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いつもはおしとやか、弱ると甘えんぼう――6

 汗を拭き終えてから、彩芽は再びベッドに横たわった。


 風邪を引いたときは、どんな薬よりも睡眠が効果的だ。しっかり眠って元気になってほしい。


 ベッドサイドの時計に目をやると、美影と交代してから一時間が経とうとしていた。そろそろ呼びにいくべきだろう。


「一旦、美影に交代しようと思うけど、いいかな?」

「交代? 美影に?」


 尋ねられた彩芽はキョトンとした。


 思えば、彩芽が起きているときに看病していたのは俺だ。美影が面倒を見てくれていたことに、彩芽は気づいていないのだろう。


 ただし、美影と交代制で看病している理由を明かすのはよくない。『彩芽が気に病まないように』と正直に教えたら、逆に申し訳なく感じてしまうだろうから。


 咄嗟(とっさ)に、もっともらしい理由を考える。


「美影も彩芽を心配しているんだ。だから、さっきから交代交代で看病していたんだよ」

「そうだったんですね」


 俺の説明に納得したらしく、彩芽が微笑みを返した。


 こっそりと胸を撫で下ろし、背中を向ける。


「じゃあ、美影を呼んでくるね」

「……待ってください」


 行こうとしたところ、彩芽が服の袖をつまんできた。


「どうしたの?」

「眠るまでのあいだでいいので、(そば)にいてくれないでしょうか?」


 目から下を掛け布団で隠しながら、彩芽がおねだりしてくる。もしかしたら、甘えんぼうモードがちょっとだけ残っているのかもしれない。


 微笑ましいおねだりにクスリと笑みをこぼし、ベッドの近くにあるクッションに腰を下ろした。


「わかった。ちゃんと側にいるよ」

「ありがとうございます」


 頬を緩めて、彩芽がまぶたを伏せる。


 俺が側にいることに安心したのか、五分も経たないうちに、安らかな寝息が聞こえてきた。


 彩芽が眠りについたのを確認した俺は、クッションから腰を上げる。


「おやすみ、彩芽」


 彩芽を起こさないようにそっと頭を撫でて、忍び足で部屋を出た。


 静かにドアを閉めた俺は、思い返す。


 眠るまで側にいてもらいたがったこと。


 恥ずかしがりながらも、汗を拭いてほしいと頼んできたこと。


 あーんをせがんできたこと。


 これらを踏まえると、もはや間違いない。確定と言っていいだろう。


 彩芽は、恋愛的な意味合いで、俺のことを好いている。


 俺は眉根を寄せた。


「でも、彩芽の気持ちに応えるわけにはいかない」


 口にするだけでも罪悪感が湧いてきて、胸が締め付けられる。


「そんな不誠実な真似、できるはずがないんだ」

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