残ってるもの
舞花の人生を、数時間でたどる。
そんなことで、舞花のことが全部が全部わかるっていうことはない。
でも。
昨日の日記まで読んだ僕は、ちょっと息をはいた。
いや、今日はここ最近で一番、文字を読んだかもしれない。
わかったことをまとめれば。
舞花は絶対に、自分と向き合うことをやめない、女の子だってことだ。
強いから、向き合ったままだから、かえって苦しくなっていたのかもしれない。
どこでそう思ったのかといえば、日記の内容が詳しかったのもそうだけど、
そもそも日記を書いていること自体だ。
日記を書き続けている人が、世の中にどれだけいるんだろう。
『私は、今日も学校に行かなかった』
不登校な時期の平日の日記は大体、この言葉から始まっていた。
そんな自分の今の現状を書いた日記が、実に千以上続いている。
「恥ずかしいもの、見せちゃった」
舞花が少し、後悔したように笑った。
「いや、読めて、よかった」
オーディションに落ちたのが今日で何十何回目な自分も。
菜々を羨ましいと思って、幸せを願えない自分も。
不登校で、ずっと孤独。だけどネットの世界は楽しい。
それでも、画面から意識が外れると、途端にのしかかる情けなさ。
全部が全部、書いてあって。段々と、僕との思い出が綴られるようになって。
そして、最近は文体も、舞花らしさのある生き生きしたものになっていた。
だけどさ、未だにまだ舞花に残っているものが、あるんだなって。
舞花はきっと恋をして。
好きなことも見つけ、小説を書きたいという、想いも持って。
思えば舞花の行動の舞花らしさは、まるで美しい文章で綴ることができそうな、物語のようだった。
そんな舞花がとった写真を見た時、おばあちゃんは、「お話みたい」と言った。
舞花はあらゆるところで、自分らしさを表現することに費やしているのだ。
だから、舞花が描きたいお話のような雰囲気が、舞花の小説のみならず、舞花の全てに存在する。
これが、自分らしさを乗せた舞花の、真骨頂なのかもしれない。
けど、じゃあそもそもなんで、そこまで自分らしさを乗せようとしているのかって考えると。
舞花が唯一、未だに引き継いでいる感情に気がつく。
「あれだな……僕と一緒だな」
「え?」
「残ってるものが、僕と一緒」
「……」
「僕も残ったまんまなんだよな。ただただ単純に、悔しいっていう、どんだけだよってくらい重い感情が」




