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クレール・光の伝説「いにしえの【世界《ル・モンド》】」  作者: 神光寺かをり


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村人達の証言

 この日、この村内で奇っ怪な死に方をした人間は、合わせて九名だった。

 勅使一行の旗持ちの若者と、付き従っていた伝令官の男、下男二人と下女三人。そして呑み食い屋にいた二人の農夫である。


 芝居小屋に駆けつけた村の役人は、勅使の従者達の死骸を見つけ、嘔吐(おうと)し、卒倒(そっとう)しかけた。

 それらは彼らが今までに見たことのない酷い変死体だった。


 その酷い有様の死体を見て役人達は、


「肉食の獣が爪や牙を持って殺害し、捕食したに違いない」


 と判断した。

 それというのも、幾人かの村人や一座の者が、


「小屋の裏の方から獣の咆吼(ほうこう)や、何かが暴れる大きな音が聞こえた」


 と証言していたし、楽屋口の壊されようも、到底人間の行いとは考えられないものだったからだ。


 しかし、呑み食い屋の前の大通りにうち捨てられていた農夫達の死骸は、一目で人の手によって殺されていると判った。

 一人を真正面から唐竹割(からたけわり)にし、残る一人の胴を両断した凶器は、断面の様子から、卓越した使い手が振るった鋭利な刃物であることが明らかだった。


 役人達にも村人達にも不可解であったのは、死んだ農夫達はそのむごたらしい姿を半時も道端に晒されていたというのに、通りを行き交う者が誰一人として彼らに気付いていなかったことだ。


 彼らが悲鳴を上げたのは、ちょうど芝居小屋の中で「化け物」が倒された頃合いのことだ。

 突然皆の目が開けた。見えていなかったものが見え、歪み見えていたものの形が定まった。

 もっとも、彼らは何故自分の目が塞がれて、この時に唐突に「開けた」のか、その真の理由を知ることはなかった。彼らからしてみれば、突然足元に惨殺体が湧き出たようなものだったのである。


 実はこの時、人々の目玉から砂粒ほどの赤い石の欠片のようながこぼれ落ちたのだ。

 それは【(ザ・ムーン)】の【アーム】の欠片で、彼らは【(ザ・ムーン)】に操られていたわけだが、そのことを理解しているのは、クレールとブライト、それに彼ら同様に【(ザ・ムーン)】の【アーム】の欠片で「操られて」いたイーヴァンだけである。


 飲み食い屋の客の中には、目が開けた瞬間に自分が怪我を負っていることに気付かされた者もいた。傷の痛みさえも、その瞬間までは感じなかったという。

 怪我人の数は、傷の大小を合わせて十数人に及ぶ。


 残りの死体は、勅使ヨハネス・グラーヴ卿の一行が宿舎としていた屋敷で見つかった。

 勅使一行に従っていた小者下女、合わせて五名だ。

 不可解なことだが、それらはどう見積もっても「たった今しがた死んだ者」とは思えぬほどに腐敗が進んでいた。


 屋敷には生存者がいた。

 元々その屋敷の留守居をしていた老人だった。

 彼は、勅使一向が滞在している間、下男働きをする事になっていた。


 屋敷に駆けつけた村役人達は、腐乱死体の傍らで腰を抜かして座り込んでいた老人に、何が起きたのかを問うた。


「皆、突然動かなくなり、見る間に肉が腐り落ちた」


 と、老人は証言をした。


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