厚いファイル
……なかなか長い小説だった。
もう今日見た映画の話はだいぶ頭の奥にずらされている。
「読み終わったよ……。ま、寝てるか」
「ううん、起きてる……」
「あ、そうなんだね」
布団に頭を埋めたままだから、寝てるのか起きてるのかわかんなかった。
「あの……感想というか」
「めっっっちゃいい」
「え、ほ、本気の感想?」
舞花は起き上がって言った。
「うん。ていうかね、文章がうまいんだよ」
「そうなの?」
「うん、なんか、すごいたくさん文章を書いてきた人な感じがする」
僕がそう言うと、舞花はちょっと突発的に笑った。
「ふふっ。確かに、私、文章だけはすごい書いてるかも」
そしてそう言うと、棚の方に目をやった。
七冊の、とても膨らんだファイルがそこにはある。
まさか……。あれ、台本か何かだと思ってたけど……。
「あれ、全部舞花の小説……?」
「ううん、違う。あれはね……あんまり見せてもしょうがないかもだけど、読んでみる?」
舞花は、よっとと、とつぶやいて、ファイルの塊を取り出した。
中には予想外なことに、ノートの数々が入っていた。
ファイルの一つ一つの透明な袋に、一冊ずつ、ノートが入れられている。
「これって……日記?」
「そう、日記だよ。だから小説よりも読んでほしいか微妙で恥ずかしいんだけどね」
「ああ……うん」
読んでしまっていいのだろうか。
僕はためらった。
日記って自分一人のために書くイメージがあり、だから僕が読む資格があるのか、なおさら考えた。
けど、そんな僕に舞花が、
「秀映になら、逆に読んでほしいって、思ってるの。あのね、なんかね、私の全部、秀映に伝えたいなって。昔の私の気持ちとかも含めて」
「……そうか。じゃあ……一番古いのから、まず読むね」
僕は一番汚れたファイルの、一番最初の袋に入れられたノートを取り出した。
舞花はこの時……小学三年生かな。
表紙を見て僕はそう判断し、そしてページをめくった。
イラスト付きだった。
どんなイラストかと言うと、おにごっこをしているイラストだった。
なんだか可愛い絵。目が大きいし、少女漫画に出てきそうな人たち。
おにごっこってわかるのも、おにごっこって題名だからわかるだけで、なんか踊ってるようにも見える、少し微笑ましいイラストだった。
そんなイラストを眺めてから。
僕は小学三年生の舞花が書いた、大きな一文字目から読み始めた。




