エタメタノール風戦争小説『ジャンケンで戦争の勝敗を決めるようになった未来、壮絶なあいこ勝負の末に愛が産まれた』
エタメタノールさまの物真似をしたハートフルな戦争小説です。
エタメタノールさまからはとっても爽やかに許可をいただいております。
太平洋沖の離れ島で行われる決勝戦に俺はやって来た。
この勝敗でこの世界戦争の勝敗が決定される。
武力で争っていた野蛮な旧時代と違って、洗練された現代ではジャンケンで勝敗を決める。
そして日本代表に選ばれた勇者が俺だった。
ただの平凡なサラリーマンだった俺がなぜ選ばれたのかはわからない。
日本最新鋭最高級のコンピューターが俺を選び出したのだ。
初めは俺ももちろん嫌で、断った。
そんな大役を背負わされては胃がいくつあっても足りやしない。
だが部長の『従わんと社史編纂室送りにするぞ』の一言に、仕方がなく勇者にならざるを得なかったのだ。社史編纂室送りだけは嫌だからな。
***
決勝戦、俺の前に立ったのは、プラチナブロンドの長髪を美しく風になびかせる美女だった。
その目には闘志ではなく慈愛が浮かんでいる。
その優しそうな姿に俺は危うく気を許してしまいそうになったが、油断は禁物だ。
こいつはあの強豪アメリカ代表の勇者アート・ダッシを倒してやって来たバケモノだ。
俺も中国代表の江健侯を倒し『オーガ』と呼ばれているからわかる。
この女、只者ではない。
「よろしく、日本代表さん。私はノール共和国代表、エタミーです」
そう名乗る彼女と握手を交わす。
冷たくも柔らかい手だった。
このジャンケン勝負の結果で世界の覇者が決まる。
日本が世界の盟主となるか、それともノール共和国か。
ノール共和国といえば『世界最後のファンタジー』と呼ばれる南の小さな島国だ。
そんな辺境の小国に世界を支配されてたまるか。
砂浜に設えられたリングを取り囲み、世界中の偉い人達が固唾を飲んで俺達の勝負を見守っている。
国連総長が赤い旗を振り上げた。
これが振り下ろされた時が開戦の合図だ。
「ジャンケンポン!」
しぃん……と各国閣僚が静まり返った。
彼女はグー、俺もグー。
あいこだった。
国連総長が再び赤い旗を上げ、振り下ろす。
「あいこでしょ!」
彼女はパー、俺もパー。
また、あいこだ。
さすがはバケモノと呼ばれる女だ、強い。
俺も負けてはいられない。
「あいこでしょ!」
そんなことが延々と続き、140回目のあいこで国連総長が遂に一時休憩を宣告した。
「このままじゃ勝負が決まらないわ」
「そうだな」
俺は彼女と並んで白いリゾートチェアに座り、トロピカルソーダで喉を潤しながら話し合った。
「ねぇ、私の国のジャンケンのルールに変えない?」
「君の国のジャンケンだって? それはどんなのだ?」
「ミャンポンっていうの」
「ミャンポン? かわいい名だな。ルールは?」
「グー、チョキ、パーではなくて、シュー、キャル、ベンソンで戦うのよ」
「詳しく教えてくれ」
「出し方はこうよ。親指を立ててシュー、小指を立ててキャル」
彼女の小指の立て方がかわいくて、俺はつい見とれた。
「そして中指をこう立てて、ベンソン」
「中指だって!?」
美しい彼女が中指を立てる姿は見たくないものだった。
知っているのだろうか、彼女は? それがアメリカでは相手を侮辱する、とても汚いポーズだということに?
「そして強さはこうよ。シューはキャルに勝つ、キャルはベンソンに勝つ、ベンソンはシューより弱い」
「なんだって!? それじゃ……」
シューを出しとけば負けることは絶対にないじゃないか。
そう言おうとして、俺はやめた。
これはどういうことだ? 彼女は俺をバカだと思って誘っているのだろうか?
俺がそのことに気づかず、シュー以外を出して負けるものと思っているのか?
ふつう、これだと誰もがシューしか出さないから、それこそ永遠のあいこ勝負が続くことになってしまうじゃないか。
しかし俺はミャンポンでの勝負に切り替えるその話を受けた。
正直言うと、疲れていた。烈しい連続あいこ勝負が、俺から思考能力を奪っていた。
日本なんかどうなってもいいじゃないか。こんな素晴らしい美女のいる国に支配されたほうが楽しい未来があるかもしれない。
俺はわざと負けるつもりだった。シューを出さないと決めていた。
***
国連総長に戦闘方法をミャンポンに変更することを伝え、決勝戦が引き続き開始された。
国連総長のかけ声が、ジャンケンポンから、
「ミャン、ポン!」
に変わった。
俺は何を出すか、もう決めていた。
シューはもちろん出さない。彼女の国に勝ちを譲るつもりだ。
ベンソンだけは絶対に出せない。彼女を侮辱するような、そんなファックな中指など立てられるものか。
俺が出すのは小指を立てるキャル、それ以外になかった。
「ミャン……!」
国連総長のノリノリのかけ声に、俺も彼女も猫のように振りかぶる。
「……ポン!」
運命の時がやって来た。
俺は思わず「あっ」と声を出してしまった。
俺は小指を立ててキャル、そして彼女も小指を立てていた。
彼女のほうも、驚いた表情で俺を見つめていた。
「あいこでしょ!」
まただ。また、キャルとキャルで、あいこ。
「あいこでしょ!」
それが139回続いた。
***
140回目、前半と合わせて280回目の勝負で、俺は遂に決めた。
次はシューを出す。
確信したのだ。彼女は負けたがっている。
理由はわからない。だが、彼女の疲れきったその美しい瞳が、俺に語りかけていた。
お願い、シューを出して、と。
日は暮れかけている。
次で勝敗が決まらなければ、国連総長はおそらく後日再戦を言い渡すだろう。
ここで決めなければならない。
何より俺にはシューを出したい絶対的な理由があった。
「これで決まらなければ後日再戦ということになります。両者、よろしいですね?」
国連総長の言葉に、俺も彼女も肩で息をしながら、うなずいた。
「では、行きます。ミャン……!」
俺と彼女は激しく見つめ合いながら、猫のように振りかぶった。
「ポン!」
俺は親指を立てた。
シューだ。いや、それよりも「いいね」のつもりだった。
彼女の闘志、彼女の慈愛、そして何より彼女の美しさに対する、心からの「いいね」のつもりだった。
彼女は小指を立てていた。キャルだ。
俺の「いいね」を見て、ホッとしたように彼女が微笑んだ。
「勝戦国、日本!」
国連総長の声に、世界中からさまざまな声が沸き起こった。
***
戦争は終わった。
これで世界に平和が戻る。
日本に世界を導く力があるのかどうかは知らないが、たぶん世界中がおもてなしに溢れた世の中になるだろう。
「なぜ……」
わざと負けたんだ? と、俺はエタミーに目で聞いた。
すると彼女は答えた。
「あなたの国になら、支配されてもいいと思ったの。私の国は南の海に浮かぶ貧乏な小国。世界を導くような力はないわ」
「それならまず君を征服したい。俺と結婚してくれないか?」
戦いを終えた相手とは友情が芽生えるものだとはよく言うが、俺の場合は愛情が芽生えてしまったのだ。
運命の女性はこの人しかいないと思えた。
エタミーはにっこり微笑み、俺に答えた。
「喜んで」
俺は思わず万歳をし、空に向かって歓喜の声を響かせた。
「ウォー!」
おわり
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ちなみに作中に登場する『シューキャルベンソン』及び『ミャンポン』は、エタメタノールさまの漫才『ジャンケンっておかしくない?https://book1.adouzi.eu.org/n6541hn/』からお借りしました。




