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初夏の社交パーティーも社交的には成功のうちの終わり、ダウニング侯爵家も後片付けに奔走してやっと落ち着いたかと、次の社交に向けて準備を始めておりました。
尤も、ちょっとした問題があったと言えばあったのですが……
シーラがターラント子爵から、件の問題の後始末のために実家から呼び出しを受けていたのと同じ頃でしょうか?
私とダグラスも、ミッチェル様ご夫妻から招待を受けて、ミッチェル様のお屋敷に来ております。
何やら話があるんだな、というのを感じながらも私たちも教育を受けた貴族なので、うふふおほほとか言いながらお茶なんか嗜んでるところです。
なかなか本題に入らないし、今日はもうこのまま落ちして終わりかもな、などと考えていた所に突然ミッチェル様がおっしゃいました。
「私たちも結婚してそろそろ四年近い。……まだ若いとも言われるが、跡取りのことで相談したい」
ダグラスが「はっ」とか言って頭を下げるので、私も習って下げておきました。
ミッチェル様とリプリー様がおっしゃるには、このまま子どもが出来ない場合にはイングリッド様のところのセレスティン様とうちのハワードをダウニング侯爵家のミッチェル様の次代として迎えたい、ということでした。
セレスティン様とハワードとの結婚がなされない場合でもハワードがダウニング侯爵を継ぐことになるので心づもりをしておくように、と言われました。
元々セレスティン様がお産まれになった時点で、ハワードが婚約者になるだろうことはある程度予測していました。
私が乳母になって、ハワードとセレスティン様をご一緒にお育てすることとなり、「ああそう言うことを望まれているのだな」となんとなく感じていたので。
このあたりはイングリッド様いわく、成長するにつれて個人の気持ちも加味しないといけないので、流動的に決まるとのことでしたので、将来そうなるかも?くらいに思っていたのですが。
血統的にはセレスティン様のほうがダウニング侯爵家に優先となるのでは?と確認してみたのですが、これはダグラスも私も、血統的にダウニング侯爵家の流れを汲んでいるので問題はないそうです。
セレスティン様は国交の絡みで他国に嫁ぐことも可能性としてあるので、侯爵家としてはハワードを将来の跡取りとみなす、と家全体の意見が一致していると説明されました。
これは今すぐどうこうする類の話ではないので、こう言う未来もある、ということを覚えておいて欲しいと言い含められてお屋敷を後にしました。
なんだ、既に外堀は埋まってるのなら、私には拒否権はありませんよね?
ダグラスったら、この日の茶会の主目的を知ってたんなら、私にも教えといてよ。一人でドキドキして恥ずかしいじゃない。え?あなたも聞いてなかったの?
そのうちミッチェル様たちにもお子さまが産まれるかも知れないから、話半分くらいに考えておきましょう。
☆
ダウニング侯爵家からの正式なんだかそうじゃないのか、よく分からない跡継ぎ問題に巻き込まれたりしながらも、王宮でマイナスイオン発生機のお仕事をしたり、そろそろ歩き出したセレスティン様に目が離せなくなったりと、忙しくしていたのですが……
「母が亡くなったそうです」
シーラが王宮に居る私に、報告に来ました。
「あら、そうなの?領地で静養されていると聞いていたのだけれど……」
「ええ、最近はダネル先生お力添え下さって、静かに暮らしていたんですが……そういう事になりました……」
思い詰めたように血の気を失ったシーラは、静かに話します。
「突然のご逝去に言葉もないわね。御冥福をお祈りしますわ」実母の死であることは私にも同じなのですが、私はとうとうあの人を自分の母親と思うことはなかったのでした。
そういった私の気持ちが伝わったのか、シーラも姉妹としてでは無く私のお悔やみを受け取ってくれました。
「あんな母でしたのに、亡くしてこれほど感情が動くとは思いませんでした……」
シーラの真っ白な顔色を見て、私はゆっくりと休むようにと伝えました。
シーラにとっては実母の死、それも単なる死では無く誰かが便宜をはかったのであろう母の死は、衝撃だったのでしょう。
「……どうして……どうしてこんな事になってしまったのでしょう。母は……何をしたかったのでしょうか……」
シーラは誰に問うでもなく、静かに話しています。
「多くを望まなければ、愛し愛されて普通の家族として幸せになれたでしょうに……」
「分からないわ。亡くなった方の気持ちは、その方だけのものよ。娘だろうと夫だろうと推し量ることは出来ても、知ることは出来ないのよ」
「ただ……あの方はこんな風に悼んでくれる家族がいて、悪くない人生だったのではないかしら?」まるっきりの他人事として語る私に、シーラは薄く微笑んだ。
「ええ、そうかも知れません。泣いて見送る私たち家族がいるんですから、母の人生もそう悪くはなかったと思います」
私とシーラは二人向かい合って静かに、あの人へと思いを馳せたのでした。




