38 救援部隊
武装勢力の追跡と銃撃はなおも続いている。
「RPG!」
アイリーンが叫んで急ハンドルを切った。
転びそうになったイオをウイルが支える。
車のすぐ脇をロケットのようなものが飛んでゆき、前方の岩に当たって爆発が起こった。
アイリーンがまたハンドルを切って爆風を避けようとする。
が、避け切れるものではない。
ガン! ガン! バシッ! と側面に破片が当たる音がする。
内側に簡易といえど装甲が施されていなければ穴だらけになっているのだろう。
車が横転しないだけマシというものだ。
アイリーンの運転スキルはかなりのもののようだった。
「そうか。」
とジェフが言った。
「やはり、R国の情報機関から指令と報酬の話が行っていたようだよ。これも『経済』さ。」
ソーニャから返事がきたらしい。
速い!
イオみたいだ。
どんな子なんだろう?
「ただ、中止指令は相手の受信機が応答しないそうだ。たぶん・・・」
とジェフは苦笑いした。
「さっき破壊した車のどれかに積んであったんだろう。」
ジェフはカラシニコフを持って、また窓から身を乗り出した。
サイドミラーに、後方の車のルーフハッチから身を乗り出してRPGを構える男が映る。
パン! パン! とカラシニコフの乾いた音がして、男がのけぞった。
が、同時にRPGも発射された。
ただ、ジェフの弾丸の方がわずかに早かったらしく、榴弾は大きく車を逸れて飛んでゆき、はるか前方の上空で自爆した。
「ジャネット。ドローンを出せるか?」
車内に戻ったジェフがまた誰かと交信している。
それからジェフはウイルたちに余裕のある笑顔を見せて言う。
「ジャネットはアジトで待機しているもう1人の助手でね。軍が持ってるような攻撃力の高いやつじゃないが、自爆型の安いやつが倉庫に十数機ある。それで残りの3台をやっつけてもらう。」
ジェフはまた身を乗り出して、銃を撃った。
「到着まで10分かかるそうだ。それまではこいつで何とか戦うさ。」
「ジェフ! まずい!」
アイリーンが運転席で叫んだ。
「さっきの爆発の破片で、燃料タンクかパイプのどこかに穴が開いたらしい。燃料がどんどん減っていく。このままじゃ、10分保たない!」
ジェフが初めて余裕の微笑を消した。
「まずいな。我々だけならともかく、博士とイオとフルカワ教授がいる。」
やがてエンジンが、ガスン、プスン、と妙な音をたて始めた。
燃料が切れたらしい。
エンジンブレーキになってしまわないよう、アイリーンがギヤをニュートラルにする。
だが、砂漠の砂はタイヤに絡みつき、惰力走行はそれほど長い時間は続くまい。
「銃、撃てますか?」
ジェフがウイルに訊いた時、後方で何かが混乱する様子がミラーに映った。
叫び声と爆発音。
まだ3分しか経っていないから、ドローンが到着したはずはない。
追っ手の車の動きが乱れ、1台が爆発した。
「何が起こった?」
エンジンの止まった車は急激にスピードを落としてゆき、追っ手との距離が縮まるが、追っ手の2台はこちらに銃を撃ってこない。
ザザ・・・っとカーラジオが電波を拾った。
「ザ・・・ガガ・・・ザッ、J B ! 聞こえるか? マツバラだ。応援に来た。紺色のワンボックスだ。間違って撃つなよ。」
砂塵の中、逃げ出し始めた追っ手の2台の後ろに黒っぽいワンボックスが見える。その窓から身を乗り出してRPGを構えているのは、あの松原だった。
散開した2台のうち、1台が松原のRPGの餌食になった。
もう1台が逃げてゆくのが、サイドミラーにちらっと映った。
ジェフが苦い笑顔を見せる。
「嫌なやつが来た。・・・まあ、この状況ではありがたくもあるが——。」




