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エピソード9 窓から

 一度部室の机の上にたまたま置かれたものは、だいたいそこに置かれたままという決まりがある。


 なので、最後綺麗に積まれた状態で遊び終わったジェンガは、そこに置かれ続けた。


 そして毎日誰ががちょこちょこ抜いていき、


「やっほー。飴あげるね」


 舞花が投げた飴が、ある日ジェンガにあたり、盛大に崩れた。


「わわわわわ」


 相変わらずのんきな写真部である。



 そんな写真部の部室に、やってきた。


 ゴキブリが。


「あ、でっか」


「いやすげー冷静だな。カブトムシ嫌いなのにゴキブリ大丈夫なの珍しくない? 逆なら結構いそうだけど」


「だからカブトムシは太ってるんだって、力も強いし。ゴキブリはしゅっとしてるでしょ」


「しゅっと動いて平たいだけな気が……」


「さて、どうやって逃しますかね。捕まえればいいか普通に」


「退治はしないのな」


「しないよ」


 舞花はそう言いながらゴキブリをふんわりつまみ、そして窓から投げた。


 すごい。


 なんか色々と強そうな女の子だなあ舞花は。


「暑いしそのまま窓開けといてもいい?」


「うん、いいよ」


「うーん! 気持ちいい風」


「ちょっと蒸し蒸ししてるけどな」


「まあね」


 でも、舞花のサラサラの髪が動いてるのを見ていると、湿度がどんどん減っているように見える。


 いや気分って大事だね。


 風鈴が涼しいのとおんなじかな。


「あ、そういえば秀映。短編書いたからさ、読んでみてくれない?」


「お、読む読む」


 僕がテンポ良く言うと、舞花が紙の束をくれた。印刷してくれたのか。確かにその方が気分でるタイプだから助かる。


 早速窓辺で読み始める。


 うお、出だしからインパクトあるなあ。


 女の子が、百個のサイコロを振っている。


 いやどういう出だし?


 とかいって自分で突っ込んだりしてたからか、紙を持つ手が緩まって、


「あ」


 窓から紙が落下した。


「しゅうえいいいいいい!」


「やば」


「秀映以外に読まれたらやだ! はずかしい!」


「わかった。急いで取ってくるから」


 僕は部室を出てもう全力で階段へ。そして手すりに適宜手をかけ、勢いを落とさずに階段を下る。


 こういう時、小学校の、廊下走んない! みたいな先生の声が聞こえる気がするんだよな。頭の中にだけ。


 実際は誰も僕が急いでようが気にしない。 


 しかし、そんな人々でも、いきなり上から小説が降ってきたなら気にするかも……。


 誰にも読まれないでいてくれ!


 写真部の部室の真下まで来た。

 

 ただコンクリートの通路に、紙が散らばっているだけだった。


 よかったあ……。


 僕は集めて、帰りはゆっくり歩き出す。


 そう。もしかしたらこれが舞花のデビュー作になるかもしれないんだぞ。


 そう考ると、いつのまにか、落としようがないくらいにはしっかり紙を握っているのだった。


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