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「それで、彼女はどう?」笑いを含んだ口元から、範囲の広い問いかけが来た。
「どうと言われましても、具体的に何をお聞きになりたいのでしょう?」私は眼の前のイングリッド様に、そう返した。
彼女とは、多分私の生物学上の妹シーラ・メリア・ターラント子爵令嬢のことだろう。彼女がセレスティン様の護衛騎士となってから、数カ月が経つ。
「お聞きになられているのがターラント近衛騎士についてでしたら、上司の方にお聞きになられるのがよろしいかと存じます」
心持ちそっけなくお答えしたところ、イングリッド様は今度はハッキリと笑って、言われました。
「ふふふ、ターラント騎士にそろそろ見合いを用意してやろうかと思ってるのだけど、どの辺りの爵位が見合うと思って?」
「爵位ですか?どうなんでしょうねえ。きっと高位貴族には向きませんわ。腹芸なんて出来なさそうですから」
私が思っていることを伝えると、イングリッド様も周囲からの評価もそうみたいだな、とおっしゃった。
「まあ、わたくしに聞かなくてもお分かりじゃないですか」
「そんなになの?」
「そうですね、わたくしが仕事で席を外す度に、またサボるの?っていう顔をしますわね」
「まだ年若い騎士ですから、眼の前のことにしか意識が行かないんじゃないんでしょうね。どうして面会人が多いの、乳母なのに、とか思ってるんでしょう」
「同期の女性騎士も同じ?」イングリッド様が続けて聞かれるのに、二人で不満を言い合って、更に不満をつのらせてますわね、と返答する。
「ディクスン近衛騎士は、絶縁となった兄のことを気にしていないのか、気持ちを隠しているのかそのへんは分かって?」
「そうですね、多少は気にかけているようですが、あまり良くない方向の気の向け方ですね」
「それは?」
「絶縁となるほどの低魔力者が身内にいると、言いたくないようですね」
「では、どちらももう少し成長しないと、こちらで囲い込む価値もつけられないわね」
どうしたもんだか、と言ったふうにイングリッド様が息を吐かれました。
シーラとグエン、二人の女性騎士、特にシーラの方はこれからも結婚や出産の管理を、王国からされることになっています。
シーラは、マイラの血統の末である為、結婚相手も吟味されるようですが、あまりに彼女たちが未熟であれば相手側にも失礼に当たるので、今のところ見合い相手を選ぶに選べない、という状況です。
グエンに関していえば、彼女はそれほどの枷があるわけではありません。彼女が疎んでいるであろう低魔力者が、産まれたなら、ダウニング侯爵家が有り難く囲い込む、っと言ったところでしょうか。
現段階では、低魔力者はまだ弱い立場にありますが、おそらくハワードやセレスティン様が学園に入る頃には、魔力の多寡は然程問題にはならないでしょう。
魔力が多ければ公共工事や産業に、少なければ医療に、どちらもなくてはならない仕事に活かせることとなるのです。
「それにしても、どうして二人をそのままペアで任務につかせたんですか?」
「あら、それこそ何を言ってるのかしら?」
「あの娘達はね、学園の騎士科を卒業してるのよ。更に言えば、近衛に配属される前に一年近く研修で色んなところで騎士として働いてるのよ。新しい場所での仕事だからある程度は大目に見る、という意味でセレスティンの護衛だったのに、まさか護衛以前の問題だったなんて、その方がビックリよ」
騎士科に通う学園生は、学習の一環で王宮の門番をやったり、それこそ学園に在学されている高位貴族の護衛を任されていたりする。
現実には護衛という仕事自体は、卒業後すぐに役立つはずなのだが、そこにはやはり現実の職業人との差はあるわけで……
「いきなり二人を組ませたのは、やれるかどうかを試すというのと、現実的にはあの娘達の仕事はそれほど当てにされてない、というのが大きいわね」
イングリッド様は、極めて冷静に身も蓋もない事情を語られ、それを聞いた私も、あまりにもな話にため息しか出なかった。
つまりは、本来なら彼女たちの配属は近衛どころか、せいぜい王都の巡回騎士、と言ったところだったらしい。それが、公にはされないものの「マイラ」の実妹、という理由で監視下に置くための近衛配属だったらしい。
グエンに至っては、低魔力者との相性を調べて……という言葉は非常に悪いけれど、実験のような結婚の為のものだったようだ。
「それに二人を組ませてみたのは最初だけだったでしょう?思った以上に低スペックだったから、途中からはベテランとも組ませてみたわよ」イングリッド様が言い訳めいた口調で、私に言う。
近衛の責任者が言うようなことをイングリッド様が、話されることへの違和感がすごいのだけど……
「二人への叱責というか軽い苦情は、割と早くからあったのよ」
「どういうことですか?」
「あなたもさっき腹芸も出来ないって、言ってたでしょ?マナーの問題ね。乳母たちからも見ない振りが出来てないって、よく聞くわね」
それはもう、騎士の仕事というよりはそれ以前の淑女教育の問題なんじゃないでしょうか?




