かった。


「どうやら、時間魔導士とシスターの二人とは、はぐれたみたいだな」

 ベドラムは周りを見渡す。


「迷ったのと、何者かの手によって分断されたの、どっちだと思う?」

 ロゼッタは訊ねた。


 ベドラムは神妙な顔になる。


「前者だろ……。私達の間で、統率力なんてものはあったか? 各々が好き勝手していなかったか? お前は飛んでる蝶とか、変なキノコとか見てはしゃいでいたし。時間魔導士はいつものように、ぽわぽわって、考え事をしながら歩いていたし、シスターの方も、珍しい湖とか見てきょろきょろしていたし」

 ベドラムは少し嫌味っぽく言った。


「私達全員、馬鹿丸出しって事じゃない…………」

 ロゼッタはわなわなと唇を震わせていた。


「そうだな。私は強い魔物が出てこないか、楽しみに待ちながら、先頭を歩いていた」

 ベドラムは何処吹く風といった調子だった。

 彼女一人なら“強引”に森の外に出られるだろう。だから遭難の危険とかハナから考えていないのだろう。


 ロゼッタはベドラムを睨む。


 ロゼッタとベドラムは、顔を見合わせる。

 騎士団長のヴァルドガルトを連れてくるべきだった…………。

 こんなに四人でまとめられないとは思わなかった。


「まあ。やってしまったものは仕方ないな。そのうち合流出来るだろ」

 彼女は呑気に鼻歌を歌っていた。


「まあ、そうね。処でベドラム、貴方がいるから歓迎されないって事は? 魔族で、しかも、悪名高い魔王じゃない」


「いや。エルフは人間も嫌っているって聞いてる。向こうからすれば、人間も魔族も一緒だろ。もっとも、今、エルフ達の事情がどうなっているか分からないけどな」


「会って話を聞くしかないってわけね」


 墓石のようなものが並んでいた。

 竜の女帝は、その墓石を眺めながら何かを考えているみたいだった。


「ロゼッタ。聞きたい事がある」

「なに?」


「どうだったジュスティスは?」

 ベドラムが訊ねる。


「そうね。強かったわよ…………。クラーケンの介入が無ければ全滅していた」


「そうか。戦いには、やはり戦略や絡め手がやはり必要なんだな」

 ベドラムはうんうん、と感心していた。


「処で、この墓石だが…………。自由の魔王リベルタスの“縄張り”の印だ。私の情報では、リベルタスは、かつて、エルフの長老達と領土を分配したらしい。リベルタスから他種族からの侵略から守って貰う替わりに、領土の一部を明け渡したとの事だ」


「その事は、フリースから聞いたわ。その、そんなにヤバいの? その魔王は…………」

 

「リベルは、ジュスティス並に残酷だ。人間を強く憎んでいる。……何度か会った事があるが、奴の詳細を話さないとな…………」

 ベドラムは少し考えていた。


「その前に、ベドラム」

 

「なんだ?」


「わざと、私達を分断したわね」

 ロゼッタは疑うように訊ねる。


「さて。どうだろうな?」

 ベドラムは、はぐらかすように言う。


 しばらく、二人の間で沈黙が訪れる。


「ロゼッタ。私と戦ってみないか? お前がどれだけ強くなったのか見てみたい」

 ベドラムは、腰の剣を引き抜く。


 ロゼッタは魔法の杖を構えた。


 竜の魔王の瞳は真剣だった。

 王都ジャベリンの女王がどれだけ強くなったのか。

 試してみたい。

 そんな瞳だ。

 仮にもベドラムは王都の騎士仲間達を何名も殺害している……。

 ベドラムが殺した騎士達には、ロゼッタの友人知人は多かった。

 いつか、一矢報いる事が出来れば、と、ロゼッタは考える事はある。…………。


 二人の緊張感が壊れた。


 遠くから地響きが聞こえてきたのだ。


 二人は最初、それを山だと思っていた。

 だが、確かに生き物の胎動を始めていた。


 山のような巨体の怪物は、雄牛のような角を持っていた。顔は爬虫類のように見える。


「あの怪物は…………?」

 ロゼッタが訊ねる。


「この辺り一帯を棲み処にしている魔物って処か。確か名前はキング・ベヒーモス…………。小さな人間の村くらいなら、一体で食い尽くす魔物だ」


「ドラゴンとどっちが強い?」

 ロゼッタの顔に緊張が走る。


「っていうか、ベヒーモスは、陸のドラゴンって処だな。獣タイプの魔物では最強クラスだろ。その大型だな」

 ベドラムの表情は戦闘狂のそれになる。


「正面から戦える?」

 ロゼッタは少し不安そうな顔をしていた。

 大木に囲まれた四方に逃げ場は無い。


「勿論。この私を誰だと思っている?」

 ベドラムの手にしている剣が見る見るうちに巨大化していく。


「エルフに恨まれるかもしれないな。これから森を焼き払うんだから」

 竜の魔王は跳躍していた。


 大木が次々と薙ぎ倒されていく。


 小山程ある怪物は、巨大な前足によって、地面に巨大なクレーターを作る。


 ロゼッタは、ベドラムの姿を追えていなかった。ロゼッタは内心悔しい思いをしながらも、戦いに巻き込まれないように、この場を離れるように逃げていた。

 次元が違う戦いだった……。


 何も無い空中が何度も、発火していく。

 空が“焼け爛れて”いた。

 

 ベヒーモスの身体の所々が爆発していく。


 勝負は数分程度で終わった。


 辺り一面が爆破炎上して、木々が吹き飛ばされていく。森があった場所が平らな平原へと変わっていく。


 キング・ベヒーモスの全身は、炭と化して転がっていた。


 後には、無傷のベドラムが佇んでいた。

 彼女の手にする剣は、大木と同程度に巨大化していた。


「まあ。久しぶりに真面目に戦ったって処か」

 ベドラムの手にした剣は、みるみるうちに縮んでいく。

 彼女は、そのまま剣を鞘に戻した。

 それと同時に辺り一面に燃え広がった炎も、空中へと雲散霧消していった。


 辺り一面は半径一キロ以内が炭とクレーターと化していた。


 陸のドラゴンに値すると言われる強さを誇るベヒーモスの巨大個体。

 それを物の数分で、竜の女王は屠ったというわけだ。


「さてと。肩慣らしになったよ。このまま自由の魔王リベルタスを倒しに行くかっ!」

 

 ベドラムの発言を聞いて、途中でロゼッタは困惑した。

 アリジャの為に、エルフの里に向かう事が理由だったんじゃないのか。


 いや、違う。

 その程度の理由なら、ベドラムは同行しないだろう。

 おそらく、フリースはベドラムを同行させる際に、あらかじめこういう事態を想定していたのだろう。


 ベドラムの目的は自分達とは違う。

 あくまで“魔王リベルタスの討伐”。


「まあ、いいけど。……どのみち、人間側に脅威になる者を排除したいからね…………」

 ロゼッタはつくづく、この魔王の傍若無人ぶりに呆れた。


 大地が揺らめく。


 新たな怪物達の気配が訪れた。


 キング・ベヒーモスの屍を中心に、草と樹木で出来た巨人のような者達が次々と現れた。


「森の精霊(エレメンタル)の怪物達か。肩慣らしにもならないな」

 ベドラムは剣の柄を握り締めながら、大欠伸をしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ