表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クレール・光の伝説「いにしえの【世界《ル・モンド》】」  作者: 神光寺かをり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

142/160

十人目の死者

 ところが、同じ場所にいた劇作家のマイヤー・マイヨールがそれを否定した。


「あれは最初から『化け物』でしたよ。

 少なくとも、劇場にやって来たヨハネス・グラーヴらしいものは、人間の服を着て人間のふりをした化け物でした。

 ……いつから本物と化け物が入れ替わってかなんて、それは(あたし)の知ったことじゃありませんよ」


 結局ヨハネス・グラーヴ卿は見つからなかった。村の役人は悩んだ末に、彼を「生死不明、行き方知れず」と断じ、上役への報告書に記録した。


 さて、明らかに人の手で殺されたらしい「呑み喰い屋の外で農夫達」を、殺害した犯人として真っ先に嫌疑をかけられたのは、身元のはっきりしない()()(もの)である、エル=クレール・ノアールとブライト・ソードマンだった。


 村役人による取り調べは、ブライト一人が受けた。

 彼は役人に「エル=クレール・ノアールは重傷を負い伏せっている」と告げると、あとは何も言わず、自分の腰の(かたな)と「主人」のそれとを役人に提出した。

 古びた長剣と真っ二つに折れた細身の剣は、持ち主にかけられていた疑いをすぐに晴らしてくれた。

 (しい)の木を削り出した模造刀では、人を「斬り殺す」ことは到底できない。


「俺達は……特にウチのかわいい姫若様は……人を傷付ける道具が大の嫌いでね」


 律儀な村役人は、ブライトの不可解な物言いに首をかしげつつ、それでも一字一句違えることなく書類に書き記した。


 次に疑われたのは片耳を削がれた勅使の衛兵だった。

 この大柄な剣術使いの剣には、脂による曇りが浮いていいる。

 決定的といえる証拠があったにも関わらず、村役人は彼を捕縛することができなかった。

 衛兵は証拠品である己の長剣を示されると、叫び声を上げて役人に襲いかかり、それを奪った。

 そして長剣の切っ先を彼は自分の喉元に向けた。

 彼はそのまま勢いよくうつぶして倒れ込んだ。

 首が跳ね飛んだ。

 作法通りの自刎(じふん)であった。


 こうして「十人目の死者」が出たのは、夜明けの(とり)が鳴く直前のことだ。

 夜なべで聴取を行った村役人は、自殺者の返り血を浴びて嘔吐したり、体中を井戸水で洗ったり、着替えたり、眠気に襲われて自分の頬をつねったりしつつ、昼前には領主に提出する書類を書き上げた。


 曰く――。

 正体不明の「もの」が、屋敷で働いていた下男下女を殺害。

 それは勅使ヨハネス・グラーヴになりすました。

 そして家臣を欺いて、農夫達を殺害させた。

 その後、人々が集まるであろう芝居小屋に赴き、人々に害なそうとして、家臣達を死傷させた上、消滅した。


 そういった事件の概要を書きまとめると、彼らは何故か、その書類をブライトの所へ持ってきた。

 若い地方官は恐る恐る切り出した。


「貴公のご主君は……」


「ウチの姫若様が、何だって?」


 ブライトは不機嫌を丸出しにして彼を睨み付けた。

 利き腕の骨を折られ、全身を強く打つ重傷を負ったクレールは、村の宿屋の一室で手当を受けている。

 その「病室」に、彼は入ることを許されていないのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ