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隣の舞花

 そしてしばらくおばあちゃんは、何も話さずに写真を眺めていた。


 ふと、おばあちゃんは口を開いた。


「なんだか、初めて写真を撮りたいと思った時のことを思い出すねえ」


「ああ、それはもしかしたら、僕も舞花も、写真を撮り始めてから日が浅いからかもしれません」


「そうなのねえ。ああ、私が写真を撮りたいと思ったのはね、学校の試験が落第点ばっかりだった時の事なのよ」


 落第点……そうか、赤点時々とるけどあんま気にせず課題だして切り抜ける僕と違い、おばあちゃんはまじめだったのかもしれない。


「こう言われたら、なんて思う? テストで100点を取った人と30点だった人は、絶対100点の人の方が頭がいい」


「まあ……それはそうな気がします」


 舞花が答えて僕もそうだとうなずいた。


「私も当時そう思ってね、でも、次にふと写真について考えてみたのよねえ。例えば、1万人がきれいって言った写真と、一人だけいすごくいいって言った写真があったとして、どっちの写真の方が優れているかって」


「……」


 僕は思い出した。


 少し前、花記に写真を勧められた時に、同じことを思った。


 そしてそう考えたことがきっかけで、僕は写真を撮り始めたのだ。


「まあ、若いうちはそういうことを考えるってことねえ」


 おばあちゃんはそう呟くと、もう一回、順に顔を近づけて写真を見て、そして、


「ありがとう」


 と言って、ゆっくりと、また全然違う場所にある写真を見に行った。


「なんだかいろいろと精神的にすごそうな人だったね」


 舞花にそう言われ、


「それ。マジで話すの緊張した。あんま何も言ってないけど」


 僕は同意の言葉を、おばあちゃんの台詞を脳内に留めておきつつ返した。




 それからも老若男女いろんな人が来た。


 いろいろな話をした。


 自分の家の近くにもこの写真みたいなところがあるけど少し違うとか、どうしてこんな写真を撮りたいと思ったのかとか、あと世界が狭い(二回目)が発動して、「朝方のそらさんなんですか!」となったりとか。


 そうしてやはり時間は早く過ぎるように感じ、もう閉場の時間になった。


 僕はお客さんがどんどん出口に向かうのを見て、思った。


 なんだか、人生の流れが、かすり合っている。


 心地よいかすりかた。


 きっと、本当に様々な会話がこの場で飛び交ったからだろう。


 ここはそういう場所だから普通なことなのに、不思議な気がして。


 そしてなぜか、隣の舞花を、見つめていた。


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