表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/110

厚いファイル

 ……なかなか長い小説だった。


 もう今日見た映画の話はだいぶ頭の奥にずらされている。


「読み終わったよ……。ま、寝てるか」


「ううん、起きてる……」


「あ、そうなんだね」


 布団に頭を埋めたままだから、寝てるのか起きてるのかわかんなかった。


「あの……感想というか」


「めっっっちゃいい」


「え、ほ、本気の感想?」


 舞花は起き上がって言った。


「うん。ていうかね、文章がうまいんだよ」


「そうなの?」


「うん、なんか、すごいたくさん文章を書いてきた人な感じがする」


 僕がそう言うと、舞花はちょっと突発的に笑った。


「ふふっ。確かに、私、文章だけはすごい書いてるかも」


 そしてそう言うと、棚の方に目をやった。


 七冊の、とても膨らんだファイルがそこにはある。


 まさか……。あれ、台本か何かだと思ってたけど……。


「あれ、全部舞花の小説……?」


「ううん、違う。あれはね……あんまり見せてもしょうがないかもだけど、読んでみる?」


 舞花は、よっとと、とつぶやいて、ファイルの塊を取り出した。


 中には予想外なことに、ノートの数々が入っていた。


 ファイルの一つ一つの透明な袋に、一冊ずつ、ノートが入れられている。


「これって……日記?」


「そう、日記だよ。だから小説よりも読んでほしいか微妙で恥ずかしいんだけどね」


「ああ……うん」


 読んでしまっていいのだろうか。


 僕はためらった。


 日記って自分一人のために書くイメージがあり、だから僕が読む資格があるのか、なおさら考えた。


 けど、そんな僕に舞花が、


「秀映になら、逆に読んでほしいって、思ってるの。あのね、なんかね、私の全部、秀映に伝えたいなって。昔の私の気持ちとかも含めて」


「……そうか。じゃあ……一番古いのから、まず読むね」


 僕は一番汚れたファイルの、一番最初の袋に入れられたノートを取り出した。


 舞花はこの時……小学三年生かな。


 表紙を見て僕はそう判断し、そしてページをめくった。


 イラスト付きだった。


 どんなイラストかと言うと、おにごっこをしているイラストだった。


 なんだか可愛い絵。目が大きいし、少女漫画に出てきそうな人たち。


 おにごっこってわかるのも、おにごっこって題名だからわかるだけで、なんか踊ってるようにも見える、少し微笑ましいイラストだった。


 そんなイラストを眺めてから。


 僕は小学三年生の舞花が書いた、大きな一文字目から読み始めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ