どの蝶でもない君に、僕は恋に落ちた(最終話)
神宮球場から家に向かって帰る……つもりだった。
試合も長かったし、もう夜の十時くらい。
なのに、秀映が、行きたいって言い出したの。
海浜公園に。
まだ秀映と私が出会ってそんなに経ってない頃。
私が早朝に、そこに行こうと誘ったことがあった。
あの時は、はじめての、特別な経験ができた。
今日は夜遅くに、秀映が行こうって言った。
だから今夜も、何か特別なことが起こるかもしれない。
そう思った。
十時半くらいの海浜公園にはほとんど人はいなかった。
まだ眠くはない。
入り口から歩いて行き、風の強さを少し感じれば、あっという間に視界が海ばかりになる。
海に面した手すりにもたれかかり、私が中三、秀映が高一だった時のように、二人で海を眺める。
いや、あの時は海と空の境を眺めてたのか。
今は……秀映はどこを見ているのだろう?
ふと気になって、秀映を見れば、私を見つめていた。
秀映の目が合うなんて、よくあること。
なのに一瞬で、一気にドキドキし始めた。
「ずっと前……はじめてキスした時、あったよな」
「……うん」
やっぱり、あの時に言いかけたことの続きを言ってくれるのだろうか。今日はなぜだか、そんな気がしたし。
「あの時、舞花と僕は、自分を卑下せずに、頑張ることを誓いあった」
「うん」
「でも、僕はずっと本当は、もっと、素敵なことを誓いたくて。だけどそれを言えるようになるまで、時間がかかっちゃったな」
「……今なら、その誓いたいこと、教えてくれるの?」
「……うん」
「……」
「……一生、側にいたくて、それで、だから、舞花を、幸せにするって誓うから……」
秀映が、ポケットから何か取り出して。
暗い中見たら、それは箱で。
開いたら、ちょっと光っている、シジミチョウよりも小さな、指輪が出てきて。
「結婚、してください」
その声は、遠回りせず、私の耳だけに届いた。
私は凄まじい速さで指輪をつけて、秀映に抱きついた。
「うお、えええええ、指輪消えた、指輪どっか落ちてない?」
「落ちてないよ。私の指にあるもん」
私は秀映の肩に自分の頭をつけ、そしてささやくより少し大きい声で、続けた。
「私もね、秀映と一緒に、いたいよ。もうこれから一生、離れないからねっ」
私と秀映は、蝶を探すために出会った。
その時から、一緒に、飛んできた二人。
これからも一緒に飛ぶ。
ただそれだけだけど。
秀映と私にとっては、涙が出そうなほど特別で。だからしっかりと抱き合って、幸せを伝え合っているのだ。
この夜の海辺を、贅沢に二人だけで使っても、いいよね。この瞬間だけ。
一緒に「二人」で飛んでいるから。
たまには、風に乗って高く舞い上がるかもしれない。
ときには、海の上を少し飛んでみることも、あるかもしれない。
それは少し楽しみなことだけど。
やっぱり一番素敵なのは高さや場所ではなくて、まだまだ二人で、飛んでいけることだと思う。
☆ ○ ☆
私は、ノートに、綴った。
今日私が書きたいことは、一つだけ。
私の日記は、これでおしまい。
最後までお読みいただきありがとうございました。
これまでブックマーク・評価・誤字報告・感想をくださった方々に感謝申し上げます(もちろんまだまだ受け付けております)。
これで完結ですが、この続きに番外編として、舞花と秀映が高校生の頃のエピソードを投稿しております。もしよろしければ覗いてみてください。
繰り返しになりますが本当にありがとうございました。筆者が好きなことを入れ込みまくったので、読んでいただけてうれしかったです。




