30話「最初のギルドメンバー」
アミがギルド募集を始めてから、丸々1日が経過した。
「厳しいのは分かっていたけど、こんなに募集に来ないものか~…」
さらにギルドメンバー募集が過熱する掲示板前にて、アミは悩んでいた。
募集をするときから、ギルド勧誘が過熱していることを重々承知したうえで始めたとはいえ、未だに一人も募集には来ていない。
女子ギルドという考えは、それなりによかったのではないかと思っていたが、数は少ないものの、たまに募集を見かける。
ギルドに興味のある子がその中から選ぶとなると、なかなか希望者が来ない。
「うーん、女の子二人で作ってます!は、アピールにならないかぁ」
現時点で、アミとリアのイベントにおける実績は記載していない。
募集した時は、ガチな雰囲気が出てしまって興味のある人が、敬遠するかなと思っていたが、逆に同じような募集がある以上、全く特徴がない。
アミ自身の実績は公開してもいいのだが、エキシビションマッチに参加していないので、「10連勝しました!」って言っても、何の証明にもならない。
実勢組がいるかいないかこだわるガチプレイヤーが来ると、間違いなく話がこじれてきそうな気がする。
「かといって、リアの名前を出すわけにはいかないからなぁ……」
この状況でも、リアの名前を出せば、確実に興味のある人が集まってくることは間違いない。
リアは淡々とした雰囲気だが、とても優しいので頼むと断ったりしないだろう。
それに、有名になったリアの名前だけに釣られて来るような人も、あんまりいい人がいるとも思えない。
「大体、最初はみんなこんな感じで募集するんだけど、加入希望者来なくて、直接声掛けにシフトして行っているのかな?」
リアが勧誘されすぎて参っていたが、どんなプレイヤーにも声をかけていくなら、もちろん引き込めれば儲けぐらいに、声をかけようとするプレイヤーの気持ちも、ちょっと分かるような気がしてきた。
「あの……」
「は、はい!」
「も、もしかして、この掲示板に女子ギルドとしてメンバーを募集されているアミさん、でしょうか……?」
「そ、そうですよ!」
難航するギルドメンバー募集に、色々と考えこむアミに、一人の女の子が声をかけてきた。
「女子ギルドって言うことで、興味があるんですけども……」
「本当ですか!?」
見る限り、声をかけてきた女の子の職業は、盗賊よりも攻撃力が高く俊敏性もある格闘家のようだ。
ただ、装備はリア同様に初期装備で、レベルも13と低め。
「出来れば女性専用ギルドって思って、他の募集しているところに行ってみたのですが、こんな装備とレベルなので、断られるばかりで……」
「そうなんだ……」
アミは話を聞きながらも、ありがちな話だとは思った。
これだけギルド募集が過熱していると、プレイヤーがどれくらいであろうと引き込もうとするギルドはもちろん多い。
しかし、この子は女性だけのギルドを探している。
そうなってくると、ギルド先は限られてきて、そういう女性専用にするようなところは、割とまだメンバーもこだわっているところが多くて、この現状で断られることもおかしな話ではない。
ただ、入れるだけ入れて後は放置、とかになるよりはマシではあると思う。
「ちなみに、お名前は?」
「申し遅れました。私、アスハと申します!」
「アスハちゃんは、まだこのゲームを始めてそんなに経ってないの?」
「そ、そうでもないんですよね」
「そ、そうなの? 基本的に、いつも何してるの?」
「最初は冒険!って思っていたのですが、この街に着いてからは職人の方にハマってしまいまして」
「なるほど~! そういうことか!」
「アミさんの今装備されているのって、アイアコスシリーズですよね?」
「そ、そうだけど、もしかして作ったり出来るの!?」
「そ、素材が高すぎて作ったことはありませんが、素材さえあれば、作ることは可能ですよ。もちろん失敗する確率はありますけど、80%以上の確率でちゃんと作れると思います」
「マジか……! あれって作るのすごく難しいのに!そ、そんなに職人レベル高いのに、どこからも門前払いなの?」
「は、はい……。何か言い出す前にお払い箱か困った雰囲気出されるので、言わずじまいでいつも終わってしまっているので」
「このこと言えば、どこでも入れてもらえると思うけどねぇ」
「いや、一度そういう反応されたところって抵抗ありますし、何かあったらトラブルになりそうな予感もするので……」
素材さえあれば、ある程度失敗せずに強力な装備が作れる。
そして、うちには素材を集める超スペシャリストがいる。
この穏やかな雰囲気も、是非ともうちのギルドに居て欲しいところだ。
「なるほどね! そういうことなら、うちに来ない!? ……って言っても、まだ私と友人の二人しかいないんだけど、それでもよければ!」
「い、良いんですか!?」
「もちろん! リアも喜んでくれると思うな!」
「リア……? ま、まさかですけど……」
「そう、そのまさかです。多分、もうそろそろログインしてくるんじゃないかな? 3人でお話してみよっか」
「ま、まさかあのすごかったリアさんがいるなんて……!大丈夫でしょうか……?」
「絶対に大丈夫! 当の本人、あんなプレイしておいて、ガチ勢じゃないとか言ってる人だからさ……」
しばらくアミとアスハが話していると、リアがログインしてきた。
アミがチャットでアスハの一件を伝え、どこかに集まれないかとリアに尋ねると、雪の洞窟入り口で集まろうと返信が来た。
「ゆ、雪の洞窟って下層から行けるハイレベルエリアですよね!?」
「まぁリアがいるから、何かあっても大丈夫だと思う。あの子、あの辺りでレベル上げしてるからね」
「や、やっぱりすごいんですね」
「凄いというか、異質ってやつなのかな……?」
リアにとってはすっかりおなじみになっているが、二人にとって下層からの雪の洞窟への道は初めてとなる。
リアも最初経験した熟練プレイヤーたちの呼び止めに、アミはスルーし、アスハはちょっと戸惑いながらも、雪の洞窟に進んだ。
「あ、来た来た! ギルドに希望してくれたって子はその子?」
「そうそう、アスハちゃんです!」
「よ、よろしくお願いします……」
「あ、あれ。もしかして、怖がられてる?」
「まぁ、イベントであんな暴れ方したらねぇ……」
本当に目の前にいるのがリアということに、アスハはかなり委縮している。
「こ、こんな戦力にならない私を、入れてもらってもよろしいのでしょうか?」
「戦力にならないことはないよ! だって、職人すごく進めてるじゃん!」
「お、職人やってるの?」
「うん! 私の今着ている装備も、素材さえあれば作ることが出来るんだって!」
「え!? その装備って、まだまだそんなに出回ってないとか言ってたよね?」
「そうそう! だから、戦力にならないわけがないんだよ!」
アスハはプレイヤー自身のレベルアップなどが進んでおらず、戦闘などで貢献できないことをかなり気にしている。
しかし、アミやリアからすれば、話を聞くだけで相当職人についてトップレベルであることは、アミのアイアコスシリーズを獲得できていたことで、十分に理解が出来た。
「リアさんから見て、こんな私がギルドに入っても大丈夫でしょうか……?」
「もちろんー! 素材は集めるから、よかったら色々な強力装備の作成にチャレンジしてみて!」
「あ、ありがとうございますっ!」
「それに、レベルとか気になるなら、パーティ組んでこのあたりのモンスター乱獲すれば、そこそこなスピードで上がるから、手伝うよ! 職人をする作業の時間を確保したいだろうし!」
「それいいね! やりたいことのために、出来るだけ効率性を追求する。ありだと思います!」
「ほ、本当にありがとうございますっ!」
リアが色々な提案や言葉をかけると、アスハはすぐにほっとした様子で笑顔になった。
「これからよろしくね、アスハちゃん」
「はいっ!」
こうして、めでたく一人目のギルドメンバーが加入した。




