第40話、ミロス山の宝物庫
ミロス山の迷宮とやらに、俺たちは到着した。情報収集のつもりが、激しくネタバレされ、悲壮感などまるでなし。一応、自宅警備ならぬゴーレムが配置されているので、油断はしない。
ダンジョン――昔の人の倉庫だったとはね……。
「まあ、ダンジョンを作る奴なら、それもある話さ」
ベルさんは微笑した。
「倉庫だったり、別荘だったり、あるいは秘密の研究所だったり、色々だ」
「そうやって聞くと、ダンジョンのイメージが変わるなぁ」
「モンスターだらけだったり、もしくは監獄ってか?」
「そうそう、そういうの」
ゲームのやり過ぎかもしれないな。俺とベルさんが他愛ない話する中、エルティアナは黙してついてくる。
巨大岩に横穴が開いていて、そこが入り口へ通じる通路となっていた。ご丁寧に、人工のものですよ、とわかるように綺麗に切り出された石壁だ。
奥へと進むのに三十秒もかからなかった。いかにもな転移魔法陣が床に描かれた小部屋に到達。入ると勝手に室内に、魔力式の松明が灯った。リリ教授曰く、探しても小部屋で行き止まりになっていて、他には何も仕掛けはないとのこと。
「しかし、倉庫と聞くと気分が出ないな」
俺はぼやく。
「ダンジョンに隠されたお宝というとワクワクもするが、人様の倉庫じゃ、普通に物盗りじゃないか」
「とっくにくたばった故人が大昔にしまっておいた宝物庫だろ?」
「宝物庫! うまい表現だ」
まあ、泥棒する予定なのは違いないのだが。
「ダンジョンからお宝を手に入れるのと何の変わりもないぞ」
ベルさんはたしなめた。
確かに、俗にいう宝探しの宝なんて、かつて誰かの所有物だったわけだ。ダンジョンでの拾い物は拾った者の物。持ち主が遠い昔の故人とあれば、普通にダンジョンを捜索するのと何も違わない。
故人の所有権なんてないだろうし。
ということで、小部屋の端にポータルを形成しておく。中に出口はないが、転移魔法系はオーケーだからね。……そうでもしないと、かつての持ち主だった魔術師だって行き来できなかったわけだけど。
転移魔法陣に乗ると、オレンジ色に発光。瞬きの間に別の場所へ飛ばされた。周りでは小部屋にもあった魔法トーチが灯り、照らしていた。視界良好!
床、天井、壁すべてが石のブロックを組み合わせて作られている。窓の類はなし。三百年くらい前と聞いていたが、そこまで汚れているわけではない。お宝の保存のために環境にも気を配っているようだ。
通路に沿って進むと、大部屋に出た。中央には金銀財宝が山のようになっていて、さらに白骨化した遺体が乗っている。衣服や装備品はそのまま。……首から下げているのは冒険者プレートか?
「何とも、雑に保存してるな」
俺が呆れれば、ベルさんが考える仕草をとった。
「どうかな。そこの骨野郎が生前、自棄になって中身をぶちまけたんじゃねえか?」
「最期はお宝に囲まれて死んだってか?」
出口もなく、せっかく宝を見つけたのに、孤独と空腹に苛まれて死んだ冒険者の成れの果てか。
主である魔術師ではないとは思う。転移魔法が使える御仁だったらしいからね。
「じゃあ、さっそく回収していこう」
魔力の手を伸ばして、白骨体を丁重に金貨のベッドから下ろして、近くの床に移す。
エルティアナが声をかけてきた。
「全部、持っていくんですか?」
「置いてても仕方ない」
せっかくお宝を前にしているのに、何もしない手はない。ストレージがあるし、このダンジョンのお宝は全部持っていける。
「問題があるとすれば――」
ベルさんが眉間にしわを寄せる。
「ギルドにどう報告するか、だろうな」
「一応、ギルドからの依頼だもんな」
俺は、ストレージから革袋を出して、金貨を詰めていく。金にはほとんど汚れもなく、埃すら被っていない。どういう仕組みなのかね、ここ。死体は骨になってるのにねぇ……わけわからんな。
「クエストの達成は、お宝数点と内部の地図を適当に書いて提出すれば大丈夫と思うが……」
「ここは出口がない!」
「そう。まさか、転移魔法が使えるなんて報告したくないしな」
特にあのギルマスには。転移魔法の利便性を考えると、絶対利用されるに決まってる。便利過ぎるもん。それで話が広まって、貴族とか王族なんかにまで伝わったら……ああ、面倒しかない。
「どうしたものか。いっそどこかに出口を作るか?」
出口があれば、誰かよこされても踏破しましたって証明はできる。
「転移先がどこかもわからんのにか?」
その瞬間、ベルさんが背中の剣を抜いた。居合いの一撃は、近くの石像を両断し崩した。ズズンっと重量物が床にぶつかった。……リリ教授の言っていたゴーレムだったか?
「そっか、ミロス山じゃない可能性もあるのか」
転移魔法陣で飛んできた。ここがまったく知らない土地かもしれないわけだ。
「エルティアナ、悪いけど、マッピングを頼む」
「はい」
倉庫、もとい宝物庫だから、さほど難しい構造ではないが、冒険者ギルドへの提出用にね。
「ゴーレムには注意しろ」
念を押せば、彼女は一度頷いたあと、仕事に取りかかった。ベルさんは宝箱とおぼしき箱を開けて、中のものを異空間収納に放り込んでいく。
「どうやって外に出たか、アリバイが必要だ」
俺は、宝箱の中にあった赤みを帯びた毛皮のマントを手に取る。表は若干熱を持っているようだが、裏地は全然熱を感じなかった。火属性の魔法マントかな……?
「あのギルマスが、ここに来るとは思えんが、誰か様子見に寄越すかもしれんからなぁ。何やかんや言われるのは面白くない」
「そこだよな。ミロス山の迷宮が踏破されたとなると、何かおこぼれがないか、必ず誰かやってくる」
「そして入ったら帰ってこれない、とな」
俺たちだけ戻ってきて、余計に目立つ、と。
「いっそ入り口の魔法陣使えなくできないかな? そうすれば中に入りようがない」
「……案外、いけるかもしれんな」
ベルさんが、何やらロープのようなものを手にしながら言った。
「中にあった魔法陣から出たら、入り口の魔法陣が使えなくなった、とか……。そういうトラップ、ありそうじゃねぇか?」
「ああ、なるほど、確かに」
よし、それでいこう。
それにしても、魔法具がいっぱいあるな。どれだけ貯め込んだんだ、魔術師さんは。
まあ、ここの道具は俺たちが有効活用するから、安心してくれ。……って、何だか悪党みたいなセリフだ。
俺たちは手に入るだけのものを回収。エルティアナがマップを作り終わり、ポータルを使って外へ。そして入り口の魔法陣を破壊した。これで、ミロス山の迷宮は、二度と侵入されることもない。
……後で気づいたが、どうせ中に入れなくなるなら、真面目にマッピングしなくてもよかったな。
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