16話「雪原の果てに」
リアが探索を続ける中、雪原は少しずつ風が強くなってきていた。
強い風に雪が巻き上げられて、雪煙で視界が悪くなっていく。
「エリアの天候、変わるのかな……」
今までのエリアでは、ずっと晴れているか曇っているかしているだけで、特に雨が降ったりなどはしなかった。
しかし、雪原に入った直後と現在の状況では、雪の降り方と風の強さが明らかに変わってきた。
「そ、遭難しそう……。その時は、ベヒーモスさんたちに協力してもらうかぁ」
現実であれば完全に詰んでいるが、力尽きればプレイヤーの多い安心できる街へと戻ることが出来る。
ゲームって素晴らしいと思う。
リアがそんなことを思っていると、【ベヒーモス】以外に、一つ目の大きな巨人も徘徊するようになってきた。
「あれはサイクロプスかな?」
アミに付き合って色々なゲームをしたので、特徴的な見た目をしているモンスターなら、大体予想がついていく。
【輝く雪の結晶】を始めとして、【大きな氷柱】など、雪原で拾うことの出来るアイテムをどんどんと回収していく。
「よしよし。これでまたアミにゴールドをそれなりに渡せるでしょっ!」
袋の中に入っているアイテム一覧を見て、洞窟からここまで集めてきたアイテムを見て、リアは満足そうに頷いた。
どんな用途で使われるかは分からないが、採取が困難である以上、使用用途が多少イマイチでも、高値で売れる可能性が高い。
盗みと違って、採取ポイントにさえたどり着ければ、確実にアイテムがゲットできる。
フリーマーケットで各アイテムのレートさえ確認出来れば、高い物だけを優先して取っていける厳選ルートみたいなものを確立することも考えてもいいかもしれない。
「あ、煙幕がっ!」
色々と考えを膨らませている間に、すっかり煙幕が切れていた。
慌てて周りを見渡すが、【ベヒーモス】も【サイクロプス】もいつの間にか姿が見られなくなった。
「あれ、みんなどこに行ったんだろ」
吹雪に近い状態で視界が悪くて確認できないことも考えたが、それなら一方的にモンスター側から絡んでくるはず。
何も来ないということは、近くに誰もいないということだろう。
「え、なんで?」
突然の周りの変化に、リアは戸惑った。
リアのいる地点は、両サイドに崖がそびえていて、そ細い谷間の道が先へと続いている。
よく分からない状況に、煙幕をかけることを忘れたまま、先の細い道へと進んでいく。
しばらく歩いていくと、開けた場所に出てきた。
「白銀の……竜?」
そこに居たのは、雪の色によく似た白銀色をした巨大な竜だった。
翼を折りたたみ、静かにたたずんでいる。
その姿は、あれだけ強そうに見えた【ベヒーモス】や【サイクロプス】の存在感を圧倒的に凌駕していた。
「ボス……ではないよね。ストーリーじゃないし」
おそらく、この雪原を支配しているユニークモンスターだと、リアは思った。
相手から見ても、リアは十分に見えているはずだが、こちらに襲い掛かってくる様子はない。
「襲い掛かってこないのも、それはそれで怖いな……」
こう言ったモンスターは、襲い掛かってきて当たり前という印象を持っている。
だが、こちらを確認できる状況になっても、全く動くことはない。
その堂々とした存在感は、これまでに感じたことのない威圧感を感じる。
「確実に瞬殺だけど、何か盗める技があればっ!」
ターゲットを合わせると、【アイスワイバーン】と表示された。
いつも通り、【ライトエレキスロー】を発動させれば、確実に戦闘が開始される。
「先にイリュージョンカウンターを!」
どのくらいの攻撃力で、どんなスピードがあるか分からない。
仕掛けた瞬間、襲い掛かってきて分身が間に合わないことを考えて、先に【イリュージョン・カウンター】を展開させる。
「ブレス以外で頼む……!」
ブレス系の技はコピー出来ないということは、最初から分かっている。
ただ、相手が竜系の相手である以上、ブレスの頻度が高いかあるいは特技がブレス系しかない可能性もある。
アイテム取集などの成果はあったが、本来の目的はこういったモンスターの特技を奪うこと。
何もできずに帰ることになる、ということにならないようにしたい。
【ライトエレキスロー】を発動させると、当たり前だが乾いた音を立てて、ナイフが空高く吹き飛んだ。
攻撃されたことに気が付いた【アイスワイバーン】は翼を大きく広げて、激しく咆哮した。
咆哮の振動で、ダメージを受けていないのにビリビリする。
そして、目にもとまらぬスピードでリアに飛び込んできた。
「来たっ!」
噛みつき攻撃で、まず分身一個が無くなる。
ここまでは計算通り。
「えっ!?」
噛みつき攻撃の後、さらに尻尾を振り回して、もう一つ分身を消し飛ばした。
「二回攻撃……!」
確かに強い敵で、二回連続攻撃してくる相手がいることなんて、どのゲームにもあり得る話。
リアは何とかもう一度、【イリュージョン・カウンター】が発動するべく、動くものの……。
「ちゃ、チャージ時間が足らない……?」
今まで、コピーした特技を一回の戦闘で二回出すということはしたことがなかった。
消費MPが0であることに安心していたが、こういうところに落とし穴があることを、ここで初めて知ることになってしまった。
「これは詰み……かな。不屈の魂で後一回は耐えられるけど、それまでにコピーできる特技、来てくれっ……!」
こうなってくると、【アイスワイバーン】の行動に身を任せるしかない。
「ちょっとくらい抵抗してやるっ! メテオ・ストライク」
リアは軽く念じて、隕石を【アイスワイバーン】に叩き落した。
派手な爆発で、雪煙が舞い上がる。
雪煙が晴れると、怒っているのか更に激しい咆哮をした。
そして大きな口を開けると、口の前にエネルギーが溜まり始める。
「やばい、ブレスだ!」
リアに向かって、ブレスというよりもレーザービームのような攻撃が発射された。
すさまじい衝撃が走るが、何とかHPが1だけ残った。
「あ、あれはコピー出来ない……」
やはりだめか、と思った時だった。
二回目の攻撃に移るべく、【アイスワイバーン】は何やら自分の前に巨大な氷塊を二つ、作り出した。
そして、その氷塊二つが時間差をつけて、リアに向かってきた。
「こ、これはっ……!」
リアがわずかな希望を抱いた瞬間、氷塊の一個目が直撃して画面が真っ暗になった。
しばらくすると、プレイヤーがごった返すレグルスタードの街に返ってきた。
「おお、何だろこの安心感は!」
数時間離れていただけなのに、随分と久々であるかのような感覚がする。
「そうだ! 特技は……!」
久々の安心感にしばらくの間、気を抜いていたが、最後に受けた特技がコピー出来ているかもしれないと思いだして、あわててログを確認してみた。
―特技をコピーしました。
アイスマター……追尾効果のある鋭く巨大な氷塊を二つ展開し、相手にぶつける。この技の対象になった者は、他の者が庇うなどの行為によって攻撃対象を変更することが出来ない。400~450ダメージ×2の氷属性ダメージを与える。ダメージ量はレベルによって増加しない。
「……やったっ!」
ブレスを喰らった瞬間はもうダメかと思ったが、また一つとんでもない特技を習得することが出来た。
周りに悟られまいと、その達成感と喜びを静かに噛み締めた。




