世界は狭いかも
舞花と勉強する日々を二日過ごしただけで、おおよそ勉強不足が解消されたように感じた。
感じただけな可能性が高いけど、舞花に教えている時間もあるのに、自分の勉強も予想以上に進んでいる。
だからひとまずは勉強のことは置いておいて、写真展に舞花と僕は向かうことができた。
普通の写真展は写真が並んでいるだけな一方、僕たちの住む市の写真展は、撮影した本人が写真の近くにいるという形式になっている。あくまで義務ではなく任意だけど。
写真を撮った人と見に来た人が直接対話をするというのが主な目的なのだ。
「困った。知らない人と話すのはコミュ障な私には厳しい。こういう時おうちにこもりたくなるんだよね」
「わかる」
でも任意という所に一定の気楽さがあって、いやになったらいなくなればいいってことだ。
「でも、写真を見に来てくれた人と話したいっていうのはあるよ」
「あるな、わかる」
つまりは二つの気持ちの葛藤だ。
「ケーキをもっと食べたいけどお腹はもう一杯で苦しい時みたいな感じだね」
それに例えるのはよくわかんないけど。
やがて市民ホールに着いた。
市民ホールの、舞台があって客席もある一番大きい部屋の、真上の部屋。
そこが会場になっている。
日の光も上から入ってくる構造の中々広いスペースになっていて、予想外に明るいというのが第一印象だった。
周りにいる人々を見回すと、年配の人々が結構多い。
やっぱり写真は年配の人の方が撮ることが多いのかと思ったりもしたけど、そもそも東京近郊の小さな市であるここは、高齢者の割合が高い。無難な割合に感じた。
自分たちの写真がある場所を探すと、奥の方に発見できた。
「ああ、奥でよかった……」
「それはたしかに」
「なんか落ち着くし、人の流れが速くなさそう」
ペアの写真を展示する人々はわりかし固められているみたいで、隣の写真もそんな感じだった。
っていうかすごい。
あ、気付いてしまったんだけど、すごい写真しかないわ周りに。
「これ、じっくり見て回りたいね」
「だな。暇な時は見る側になるか」
「うん。逃げる道を用意するのも大事」
とことん人と話すのに自信がない舞花と僕らしい会話だった。
「こんにちは」
うおまままままじかよ。
近くの人が話しかけてきた。コミュ強?
「あ、こんにちは……」
「二人は高校生くらいなんですか?」
そう訊いてきたのは、大学生くらいの女子だった。小さなポーチには、手作りっぽいカメラのぬいぐるみがついている。少し古びていて、だからなおさらすごいカメラ好きなんだなあって思った。
僕は、そのカメラのぬいぐるみに見覚えがあった。
「ああ! もしかして……佳波、さんですか?」
「え? 知ってるんですか? 私のアカウント」
「はい、そのカメラのぬいぐるみをアイコンにしてますよね」
「はいそうです! え? あなたは誰なんですか?」
「あんまり絡んでないと思いますが……朝方のそらっていうアカウント名です」
「知ってます!」
世界は意外と狭い。写真を撮る人が一番思わなさそうなことを、この時僕は思ってしまった。




