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天空のリヴァイアサン  作者: 朧塚
世界樹のエレスブルク
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世界樹のエレスブルク 迷いの森とエルフの里。1


 マスカレイドから帰還して、約一週間後に新たな旅が始まった。


 ロゼッタ、イリシュ、ベドラム、フリースの四名でエルフの里へと訪れる事になった。

 四人共、ドラゴンの背に乗って、高い山脈を越えて、この地に降り立つ事になった。

 

 エルフは何百年も生きると言われている。

 何千年と生きている長老クラスの存在もいるそうだ。

 人間の中には、エルフは神聖な神に近い伝説的な存在として敬っている者達もいるらしい。反面、エルフは余りにも長命種故に恐れられ人間達から差別されてきた歴史もある。あくまで過去の歴史なのだが。


「ごめんねぇー。私一人の力じゃ及ばなくて、結局、ベドちゃん頼みになっちゃった!」

 フリースは悪びれる事も無く言う。


 元々はフリース一人で出向くつもりだったが、巨大な山脈と木々に囲まれていたので、結局、ベドラムのドラゴン達の背に乗って向かうしかなかった。……魔族の襲来を警戒される可能性もあったが、これはもう仕方が無いだろう。


「エルフはこの世界のあらゆる歴史を知っているかもしれないな」

 ベドラムは、世界の歴史にかなり興味があるみたいだった。

 竜の女王と言えども、まだ五十年かそこらしか生きていない。

 まだまだ知りたい事、経験不足な事が多いのだろう。


「女の子、四人旅だねぇー!」

 フリースはテンション高く笑う。


「女の子ねえ。ベドラム、貴方、私の倍以上生きてるでしょ? まあ、他にもいるけど」

「そうだな、少なくとも、私は女の子って感じじゃないな。しかし、なあ。王女知っているか? 女子会ってのは結構、年いったババアが言いたがるものらしいぞ。それにババア程、女の子扱いされたがる」

「フリースさんって、若く見られたくて必死なんですね」

 三人が三人とも、皮肉たっぷりに時間魔導士の事を小馬鹿にしていた。


「おーい、そこー。私の悪口大会開かないーっ!」

 フリースは、心外といった顔で呆れたように言った。


「それにしても、ロゼッタ」

「なに?」


「お前は現在、この世界に台頭している魔王の一角を落としたのだぞ。自らを誇り、褒めていいっ!」

 ベドラムは本当に嬉しそうだった。


「うーん。でも、やっぱり、ジュスティスは生きていると思う。それに予定と違ってヒルフェを完全に敵に回した。その件でフリースから怒られちゃった…………」

「知らねぇーよ。この私にとっては都合がいい。魔王は私一人だけでいいからな。私が此処に来た目的は、自由の魔王リベルタスを倒す為だ。もし、ヒルフェがお前に危害を加えるってなら、私がそっちも殺してやるよ」


 ベドラムは相変わらずだった。

平和的な解決と口では言うが、暴力で解決する事しか考えていない。

だから彼女は“平和の魔王”と皮肉られるのか。

あるいは“戦争と平和”の魔王なのか。


 最近では、ロゼッタは彼女の気持ちが分かるようになってきた。

 ドラゴン種族が持っている闘争本能をシンプルに満たしたい。

 そういう側面、本能に抗えない部分があるのだ。


 ……人間もそうね。マスカレイドは欲望の街だった。人間も一つの種族として見たら、その本能、欲望に抗えない。吸血鬼が人の血を好むように…………。

 ロゼッタは王都の外を出て考える事が多くなった。

 何が正しいのかを見に行く旅だ。

 それをロゼッタは望んでいる。


「悪夢の魔王サンテは沈黙を決めている。後はヒルフェとリベルタスを倒せば、私が魔族の頂点になる。せいぜい、お互いに目的の為に競い合っていこうぜ」

 ベドラムはいつになく、本当に楽しそうだった。

 魔王同士は仲が良くないのだろう。

 人間側には都合の良い事だ。


「それにしても私は思うんだが、エルフってのはアンデッドなのか?」

 ベドラムはフリースに軽口のように訊ねる。


「アンデッドって…………」

 イリシュは困惑した顔になる。


「吸血鬼だって、何百年以上も生きるらしい。だが、彼らはアンデッドと呼ばれている。彼らはその事をよく思っていない」


「定義が難しいね。それを定義する者によって決められるんじゃないかな? エルフは人間を襲わないから、マスカレイドと、ジャベリン周辺の国では神聖な種族として崇められている。一方、吸血鬼は人の血を好むからね」

 フリースもベドラムの暴論に少し同意しているみたいだった。

 魔族の定義とは一体なんなのか。

 それは人間が勝手に決めた概念でしかないのではないか。


「もちろん、エルフを“魔族”と定義している人間の国だって存在すると聞く。となると、もう私には分からないな」

 ベドラムは首をひねる。


「確かにエルフも魔族と認定している国もあるね。そこは大国だから色々な人種に対して嫌悪感があるのかもしれないねえぇ」

 フリースは頷く。


「しかし。まあ、魔族の定義自体が、もはや曖昧なんだな」

 ベドラムは鼻を鳴らした。



 四人は、森の入り口から中へと入っていく。


 各々、森にある物珍しいものを見ながら、森の風景を楽しんでいた。


「あそこは森の中の湖畔でしょうか? とても美しいですね」

「イリシュー。ホタル蝶が飛び回っているねぇー。昼間でもこんなに美しいんだねぇー」

「強い魔物が出てきてくれねぇーかな。久しぶりに刃を振るってみてぇな」

「ベドラム。争い事は控えてよね。私達はエルフの里に仲間を助ける魔法が無いか教えて貰いに行くんだから。あ、でも確かに綺麗な蝶ね、本当に光っている。あそこの不思議な色の茸は何かしら? まるで絵本に出てくるようにカラフル」


 森の中に入って、数時間くらい経過した頃だろうか。

 一向に里に付く気配が無い。

 深い霧のようなものが立ち込めていく。


 ベドラムは発生した霧を見て、何を思ったのか足早に動く。

 ロゼッタはひとまず、ベドラムの後を追った。

 

 イリシュはベドラムとロゼッタの姿を見失った。

 後ろには、フリースがいるのが分かる。

 このまま迷い、遭難してしまうのだろうか…………。


 ロゼッタとベドラムの二人とはぐれてしまった。

 迷いの森は、人間三名と魔族一人を歓迎していないみたいだった。


「問題児二人とはぐれちゃったかー」

 フリースは周辺を見渡す。


「困りましたね…………」

 イリシュは口元に手を置く。


「うーん。しかし困ったなあ。森には強力な魔物が出現する筈なんだけどなあ。ベドちゃんの力を頼りに来てしまったんだけど…………」

 フリースは少し考えていた。


「もしかして…………」

 イリシュは、この仲間の時間魔導士のお気楽さに呆れる。


「イリシュー。もし私達で倒せない強力な魔物に遭遇したら、大人しく今後の人生は諦めてねー!」

 フリースは何故か心から楽しそうに言った。


「お、大人しく、殺されて、喰われろとか、そういう…………事、ですか?」

「まあ、そうだねー」

 やはりフリースは楽しそうだった。


「エルフの里の周辺の魔物って、どんな感じのものが出るんですか?」

 イリシュはおそるおそる聞く。


「そうだねー。言い伝えによると、森全体を飲み込む程の植物の怪物とか、山のように大きな獣とか?」


 かれこれ、はぐれて二時間程度くらいだろうか。

 そう言えば、リングワンダリングという概念を聞いた事がある。

 山の中で遭難して同じ場所をぐるぐると迷い続ける事を言うそうだ。

 森も大差無いだろう。


 イリシュは持ち物を確かめる。

 食料は一日分くらいしかない。

 もし下手をすると、魔物に襲われる前に餓死で死ぬかもしれない。


 イリシュが強い不安感に苛まれていると。

 ふと、霧の中から、二人の人物が現れる。


 男女二人組だった。


 整った顔立ちに、両耳は長く尖っていた。


「ダーシャ。長老様から聞いたんだけど、人間?みたいなのが入り込んできたんだってさ」

「軽率に見てきて怒られるかもな。しかし、人間を見たのは何十年ぶりくらいだろうか、里の外で小さな旅をした時以来かな」


 どうやら二人はエルフらしかった。

 里の住民だろうか。


「すまないねえー。里まで案内をしてくれないかな?」

 フリースは飄々と言う。


「要件はなんだ?」

 男の方のエルフ……ダーシャが訊ねる。


「私達の友人がさぁー。倫理の魔王ジュスティスの魔法に掛かって、意識不明なんだ。生きているとも死んでいるとも言えない状況になっている。それでエルフ達の知識なら、その呪いのような魔法を解除出来ないかな、って思ってさ」

 フリースは正直に話した。


「悪い人じゃなさそうだし、長老の処に案内にしようよ」

 美少女の姿をしたエルフは言った。


「そうだな。リザリー。本当に悪だくみしているなら、その時に対処すればいい。俺も人間と話したいからな」


「で、二人共、何か要望はない?」

 リザリーと呼ばれたエルフの少女が笑う。

 少女と言っても、数十年……下手をすると百年以上生きているかもしれないが……。


「そ、そうですね…………。取り合えず、空腹で眩暈が…………」

 イリシュはそう言いながら、地面に倒れた。

 

 エルフの男女は倒れているイリシュを優しく介抱してくれた。

 イリシュは安堵感を覚えて気を失う。

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