23話「エキシビションマッチ」
戦闘描写が自分で書いてても分かるぐらい分かりにくい……。
『まもなくエキシビションマッチ開始します。開始するにあたりまして、この試合を中継するスクリーンに映ることになりますので、よろしくお願いいたします。中継が始まると、すぐにバトル開始となりますので、ご準備ください』
待っていたリアとグザに、どこからか声が聞こえてきて、準備せよという指示が飛んできた。
「え、もう試合するの? なんか紹介動画あるとか言ってなかったっけ?」
「俺らには見せてくれなかったのか? まぁなにはともあれ、ここからは敵同士一発勝負だ。いい勝負にしようぜ」
「こちらこそ」
二人はがっちりと握手をしてから、それぞれの開始位置に立って、バトルスタートを待つことにした。
『それではスクリーンに映るまで、10秒前です』
「て、テレビの収録みたいになってる……」
カウントダウンが進み、0になると再びどこからか声が聞こえてくる。
『さぁその大注目の二人ですが、既に開始地点に着き、バトル開始を待っているようです! それでは早速、エキシビションマッチを始めていただきましょう! バトル開始までのカウントダウンです!』
今度はバトル開始までのカウントダウンが始まる。
お互いに、先ほどまでの気の抜けた雰囲気を振り払って、戦闘態勢に入る。
『バトルスタートです!』
カウントダウンが0になって、大きなバトル開始の声が響き渡った。
「ガラスの殺陣!」
「煙幕!」
お互いにまずは防御系の特技を発動させた。
お互いに紹介映像を見ていなかったので、どちらも今までの相手のように先手を打って大技を狙いに来ると思っていた。
「攻撃してこなかったっ!?」
「な、何をしているんだあいつは!?」
リアとしては、まさか相手が【煙幕】を初手で使って来るとは思っていなかった。
そしてグザはに至っては、リアが何をしているのか全く分からない。
不思議なポーズは、見た目も相まって子供が戦隊ものの真似をしているようにしか見えない。
「あ、あの子何やっているんだ……?」
観戦をしているプレイヤーたちも、リアの不思議な行動に、みんな頭に?を浮かべているか、可愛らしい姿に戦い以外の意味で盛り上がっているプレイヤーがいる。
「念のためにこれもやっておこう。イリュージョン・カウンター!」
「こ、今度は何だ!?」
ガラスの壁を展開した後、さらにリアは【イリュージョン・カウンター】で分身も展開していく。
VITがかなり低いリアだが、これで攻撃を3回分無効化出来るうえに、即死級ダメージなら、不屈の魂もあって計4回分は耐えられる計算になる。
リアにそれ以上の攻撃を、倒される前に与えなければならないという、絶望的な状態が出来上がっている。
「や、やっぱり分身してるぞ!」
観戦している人たちも、先ほどの映像で確認したにもかかわらず、こうしてリアルタイムで見ると、改めて驚きの声が出ている。
そして何より驚いているのが、リアと戦っているグザである。
目の前で分身したり、謎のしぐさをしたり、何をしているのか全く理解できなかった。
「あんな特技、見たことが無い。何かやべぇこと、してるってことだよな……」
今までのプレイヤーと違い、グザは冷静かつ慎重で、すぐには攻めてこない。
何度も発動させている煙幕に包まれていて、グザの姿はリアからは見えていない。
「見えてなくても関係ない! でも、これで決める! ライトニング・チェイン!」
ナイフに電気を纏わせて、地面に突き刺す。
鋭い電流が、グザの方へと向かって流れていく。
どんなに煙幕で攪乱しようが、範囲攻撃なので当たるはず。
リアはそう思っていた。
「あ、あれっ!?」
しかし、電流は巻き上げられた煙の前ではじけて飛んで、グザの元まではたどり着かなかった。
「な、何で!?」
「あ、あぶねぇ……。何だあの電気技は!?」
リアからすれば、自分も使用している【煙幕】でなぜ、【ライトニング・チェイン】がかき消されてしまったのか、分からなかった。
そして、グザは相変わらずリアが一体何をしてきているのか、全く理解が進んでいない。
お互いに困惑しながらも、行動していく。
リアはすでに攻撃を始めたが、グザはさらに【煙幕】を多用してどんどん姿が分かりにくくなっていく。
AGIの差が段違いなので、リアが1回動く時間でグザは2回分動ける。
そしてその行動で【煙幕】を使って来る。
「み、見えない……」
広範囲に使えた【ライトニング・チェイン】が、なぜかかき消されてしまい、さらに攻撃が当てにくい状態になっている。
しかし、リアの攻撃はモンスターから得た特技以外は、このレベルの相手には全くと言っていいほど通用しない。
「当てるしかないっ! 集中しろ……」
煙幕の中で俊敏に動く影の動きに、最大限注意を払う。
「そこだ! メテオ・ストライク!」
影の動きを見て、予測地点に隕石を叩き落す。
巨大な隕石が降り注ぎ、ステージを大きく揺らす。
隕石が落ちてきた衝撃で、全ての煙幕が吹き飛び、視界が晴れてきた。
「どうだっ!……あれ?」
視界が晴れた先に、グザは立っていた。
隕石の落下で、ステージはボコボコになっているが、確かにグザはダウンすることなく、立っている。
「お嬢ちゃん、とんでもないことするね……」
「は、外した……」
今まで、【煙幕】などの命中率を下げられる攻撃を受けたことがリアはなかった。
自分で使うことはあっても、使われることが無かったので、今回の戦闘において、このような相手と対戦する際の対策が出来ていなかった。
チャージ時間がある以上、もう【ライトニング・チェイン】と【メテオ・ストライク】は使えない。
そしてまたグザは落ち着いて、煙幕を張りなおしてくる。
見たことないことをしているとはいえ、先ほどの煙幕でかわすことが出来たという事実から、冷静にまた同じ行動で地盤を固めてくる。
リア自身も使っているので分かるが、消費MPもなく、普通の特技で使用制限がかかるわけでないので、ずっと使うことが出来る。
このまままた視界の悪い状態にされれば、【ガラスの殺陣】や【イリュージョン・カウンター】などを展開したところで、じり貧にしかならない。
「使いたくなかったけど、これも使うしかないか……!」
これ以上、戦いを続ければ続けるほど、リア自身が苦しくなるということは目に見えている。
「いけぇ! 切り札、アイスマター!」
神経を集中させて、リアの左右に大きな氷塊を2つ作りだす。
あの雪原の果てに静かにたたずんでいた、【アイスワイバーン】が持っていた特技。
今まで、モンスターとの戦闘にも使わずに温存してきた大技であり、ある一つの説明文の内容に、この戦況打開の希望を託した。
「”追尾効果”で煙幕中の相手を打ち抜けぇ!」
煙幕の煙を切り裂いて、まず一つ目の氷塊がグザに向かって飛んでいく。
「何かが来る!?」
煙幕越しに近づく大きな影に気が付き、かろうじてグザは回避した。
しかし、回避された氷塊は急ブレーキがかかると、またグザに向かって飛んでいく。
「な、何でまた!」
理解が追い付かない中で、氷塊をめいいっぱい引き付けてから、飛び上がって回避した。
勢いよくグザに向かっていた氷塊は、引き付けられたことにより地面付近までスピードを落とさずに接近したため、ブレーキが間に合わずに地面に激突して砕け散った。
「や、やっと回避できた……」
何とか回避してほっとしたグザ。
しかし、その後ろからもう2個目の氷塊が迫ってきていた。
完全に1個だけだと思っていて、気を抜いていたグザは反応が遅れた。
「……嘘だろ。俺、このバトルで煙幕しか張ってないんだが……」
その言葉と共に、時間差で放った2つ目の氷塊がグザを捉えた。
なぜ煙幕でライトニング・チェインが効かなかったかについては、次の話で分かります。




