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不遇の姉は、未来を拓く  作者: きむらきむこ
閑話

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33/68

 閑話 愛がなかったわけじゃない ケイリー 3

 貴族籍を抜けるにあたって、実はケイリーの両親の反対があった。


 何を今更、とケイリーは思ったのだが、両親は学園をでたらケイリーは自分たちのもとに戻って領地で暮らすと考えていたらしかった。


 そろそろ物心ついてきた弟に、学園での学びを教えてやってくれ等と手紙に認めてきた父親の呑気さに、ケイリーは弟の誕生以降の自分の暮らしぶりに父が全く関与していないことを知った。


 ケイリーが家庭内でどのように扱われていたかを知らず、学園入学後の手当ても知らず……


 ケイリーは明らかに、家族の縁が切れるものと思っていた学園生活のあれこれを思い浮かべ、父親のあまりの無関心さに驚いた。


 前もってのやり取りで、両親には友人たちと共に働く場所も決まったので、と知らせていたのだが、両親からの手紙には「世間知らずの子どもが食い物にされるやも知れず、親の言うことを聞いておけば少なくとも安全に生きていける」というようなことが書かれてあった。


 後年、ケイリーはあの時コナーやクィンシーとともにアメリアについて行ったことを心から感謝した。あの当時ある種両親への反発も含んだ独立心は、ケイリーたちにとって最高の結果を得たのだけれど。


 ひょっとしたら、本当に平民になって頼るものもないままにのたれ死んでしまう可能性だってあっただろう。


 瀬戸際にあった私たちが掴んだ「(よすが)」であるアメリアが、慎重に道を拓いてくれたおかげで、今のケイリーたちがあるのだが。


 ケイリーは両親の意向を知って、少しばかり胸に何かが詰まったような心持ちがした。だが、このまま生涯を領地で過ごしたとして、果たして自分はこの先一度でも心から笑える日が来るのだろうか?と考えた。


 これから領地で過ごす日々はきっと、弟が生まれてからの「誰からも見えないケイリー」として暮らすあの数年と同じものだろう。


 だったらケイリーが選ぶのは、友人たちと笑って生きる方だ。もちろんケイリーだって、このまま人に良いように使われて落ちていくつもりなど無い。


 あの日、アメリアが言ってくれたように。()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。



 その後、ダウニング侯爵家から寄り子の男爵家の入婿の話をもらい、ケイリーは男爵位を得ることとなった。





 「お父様、見て見て」と言って、小さな手のひらに一杯の花を、幼い娘が差し出してきた。


 淡いオレンジの花は、ケイリーが庭師に頼んで植えてもらった花だ。


 「ああ、きれいだね」ケイリーが娘の目線に合わせてしゃがみ込み、彼女の手のひらの中で山になった花弁を一つ摘んでみる。


 花弁の後ろ側に口を寄せたケイリーがそのまま蜜を吸うと、娘が楽しそうに笑った。


 幼かったケイリーが、今と同じように母親と花弁から蜜を吸った思い出が、鮮やかに蘇る。


 この頃少しばかり背の高くなった息子が、ケイリーの手を引いて馬場に連れ出し、仔馬にまたがる姿を誇らしげに見せてくる。


「ああ、すごいな。もう少ししたら一緒に遠乗りに行けるな」

 遠乗り?きっとだよ、と約束をせがむ息子の声に、幼かったケイリーが父に向かって言った声が重なって聞こえた。


 「晴れると良いな」穏やかに笑いを含んだ父の声と、「お弁当も用意しましょうね」と言った母の笑顔……


 ケイリーと子どもたちとの折々の出来事の度に、在りし日の思い出が脳裏に映し出された。


 かつてのケイリー・マイケル・トルーマンは考える。思いがけず結婚を賜ることとなり、妻を得て子宝に恵まれた今になって、貴族籍を抜ける時に届いた手紙のことを。


 ケイリーの状況を理解しない両親と、領地で飼い殺しにされる未来への絶望に、涙したものだったが……


 ケイリーにも、そしてきっと両親にもケイリーが産まれて幸せだった頃はあったのだ。


 あの手紙にも、息子であるケイリーを思う気持ちが無かったわけじゃない。魔力量の多い弟が、領主になることは避けられないことだっただろう。


 両親は、現実的だっただけなのだ。

 あの当時、魔力量の少ないケイリーの在り方は、あれが普通であった。コナーやクィンシーが、そうだったように。


 ケイリーを縁切りせずに領地で暮らすように呼び戻す、ということはあの頃、他では見ないくらいに優しさ申し出だったのだろうと思う。



 愛がなかったわけじゃないのだ……


 子を持つ親となった今、ケイリーはあの頃を思い出してそう思う。笑いに満ちた子ども時代の思い出の、なんと幸せだったことか……


 今、現在のケイリーは、ダウニング侯爵家の中にマッサージ師の養成の担い手としての居場所を作った。


 トルーマン子爵夫妻である両親が、ケイリーに用意した未来は、現在ケイリーが全く違うものにしてしまった。 


 あの卒業の日以来、親子の道は離れてしまったが、ケイリーが幸せでいることをトルーマン子爵夫妻は、きっと喜んでくれているに違いない、と今は穏やかな気持ちでそう思えるのだった。



 アメリアがケイリーたちを連れて拓いた未来は、ケイリーたち三人のみならず、王国の低魔力者たちに、またその家族たちにも希望と安寧を与えたのだった。


 


お読みいただいて、ありがとうございます。

なんとか今月中に本編の続きを!と頑張っております。

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― 新着の感想 ―
おつかれさまです。 良い結末で何より ざまあ にならない ざまあ? も良いものです。
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