6話 「超レアドロップって肩透かし?」
アイディールマンをアミと一緒に討伐してから、早くも数日が経過した。
リアは相変わらず森の中で、生息するモンスターからアイテム盗みを繰り返していた。
元々、アイディールマンからアイテムをひたすら奪うつもりでいたのに、周りのモンスターのアイテムを片っ端から集めているために、戦うことすらしていない。
「んと、これで牙50個目か〜」
犬のようなモンスターから盗み取った布袋から、白い整った牙が出てきた。
この犬のようなモンスターはサブナックと言うようだ。
通常ドロップはボロついた爪、レアドロップが灰白色の牙というアイテムである。
その他に、蜂のモンスターであるビールビーからは通常ドロップの薄い羽、レアドロップは毒腺付きの毒針。
芋虫のモンスターであるトレンワームからは、通常ドロップで緑の粘液、レアドロップはなめらか糸。
そんな感じで、それぞれの獲得出来るアイテムを把握した後、フリーマーケットで付いている値段も見ながらアイテム収集を行っていった。
価値が高かったのは、あらかた予想していた通りサブナックから取れる爪や牙。
武器の錬金に使うらしいのだが、この森にしか出てこないためにわざわざここまで来て倒して獲得しないといけない。
その手間もあってか、レートが高め。
ビールビーの通常ドロップである薄い羽は、他のモンスターからも取れるため安価で毒針だけ高価。トレンワームだけが通常・レアドロップともに安価で、盗みの対象にしてはイマイチ。
粘液は気持ち悪いし、リアは速攻でトレンワームを対象から外した。
そんな流れもあって、サブナックとビールビーを気分によってターゲットをコロコロ変えながら、アイテム集めをしていた。
「体感、レアドロップは通常ドロップの5か6分の1くらいかなー」
ある程度の数を集めて来ると、段々と一定の割合に収束してくる。
サブナックから爪が306個、牙が50個。
ビールビーから羽257個、毒針が42個。
アイテムだけでこれだけ集めたので、討伐数としても相当な数になって、レベルも25まで上がってきていた。
なお、蘭はスキルポイントがまた獲得出来ているのに、すっかり忘れている状態である。
「……さて。流石に飽きてきたし、そろそろあのボスのアイテム厳選して、次に進もうかな〜」
数日前に通った道を進んで行くと、広場のような場所が見えてきた。
そこまで進むと、ボスと再戦できるのでするかどうかの選択肢が表示される。
「はいを選択っと……!」
すると、ベチャッと数日前に見た同じ場面が始まった。
「カレトケッコンデキルナンテ……ワタシモコンナニキレイナノニ……!」
「ほいほーい」
セリフも、その後の変身も確認済みなので、その流れを分かってますという雰囲気でそのまま戦闘開始になるまで待つ。
そして、体力ゲージが現れると同時に戦闘開始。
まずは【盗む】を実行して、アイテム獲得を狙う。
レベルは25まで上がって、DEXもかなり上がっているのですんなりと布袋を奪い取ることに成功。
大きな剣を振り下ろしてくるが、すんなりとかわしながら攻撃を加える。
「【ハイパースティンガー】!」
懐に踏み込んで、毒攻撃の一撃を加える。すると、相手は毒状態になって、継続ダメージが入っていく。
「【ライトエレキスロー】!」
「グアア!」
持っているナイフを振りかぶって投げると、電気を帯びてそのままブーメランのように相手の体を引き裂きながら、こちらに戻ってくる。
アイディールマンは毒と麻痺で、継続ダメージを喰らいながら動けない状態になった。
「これでおしまい!」
後は通常攻撃を連続で打ち込むと、あっさりと相手は力尽きた。
流石にこのレベルになると、可哀想になるレベル。
特技も使っているので、負ける要素は無い。
「特技を使った時の身軽さと、派手に演出されるのはすごい爽快感だなぁ! ……ん?」
ボスを簡単に倒せるようになったことと、特技を発動した時の感動に浸っている蘭に、お知らせログが届いた。
伝説の盗人……アイテムを1000回盗むことに成功したため、【盗む】が更に強化されました。【盗む】による獲得出来るドロップ品に超レアドロップが追加されました。【盗む】による1000回目のドロップ品が超レアドロップ確定。
「超……レアドロップ??」
流石にレアドロップがそのモンスターから獲得出来る最高のアイテムだと思っていたが、どうやら違うらしい。
「しかも、これも確定にしてくれてるじゃん!ってことは、この布袋の中にはそのお宝が……!」
1000回盗まないと実績解除されず、獲得出来ないアイテム。
どんなにレアな素材だろう。
フリーマーケットで売れば、1つ何百万?ありえない話ではないはず……!
「さーて中身は何でしょー!」
期待に胸を膨らませて、布袋を開いた。
「……何これ」
その中には、淡い光を放つ丸い玉が入っていた。
それだけなら幻想的にも見えるのだが、気持ち悪いことに心臓のように鼓動を打っている。
手に取ると、ログに説明が現れた。
羨望と閃きの心……他の者が持つものに憧れる純粋な思いが結晶化したもの。獲得した者に、特別なアビリティを付与する。
「特別なアビリティ?」
説明だけでは全くわからず、混乱するリアにある選択肢が現れた。
ソウルセットしますか?
「待て待て。ソウルセットとはなんぞや」
考える余裕をゲームは与えてくれない。亜実にチャットで聞こうかとも思ったのだが、ログアウト中。
一旦ログアウトして、ネットで調べるのも手ではあるが――。
「ま、セットすればいいか。初めての超レアドロップだし、これだけ頑張った的な勲章代わりにでもしよーっと」
そんな軽い気持ちだった。
はいを選択すると、光を放つ玉はふわりと浮いたかと思うと、そのまま蘭の胸元にそのまま飛び込んで体内に入り込んだ。
「うーん……。やっぱり何から何まで気持ち悪いアイテム」
気味の悪さを感じていると、ログにさらなる説明が流れた。
ソウルセットされました!ソウルセットされたことにより、以下のアビリティを獲得しました。
羨望の閃き……相手から受けた特技をコピーして使用出来るようになる。ただし、呪文やブレス攻撃は対応外。
「相手の特技をコピー? なんじゃそりゃ~」
派手な演出の割には、その説明だけで終わった。
そして、先程獲得したアイテムは自分の持ち物から消え去っていた。
「えーなくなっちゃったの!? 何にもなかったじゃん!」
よく分からない説明だけ流れて、それでおしまい。
蘭からすれば、手元に残らない時点でがっかり。
頑張った勲章に、体にアクセサリーみたいに付いてるならまだしも、そういう形跡もない。
「……もういいや。今日はこれで終わりにしよーっと」
すっかり気持ちが萎えきってしまった蘭は、そのまま村に戻ってすぐにログアウトしてしまった。




