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いつもはおしとやか、弱ると甘えんぼう――4

 おかゆを食べ終えると、彩芽は再び眠りについた。


 一旦、美影と交代し、一時間後にまた交代する。


「……ん……哲くん?」


 自室から持ってきたマンガを読みながら様子を見ていると、彩芽が目を覚ました。


 マンガを閉じて、俺は彩芽に尋ねる。


「具合はどう? 少しはよくなったかな?」

「そうですね。先ほどよりは調子がいい気がします」


 まだ弱ってはいるものの、彩芽の反応はぽけぽけしたものではなく、ハッキリとしたものだった。彼女の言うとおり、大分マシになったように感じる。


 俺は胸を撫で下ろした。


「それはよかったよ。試しに熱を測ってみようか」

「はい」


 俺が渡した体温計を、彩芽が脇に挟む。


 しばらくして電子音が鳴り、彩芽が体温計を取り出した。


「37.1℃です」

「結構下がったね。これなら、明日には平熱に戻っているかも」

「そうですね。いつまでも哲くんにお世話をしてもらうのは申し訳ないので、早く治したいです」

「早く治ってほしいのは同感だけど、申し訳ないなんて思わなくていいからね。彩芽の看病は、俺が望んでやっていることなんだから」

「ふふっ。哲くんは優しいですね」


 笑みをこぼす彩芽に、俺もまた微笑みを返す。


 ちゃんと受け答えができているし、もう心配はないだろうな。


 ホッとしながら体温計をケースにしまっていると、不意に彩芽の頬が赤らんだ。


 顔色の変化に俺は焦る。


「ど、どうしたの、彩芽? まさか、熱がぶり返してきたんじゃ……!」

「い、いえ! そのようなことはないのですが……」


 両手をブンブンと振って俺の心配を否定し、ボソボソとした声で彩芽が続けた。


「ただ、その……な、情けない姿を見せてしまいしたので……」

「情けない姿?」

「あ、あれですよ……わがままを言ったり、いろいろとおねだりしたり、です」


 彩芽の返答に、俺は目をしばたたかせる。


 彩芽の顔が赤くなったのは、体調が悪化したからではなく、羞恥心によるもののようだ。発言と恥ずかしがり方から推測するに、あの甘えんぼうモードは、本人でもコントロールできないのだろう。


 安堵すると同時に、恥ずかしがる姿が愛らしくて、口元が緩んでしまった。


「情けないなんてことはなかったよ」

「ほ、本当ですか?」

「ああ。甘えんぼうの彩芽、可愛かった」

「~~~~~~っ! て、哲くん、イジワルです!」


 赤かった頬をさらに赤くして、彩芽が唇を尖らせる。『わたしは怒っています』とアピールしたいのだろうけど、ただただ可愛らしい。


 とはいえ、機嫌を損ねられては敵わないので、苦笑とともに俺は謝る。


「ゴメンゴメン。お詫びに、なにかしてほしいことがあったらするよ。看病ついでにできることなら、なんでも言って?」

「してほしいこと……」


 少し考えて、彩芽がうつむいた。どういうわけか、落ち着きなく指先をくっつけたり離したりしている。


 モジモジする理由がわからずに首を傾げると、彩芽が上目遣いで頼んできた。


「……でしたら、汗が気持ち悪いので、拭いてもらえないでしょうか?」

「へっ!?」


 思いも寄らなかったお願いに、俺は目を白黒させた。


 汗を拭くとなると、彩芽の半裸姿を目の当たりにしなくてはならない。想像しただけで頭が茹だりそうだ。流石に刺激が強すぎる。


 鼓動のピッチが急上昇するなか、裏返りそうな声で彩芽に()いた。


「も、もしかして、まだボケてたりする?」

「ボケてなんかいません。本心からお願いしているんです」

「で、でも、汗を拭いてもらうなら、俺じゃなくて美影に頼んだほうがよくない?」

「哲くん、言いましたよね? わたしがしてほしいことをしてくれると」

「た、たしかに言ったけどさ……」

「それとも……わたしに触れるのは、嫌ですか?」

「う……っ」


 小豆色の瞳が不安げに揺れている。


 言葉に詰まった俺は、右へ左へと視線をやり――観念して、溜息をついた。


「……その質問はズルいよ」

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