エピソード5 お父さんみたい
『虹原舞花さん、虹原舞花さん、一年三組の教室に来てください』
「放送で呼ばれてるけど」
「ほんとだねー。多分そろそろ補講が始まるんだねー」
「おい、呼ばれてる理由わかってんのかよ」
「え、でもまだ後二分くらいあるよ。今から急いで行けば間に合うでしょ、気が短い先生だなあ」
そう言って舞花は立ち上がって、鞄を重そうに持った。
舞花は数学のテストで赤点だったらしい。
だから補講を受けなきゃ行けないんだけど、それが今日だとはな。
さっきまでポテチ食べながら写真を整理してたぞ舞花。
僕だったら流石にテストの復習とかしてから行くけど。
なんとも図太い舞花である。
「じゃあ行ってきます」
「ほい、行ってらっしゃい」
舞花は部室を若干急ぎ目に出て行った。
今日は部室に一人か……。
僕は舞花が残しておいてくれたポテチを食べながら、暇だなあと思った。
ま、こういうときは睡眠負債を返すしかないな。
お昼寝開始。
椅子をいい感じに三つ並べて、そしてそこに横たわる。
うん。まあ寝れるほどの寝心地ではあるな。
僕はすぐに眠ることができた。
「……重いなあ」
そしてかなりの重さで目覚めた。
目を開けると……なぜか舞花が僕の上に寝ていた。
いや心の中とはいえ、かなりの重さとか言ってごめんなさい。
っていうかそもそもなんで僕の上で寝てるの舞花は?
「……ん? あ、秀映、ご、ごめん」
「いや大丈夫だけど……どうしたの?」
「力尽きた」
「あそう」
舞花はよいしょと起き上がり僕の上から床に降りた。
そしてそのことにより、今まで舞花の身体が色々と僕にくっついていたことを自覚した。
なんかちょっと汗ばんでるし。
柔らかさを失って、ただの空気に触れるのみの僕の前面。
「補講、大変すぎて、疲れて寝ようと思ったの」
「うん」
「そしたら部室の椅子使って秀映が寝てるから。ずるい私も寝たいのにって思ったら、体が気づいたらそこに倒れ込んでた」
「それはもう意識が朦朧としてるな。水飲んだ方がいいよ」
「水ね、のも」
舞花は鞄から天然水を出して飲み始めた。
「あー、確かに少し気分良くなったかも」
「水大事」
「うん」
「でももう右手に力が入らないから秀映飲ませて」
「うそだろ。余裕でペットボトル握りつぶせそうじゃん」
「って言ってくれるのを待ってた」
「そうか。元気が戻ってよかったな」
「よかったよ。あとは、秀映が、アイスをくれれば……完全回復かも?」
「アイスかよ」
「さっきポテチあげた」
「確かに。わかった買ってあげるから行こう」
「わーい、秀映お父さんみたい」
舞花が嬉しそうについてくる。
お父さんって……ポテチあげるとアイス買ってくれるもんなの?




