表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どの蝶でもない君に、僕は恋に落ちた  作者: つちのこうや
7章(時間がたって)
81/110

どの蝶でもない君に、僕は恋に落ちた(最終話)

 神宮球場から家に向かって帰る……つもりだった。


 試合も長かったし、もう夜の十時くらい。


 なのに、秀映が、行きたいって言い出したの。


 海浜公園に。




 まだ秀映と私が出会ってそんなに経ってない頃。


 私が早朝に、そこに行こうと誘ったことがあった。


 あの時は、はじめての、特別な経験ができた。


 今日は夜遅くに、秀映が行こうって言った。


 だから今夜も、何か特別なことが起こるかもしれない。


 そう思った。


 


 十時半くらいの海浜公園にはほとんど人はいなかった。


 まだ眠くはない。


 入り口から歩いて行き、風の強さを少し感じれば、あっという間に視界が海ばかりになる。


 海に面した手すりにもたれかかり、私が中三、秀映が高一だった時のように、二人で海を眺める。


 いや、あの時は海と空の境を眺めてたのか。


 今は……秀映はどこを見ているのだろう?


 ふと気になって、秀映を見れば、私を見つめていた。


 秀映の目が合うなんて、よくあること。


 なのに一瞬で、一気にドキドキし始めた。


「ずっと前……はじめてキスした時、あったよな」


「……うん」


 やっぱり、あの時に言いかけたことの続きを言ってくれるのだろうか。今日はなぜだか、そんな気がしたし。


「あの時、舞花と僕は、自分を卑下せずに、頑張ることを誓いあった」


「うん」


「でも、僕はずっと本当は、もっと、素敵なことを誓いたくて。だけどそれを言えるようになるまで、時間がかかっちゃったな」


「……今なら、その誓いたいこと、教えてくれるの?」


「……うん」


「……」


「……一生、側にいたくて、それで、だから、舞花を、幸せにするって誓うから……」


 秀映が、ポケットから何か取り出して。


 暗い中見たら、それは箱で。


 開いたら、ちょっと光っている、シジミチョウよりも小さな、指輪が出てきて。


「結婚、してください」


 その声は、遠回りせず、私の耳だけに届いた。


 私は凄まじい速さで指輪をつけて、秀映に抱きついた。


「うお、えええええ、指輪消えた、指輪どっか落ちてない?」


「落ちてないよ。私の指にあるもん」


 私は秀映の肩に自分の頭をつけ、そしてささやくより少し大きい声で、続けた。


「私もね、秀映と一緒に、いたいよ。もうこれから一生、離れないからねっ」




 私と秀映は、蝶を探すために出会った。


 その時から、一緒に、飛んできた二人。


 これからも一緒に飛ぶ。


 ただそれだけだけど。


 秀映と私にとっては、涙が出そうなほど特別で。だからしっかりと抱き合って、幸せを伝え合っているのだ。


 この夜の海辺を、贅沢に二人だけで使っても、いいよね。この瞬間だけ。




 一緒に「二人」で飛んでいるから。


 たまには、風に乗って高く舞い上がるかもしれない。


 ときには、海の上を少し飛んでみることも、あるかもしれない。


 それは少し楽しみなことだけど。


 やっぱり一番素敵なのは高さや場所ではなくて、まだまだ二人で、飛んでいけることだと思う。


 

 ☆   ○   ☆


 

 私は、ノートに、綴った。




 今日私が書きたいことは、一つだけ。




 私の日記は、これでおしまい。


最後までお読みいただきありがとうございました。

これまでブックマーク・評価・誤字報告・感想をくださった方々に感謝申し上げます(もちろんまだまだ受け付けております)。

これで完結ですが、この続きに番外編として、舞花と秀映が高校生の頃のエピソードを投稿しております。もしよろしければ覗いてみてください。


繰り返しになりますが本当にありがとうございました。筆者が好きなことを入れ込みまくったので、読んでいただけてうれしかったです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 完結お疲れさまでした。割合と早い時期からリアタイで拝読していました。 基本ずっと二人だけの世界が描かれていっていた、と思います。それなりに平穏に(大事件が起きるわけではなく)進んで行った感じ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ