高い屋上で
舞花とゆったりとお昼ご飯を食べた後は、ショッピングモールの屋上に行った。
屋上は、基本的にベンチと植え込みがあるだけで、だから人も少なかった。
高いと言えば高いけど、観覧車からの景色とかと比べれば、そこまででもない。
それでも、かなり向こうまで続く線路と、それに沿って流れる川が見えた。
川は前に僕たちが海まで行くのにたどったのと同じ川。
線路はきっと、観覧車のあるレジャー施設の方へも続いている。
だから、少しだけ舞花と僕の思い出を振り返るには、とてもいい場所だった。
「伸びしたくなるな」
「もうしてるよ、うーんっ」
舞花が腕を伸ばし、僕よりもだいぶ上に舞花のてのひらがきた。
僕も舞花と一緒に伸びをする。
舞花はつま先で背伸びもしていて、だからあんまり高さは変わらない。
僕はそんな舞花を見ながら、今までのことを色々と振り返った。自分なりに思い出せるだけ、思い出しながら。
舞花と初めて出会った、人が少ない駅の出口でのこと。
そしてそれから、たくさん蝶の写真を撮ったこと。
その蝶の写真を撮っていくうちに、舞花と沢山いろいろなことを経験したこと。
ふと思った。舞花に特に見とれていたのはいつだろうって。
そんなの、沢山の時間だ。
だからいろいろあるけど。
でも、そんないろいろな舞花の共通点というかなんというか。
舞花は、時々考えてる気がするのだ。
なにか、自分が、進むためのことを。
そんな風に少し思って、だから僕は舞花に訊いてみた。
「舞花の、夢みたいなのって、なんかある?」
突然だったからか、驚いたように舞花は伸びをしたまま僕を見たが、でもすぐにこう言った。
「あんまりわかってないの。私自身がね。けどね、絶対無理そうなことに……女優さんよりも無理かもしれないことに、なんか憧れたりしちゃって。最近ね」
「……」
「秀映には言っちゃおっかな。私ね、小説家に、なりたいなって」
舞花がそう言うと、屋上には風が吹き始めた。
いや、ちょうどのこの時に、僕が風を認識したのかもしれない。
屋上の高さがさっきよりも高くなった気がする。
舞花と僕だけが、話せる場所。
そんな場所に、ここが一瞬でなった気がした。
電車の音が響き始める。
ポイントが多い箇所を通ってるのか、鋭い音も、耳に入る。
その音がやむまで、僕と舞花は無言だった。
その代わり、静かになった時、僕は舞花に言った。
「舞花が良ければ、舞花の書いた小説、読んでみたいな」




