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天空のリヴァイアサン  作者: 朧塚
混沌の世へ。
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間章 ジュスティス。ローズ・ガーデンの鍵を手に。

 くるくる、と、鍵の形状をした魔導具を指先で回しながら、魔王ジュスティスはとてつもなく楽しそうに、その国に辿り着いた。


 リトル・アーチ。

 小さな門を意味する国だ。

 元々は独立した国家だったが。数十年前に、各国からの借金が積み重なった結果、事実上のエル・ミラージュの付庸国(ふようこく)。植民地と化した国だ。傭兵都市とも呼ばれている。国民の多くの職業は傭兵として、エル・ミラージュを含め、他国の代理戦争に徴兵される事だった。


 性暴力被害が世界ランキングのトップクラスで、人間の女子供は近付いてはいけない犯罪都市と化している。

 空中要塞とエル・ミラージュの戦争によって、多くの人々がエル・ミラージュから駆り出されて、性暴力による犯罪が拡大化したらしい。


戦争や内紛、その他の犯罪によって『ストロベリー・ジャム法(通称=SJ法)』と呼ばれる、女性が望まれずに出産する事になった子供を臓器売買などに転用するビジネスが拡大化していき、それはこのリトル・アーチの裏産業として築かれつつあった。


 ジュスティスは、この『ストロベリー・ジャム法』を利用して、人間の子供の遺体を大量に買い取っていた。なので、この国にはなじみがある。まるで故郷の匂いとさえ感じる事がある。


 リトル・アーチの国境の所々には、門が飾られている。

 入国の際には、ぼったくりの費用を払わなくてはならない。


 国民の半数以上がジャベリンの平均的な国民の一日の生活費の十分の一程度とされている。各社社会の資本主義大国であるマスカレイドのような相対的貧困ではなく、絶対的貧困に陥った国だ。


 廃墟同然の家に人々は暮らしている。


 ジュスティスはフードとマントに身を包み、この街を歩いていた。


 この街は、悪徳と退廃と混沌の臭いが立ち込めていて、彼は大好きだった。

 弱き者達が、更に弱き者達をなぶろうと血に飢えている。

 人間の醜悪な極限状態が、この国には満ち溢れていた。


 此処では、文字通り命が売買されるし、人間の命なんて誰かの資源(リソース)でしかない。この世界の真実を体現している悪夢が広がっている。


 ドラゴン達の放った炎によって、全身が焼かれて生き延びた傭兵達が、全身に包帯を巻き、四肢を失いながら、必死に路上で物乞いをしている。

 国の為に戦った戦士たちの成れの果てがこれだ。


 此処には、現世における地獄ばかりが広がっていた。


「とてもイイ匂いだ。僕は好きなんだ、この場所だ。まるでマイホームのように思うくらいにはね」

 ジュスティスは独り言を呟き、笑う。


 場所は『来世への扉』と呼ばれる巨大な塔だった。

 リトル・アーチが出来た頃の記念碑とされているが、ジュスティスは、オリヴィから得た情報で知らされている。


 三回程、子供二人、大人一人からのスリを喰らったが、ジュスティスは“彼らの手を剥奪する事”によって、スリの被害をかわした。


 巨大な塔へと辿り着く。

 当時の大統領の彫像が描かれている塔だ。

 中には、建国の際の当時の大使館などの資料が収められている。


 それらは偽装である事をジュスティスは知っている。


 ……時間魔導士フリースは、エルフの森エレスブルクにて、エルフの長老達と魔王リベルタスが守っていた『ローズ・ガーデン』の鍵を入手した。


 ジュスティスの手には、その鍵の複製が存在する。


 彼は腹の中で笑いが止まらなかった。

 魔王リベルタスの役割は、外敵から千年以上を生きるエルフ達が蓄えてきた“人類や魔族にとって危険な知識”の守護者だった。ベドラムがそれを壊した。ベドラムが人類を守護していたとも言えるリベルタスを殺害した。


 腹がよじれる程、おかしくて堪らなかった。


 ……時間魔導士フリースは、ゆっくりだが、確実に人類にとって害を為す事を行っている。彼女にとって俗世の事はお遊戯でしかないのだろう。


 記念碑の塔『来世への扉』の地下へと入る。

 そこには、巨大なシェルターのようなものがあった。


 魔法学院ローズ・ガーデンは異空間に場所を転移させた為に“鍵”が無ければ、この世界の何処にも存在していないし、また入る事も出来ない。また“鍵”は複数存在していると言われており、ジュスティスがこの『来世への扉』から向かえる場所は、あくまでローズ・ガーデンの一部に過ぎない。


 ジュスティスはシェルターに向けて鍵をかざす。

 すると、シェルターの扉が開いていく。

 真っ暗な宇宙空間のような場所が口を開けていた。

 まるで得体の知れない生命体の口腔のようだった。


 ジュスティスは、その空間の中へと飛び込む。



 しばし気を失っていたみたいだが、無事、辿り着く事が出来たみたいだった。

 大草原のような場所に、扉と階段があった。

 彼は階段を降りていく。


 花畑だ。


 辺り一面には真っ白な薔薇がいくつも咲いている。

 そして、魔法学校のようなものが見えた。


「ついに辿り着いたか。此処で存分に研究させて貰う」

 ジュスティスはおかしくて堪らなかった。


 彼は懐からキメラを取り出す。


 それは銃火器に、無数の生きた人間の腕が融合したものだった。


 彼の魔法はあらゆるものを融合させる事が出来るが、力には限界があった。

 具体的に核ミサイルと巨大モンスターを融合させる事が出来ない。

 都市と無数の人間を融合させた巨大ビルのような怪物を作るのは限界がある。


 幼い子供が夢想するような、最強にして最悪の怪物。

 エル・ミラージュなどの国が所有する核ミサイルや原子炉と、無数の人間や巨大モンスターを融合させて、この世界に解き放てば、どれ程、面白い事態になるだろうか。試してみる価値はある。だが、ジュスティスはそれだけのキメラ生成の技術を現段階では有していない。


「元々、魔法学院は魔力の増幅も行っていた。僕の魔力が引き上がれば、それでいいからね」


 そう思いながら、ジュスティスは建造物へと向かっていった。

 建造物は以前、古びる事なく、一切の不朽が無くそこに存在していた。

 

 彼はこれから創り出そうと考えている混沌を夢想しながら、半ばスキップをしながら、その建造物へと向かった。


 強大なる悪しき力を手にする為に。

 そして、それを行使するために。

 彼自身、倫理の行使と呼んでいる“大いなる混沌”を巻き起こす為に。

 倫理の魔王は、扉を開いたのだった……………。

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