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どの蝶でもない君に、僕は恋に落ちた  作者: つちのこうや
7章(時間がたって)
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それから、野球を見に行くことにした

「うおおおおおおおっい舞花!」


「う、うるさいね」


 私は、大学の同期の愛実に笑った。あれかな、アメリカにいた時期が長いからノリが良いとか? 関係ないかな。


「いや、興奮しなよ舞花も。だって、ねえ、そりゃそうでしょ。なんと、小説家デビュー!」


「……って言ってもさ、一冊きりの可能性結構あるしさ、色々と今書いてる作品にも問題があるって話は昨日電話でしたでしょ」


「されたされた。だって野球のシーンでさ、ゴロをファーストに送球して、ファーストがランナーにタッチしようとしてるんでしょ。いやそれはやばいよ」


「知らなかったんだもん。ていうか未だにどういう時はタッチしなきゃいけないのかよくわかんないし。だから愛実教えてよ」


「いいよー。と見せかけて、私は教えません! そのかわりこれあげる」


「これって、野球見に行くチケット?」


「そう。神宮球場で、プロ野球が見れるチケット。二枚あるから当然……私とじゃなくて、秀映と行っておいでね」


「秀映と行くってことで二枚なの? ありがと……!」


「いや全く遠慮なしでおっけー。だって、最近デートの頻度少ないでしょ。二人とも忙しいせいで。だからね、チケット二枚あげないと行く気になんないかな〜って」


 愛実はそう言って、野球のバッティングのスイングを、何も持たずに再現した。




 私はその日の帰り道。駅から家までのんびりと歩いていた。


 今日は首からはカメラを下げている。


 荷物の少ない日は携帯しちゃうよね。


 未だに、写真は続けているのだ。


 別にすごく上手くなったわけではない。


 秀映と出会った中三の春から、私は本当にたくさんのものを撮ったけど。


 それに賞が与えられたのは高校の時の一度。市の小さな賞をもらえただけ。


 でもエピソードとかは、色々と覚えている。


 一緒に蝶の写真を撮ったり、ペアになる写真を撮ったり。


 とにかく、秀映とたくさん撮った。


 高校に入ったら、写真部に入った。


 秀映もその時には写真部に入って活動した。


 文化祭でも、写真展でも、たくさんの人と、写真について話せた。


 本当に楽しかったよ、高校時代。


 そんなふうに、自信を持ってまとめられるレベルには、良い高校生活だった。




 だから、そんな時のことを振り返りながら、私は立ち止まり、秀映に電話してみた。


「もしもし? あのね、明後日、見に行こう。野球。……そう、プロ野球、神宮球場」



 ☆    〇    ☆



「おまたせ〜」


 神宮球場の最寄り駅である外苑前駅の改札で待っていると、秀映はやってきた。会社員の割には相変わらずラフな格好だなと思った。


 秀映は、今年、あるカメラメーカーに就職した。


 結局、生涯を通してカメラに関わることに、秀映は決めたのだ。


「どれくらいぶりだっけ?」


 私が訊くと、


「なんだかんだで一週間ぶりくらいじゃない? でも……それでも長いよな、やっぱり」


「うん」


 私もおんなじ風に思ってたから、そう言われて瞬時に嬉しくなる。


 大学ももうじき卒業するころなのに、まだまだ単純な女の子な私。


 そんな私の手を引いて、秀映は歩き出す。


「行こう。試合もうすぐ始まっちゃう」


「うん」


 そうだ。秀映のことばっかり気にしてちゃダメじゃん。


 今日は私の小説のために、野球を見に行く日でもあるんだから。


 


 大きなラグビー場らしいところを過ぎて、さらに進むと、少し年季のある球場についた。


 人がたくさんいる。


 謎のペンギンのキャラクターを持った人とか、ユニホームを着た人がたくさん。


「今日の相手チームは、トラのチームだよね」


「そうだよ」


「なるほど。と言っても全然わかんないや。だけどなんかネットでよくネタになってるよね。さんさんよ……」


「あ、だめだめだめ!」


「え?」


「それ言うとね、トラブルの元だから」


「えー、よくわかんないなあ」


 野球は難しい、と感じつつ、秀映に続いて球場の中に入った。




 球場の中でたこ焼きやら何やらを買ってから客席に出ると、人がすごい埋まっていた。


 頑張って自分たちの席を探して、座る。


「すごいね。毎日のように試合があるのに毎回こんなに人が来るなんて」


「たしかに。野球は人気だよな。花記も言ってたわこの前」


「花記さん、スポーツカメラマンになったんだよね?」


「そうだよ。いやあいつ、なんだかんだで夢まで割と一直線だったなあ……そういやこの前のスポーツ新聞のでかい写真撮ったの花記でさ。どんな写真かっていうと超すごい写真で……あれ?」


 私が不機嫌になっちゃってたみたい。


 相変わらず幼馴染さんと仲がいいのはいいけど、私とのデートなんだから、ね?


 って思ってるんだもん、私。やっぱりちょっと子供っぽいかな。


 でも、今日は一週間ぶりに会ったんだよ?


 ちょっと意識させにいかないとと思って、私は秀映にぐいっと寄った。


「うお、ちょいまち」


 秀映はポケットの中に手を入れて、ポケットの中に入っている何かをずらしてから、私を受け入れた。


 私の脚に、当たらないようにしてくれたのだろうか。

 

 そんなところで気を遣うなら、さっきの会話で気を遣えばよかったのに。まだまだ不器用な秀映。



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