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「あの娘達に与える選択肢は二つ。一つはこちらが用意する相手と結婚して退職する。もう一つは、やはり近衛を退職して実力相応の兵士職か巡回騎士になるか……といったところかしら」
イングリッド様が私に説明してくださるんだけど、これすごくない?たかだか下っ端の騎士の行く末を、王子妃殿下が提案してくださってるのよ?
「それに関しては、私の方から彼女たちに提案してもよろしいでしょうか?」
そう答える私に、イングリッド様は構わないけれどどちらにしても彼女らは今後も貴族院の監視下にあることを忘れないように、とおっしゃった。
貴族院と御大層な名前だけど、言ってみれば「戸籍係」なのよね。各貴族家の戸籍を管理していて、どことどこの家が結婚でつながっているかとか、どこに養子に行ったか、という情報を管理しているのです。
マイラやマルセルの名前を持つ子が生まれた家は、そのまましっかりと監視されることになりました。
低魔力者も遺伝子レベルまで突き詰めれば、その規則性とかも確認できるのかもしれないけれど、そこまでは貴族院でも徹底はしないそうです。
そう聞かされて、心の底から安心したのはつい最近の話です。美味しい野菜を作り出す感覚で、人間も管理しては欲しくないもんね。
実際そんな考えも、一つの案として出たことは出たらしい。だが、実際そこまで詳しく調べる手段がないことで、見送られた。
魔力量は遺伝に関係なく、多かったり少なかったりするので、その部分では結婚に支障がないことも理由の一つだ。
低魔力の貴族男性の縁遠くなる原因は、魔力量が就職に直結するという経済状況にある。
家の仕事、と言ってもたいていの場合農園といった第一次産業をしているところが多いのだけど、魔力が少ないと土だとか農作物に働きかける力が低く、生産量が落ちるために大人になると家から出される場合が多い。
武官の場合は、身体強化と言った魔力の使い方が出来ないとやっぱり家を出されたりする。どちらの場合も、魔力量が経済力に直結するのである。
私の同級生の男子たちは、まさにこの例に当てはまる。
とりあえず彼らの話は置いといて、今の問題はシーラとグエンの件なんだけど……
グエンはまあ言ってみれば、簡単に見捨てるのもクィンシーに悪いかな、という私の気持ちのみの話だ。彼女の人となりが気に入って、というほど会話したこともなければ、私的な付き合いもない。
本当に仕事上の付き合いのみ。その仕事上での私の彼女への評価は低いのだけれど。
クィンシーの人物調査を見る限りでは、ディクスン子爵家は貧乏人の子沢山、の一言に尽きる。
クィンシーが学園卒業後に絶縁となったのも、経済的な事情によるところが大きかった。クィンシーは次男で、その下にもまだ妹と弟がいたので、家で冷や飯食いの居候を養う余裕がなかったのでしょう。
生活と学園の費用とで精一杯で、淑女教育にまで行き届かなかった、と思えば同情の余地もあるということで、彼女の面倒はこちらが見る、ということで落ち着いた。
シーラの生育状況も、あまりよろしくはなかった。産まれた長女を居ないものとして扱う、そういう情緒の持ち主である母に育てられたのだ。
シーラもその弟も、ある程度歪んでいても当然かも知れない。産まれてすぐに前世の記憶を取り戻した私は、少なくとも穏やかな家庭環境を知っている。
だが彼らは、あの母と父しか知らないのだ。
そこを加味して、やはりシーラのこともある程度穏やかに生きていけるように、道を付けてやっても良いかもしれない、という施しのような気持ちで、私は実の妹の面倒を見ることになった。
私の眼の前に、二人の新人近衛騎士シーラとグエン。
先ほど、近衛騎士団長から二人に退団か結婚かを選ぶように、との話があったばかりです。一言言ってさっさと退出って、それもどうよ?と思わないでもないんだけど、二人の今後は私が面倒を見ますって言ってしまったから、仕方ないのかなあ……
「先ほど団長からお話がありましたが、わたくしからは今後の話をいたします」
不機嫌にうつむいていた二人が、顔を上げます。
「退団か結婚かとの選択肢が用意されていますが、わたくしとしては結婚のために退職、とした方が外聞はよろしいかと思いますが、どうされます?」
身分的に普段直接会話できない私に、勇気を振り絞った様子で、シーラがどもりながら聞いてきた。
「結婚と言われましても、私たちにはその……相手もおりませんし……」グエンも首を縦に振っていますが、これってマナー的にはアウトじゃなかろうか?
「こちらの方から見合い相手を紹介はしますが、結婚となるかどうかはお相手との相性次第ですね。もし成婚とならなくても、内向きのお仕事でよければお世話することは出来ますよ」
「あの……内向きのはどういったお仕事なんでしょうか?」
「貴方がたのここ数ヶ月の近衛騎士の仕事振りから、王宮で働くのに必要なマナーが足りないと判断されました。なので、斡旋するにしても私の領地での仕事か、王宮内でも下働きのような仕事になるでしょう。それも辞退することは出来ますが、その場合は王都での巡回騎士や警邏と言った仕事への降格となるでしょうね」
「……」シーラとグエンは、思いもしなかった自分たちへの低評価に、声も出ないようでした。




