15話「下層の先へ」
「さてさて、今日からは下層から行ける雪の洞窟へ行くぞー!」
【ジャイガンティック・スケルトン】の特技をマスターした次の日、ログインすると早速行動を開始した。
あの後ログアウトして、サイト検索をして、今日から挑むことになる下層から行くことの出来る雪の洞窟のエリアマップなどを確認した。
現時点で全く通用するエリアではないとはいえ、行こうと思えば行ける場所ではある。
一応、エリアの全体マップは載っていたため、予め気になるところが無いか、確認しておいた。
「全然情報が無い……。やっぱりみんな何も出来ないから、調査とか進まないのかな」
ただ、エリアマップに少しでも有益な情報が掲載されているものだと思って調べたのだが、敵が強くてエリア奥までの探索は出来ていないらしい。
結局のところ、明らかに通常モンスターではないと思われる巨大なモンスターがいたという記載などがあったが、かなり曖昧な情報しかなかった。
そこそこ精密に書かれていたのは、街の入り口付近に出る【サハギン】についての情報のみだった。
「結局、自分自身で突き進むしかないね!」
改めて気合を入れて、レグルスタードの街中層から下層へと降りる。
アミに説明はしてもらったが、実際に足を運ぶのは初めて。
中層・上層共にプレイヤーが多くいたが、下層に行くと、一気にプレイヤーがいなくなった。
歩みを進めていくと、更に下ることの出来る階段を見つけた。
「君、ここ先のエリアは危ないよ? 進むなら上層に出たほうが……」
「大丈夫でーす」
初心者で迷い込む人もいるのでそう言う人を引き戻すためか、しっかりとした装備のプレイヤーが見守っている。
リアは相変わらず初期装備のままなので、心配したプレイヤーたちに声をかけられたが、笑いながら軽くスルーした。
街から出ると、ごつごつとした岩肌に雪が付いている神秘的な洞窟が目の前に飛び込んできた。
「ひとまず煙幕を使ってみよう……」
これまで全く使ってこなかったが、煙幕は戦闘中に敵の命中率を下げられるだけでなく、こう言った移動時に、攻撃を仕掛けられないために使うことが出来るようだ。
煙を巻き上げると、慎重に歩みを進めていく。
盗賊は不遇職と言われているが、AGIが高いので移動も早く済むことと、煙幕の使用が出来るということから、こういうきついエリアの奥へどうしても進みたいなら、一番向いている。
ただ、エリア奥に行っただけで、成果が出るのはリアだけなのだが。
「なんかエリアの至る所で、素材アイテム?が取れるんだっけ?」
このエリアの情報が皆無だったが、決して調べたことは無駄ではなかった。
各エリアには、素材を回収できる地点があり、そのエリアの特徴に応じたアイテムが手に入るようだ。
「ここのエリアはみんなきつすぎて、何も出来ない。ということは、ここで拾える素材を集めてアミに渡せば、またゴールドが増やせる!」
ちょっとずつ特技コピーに影響されて、アミへのアイテム譲渡が出来なくなりつつあることが、リアの中では気になっていた。
おそらく、こういうゲームではレベル帯に応じて、道具のレア度も変わっている印象がとても強い。
数個でも持って帰れば、かなりの儲けになるに違いない。
「煙幕と、戦闘時のイリュージョンカウンターは常にセットしておかないと……」
ネットで唯一情報が載っていた【サハギン】は、【メテオ・ストライク】を発動させれば、勝てるような気がするが、変な特性を持っていたり、仲間を呼ぶとかありそうなので、出来るだけ戦闘は避けるスタンスで進んでいく。
「お! この雪、アイテムとして採取できるじゃーん」
アイテムとして採取出来るものは、プレイヤーの目から見て少しだけ明るく光っていて分かるようになっている。
手で触れると、アイテム【サラサラ雪】として獲得することが出来た。
「サラサラ雪……。見た目のままの名前だ……」
名前からしてそんなに高そうに売れる気が全くしないのだが、ひとまず回収出来るポイントはすべて回収していった。
更に、【透明な水晶】や【ひんやり石】など、色んなアイテムが集まっていった。
周りには【サハギン】やオークらしき獣人、気持ち悪いミミズが頭である部分を地面から出している。
煙幕をうまく使いながら、さらに奥へと進んでいく。
「ん?」
しばらく進んでいくと、リアの頭上から白い雪が降ってきた。
洞窟を抜けて、雪原に入ったようだ。
「アイテム採取に夢中になりすぎて、洞窟抜けちゃったのかな?」
アイテムを採取すると、次のアイテムが採取できるポイントがすぐに見えて、まるで餌をぶら下げられておびき寄せられるようにして進んで、洞窟を抜けてしまったらしい。
「まぁいいや。一先ず、探索を続けて行こうかな……」
【ジャイガンティック・スケルトン】の件で、力尽きることにすっかり抵抗が無くなったリアは、気にせず進んでいくことにした。
「え!?」
しかし、少し歩みを進めると、雪原のモンスターが姿を現した。
あまりにも大きい体と、二本の鋭い角をはやした黒い獣が、ゆっくりと歩いている。
「何か調べないでも分かるわ、絶対にベヒーモスとかでしょ」
ターゲットして確認してみると、予想通り【ベヒーモス】と表示された。
ユニークモンスターかと思ったが、周りを少し調べてみると【ベヒーモス】が至る所で大量に徘徊している。
モンスターたちが歩くたびに、地響きが起きており、物々しい空気が漂っている。
「ここ、相当やばいところだね……」
当然だが、周りにプレイヤーなど誰もいない。
洞窟を普通に突破できるようになって到達できるレベルを想定しているはずなので、まだこんなところに来られる人はいない。
「ベヒーモスの特技、気になるけどなぁ……!」
絶対にどんなRPGのゲームでも、ボスや強敵として設定されることが多いモンスター。
強い特技を絶対に持っていると思われるが……。
「こんなモンスターが通常でうろつくエリアに居るユニークモンスター……。絶対にすごいはずっ! それに、アイテム採取も一個でも多く! 一種類でも多く集めて帰りたい!」
より良い状況目指すリアは、ひとまず【ベヒーモス】を無視し、さらに慎重に奥へと進む。
リアの中では、もうそろそろこんな単純な目くらましではバレるのではないかという不安が付きまとっているが、気が付かれずに奥へと進んでいく。
「お、アイテム採取出来る!」
光っている地点に手を伸ばすと、アイテム【輝く雪の結晶】をゲットした。
綺麗なアイテムに、思わずため息が出るが、煙幕が薄くなりかけて慌てて我に返ると、さらに探索を続けていく。




