エピソード7 音痴すぎる件
学校中に歌声が響く時期。
というのは合唱祭の少し前だ。
合唱祭っていうのは、クラスごとに歌を歌ってそのうまさを競う大会である。
だからモチベ高い人は、クラス全員毎日練習参加! というノリでいる。
一方、大会もそこそこ近い部活や、日々忙しい部活の人は、部活優先、というノリでいる。
これによって争いが生まれるのは、とても悲しいなあ。
と、第三者みたいな立場でいられるのが、写真部の特権……であると実感した。
なぜそんな特権が生まれるかといえば、写真部は、写真係になれるからである。
合唱祭の写真係は、普段の練習の様子の写真や、本番の写真を撮る係だ。
合唱祭にそこそこ貢献している感じを出しながらも、実際は写真を撮っているだけ。
もちろん合唱と関係ない自分が撮りたい写真を撮っても、練習場所から大脱走しない限りはまあ許される。
いやいいねこの立場。
というわけで、今日は写真の整理、という名目で合唱祭の練習をサボっていたら、部室に舞花がやってきた。
「昨日忘れ物したから取りに来た〜って……秀映、もしかしてサボり?」
「ち、違うこれは写真の整理」
「パソコンもカメラも出してなくてどうしてできるの? 天才?」
「いやあまあ天才ですねえ」
「秀映、音痴なんだから、練習行かないとクラスに迷惑かけちゃうよ」
「そ、それはそうなんだが……そもそもあんまり歌うのが好きじゃないんだもん」
「ふーん。ま、私たちのクラスは順調だから、まさかの二年生にも勝っちゃうかも? もし秀映のクラスに私たちのクラスが勝ったら……それは、練習をサボった人が戦犯ということに」
「うわあ……それはやだわ」
「でしょ? じゃ行こうね。私が頑張れの頭なでなでしてあげるから」
舞花が座っている僕の頭に手を乗せた。
なでなで、いいねえ〜。
「秀映幸せそう。うん、秀映は割と甘えたい系だもんね」
「まあ……そうかも」
舞花のお膝で寝てみたいと思うこともよくあるし、なんか食べさせて欲しくなる時もあるし。
間違っても頼れる男らしい彼氏ではない。
気づいてしまったが、そんな頼りがいのない彼氏が学校行事の練習をサボってだらだらしてたら、彼女は失望してしまうのでは?
「よし、練習行ってくるぞ!」
「やる気になった! えらい秀映」
「そう、えらくなった」
「あ、でも……秀映、ほんとにやばいくらい音痴だから、迷惑かけないようにね」
はい、心配してくれてありがとう。
実際そうなんだろうけど、なんか結構悲しい気持ちです……。




