雨が降り始めた夕方
「その時の電車の窓からの夜景がこの写真」
「これで全部か」
「うん」
乗り過ごしてしまった次の日。
駅前の小さくてわかりにくいところにある喫茶店で。
舞花と僕は写真の整理をしていて、今終わったところ。
「そうだなあ、なんだかんだで風景の写真が多いから、風景と錯視を組み合わせたので独自性を出せれば面白いなぁとか思うんだけど」
「それそれ。私も大体おんなじこと考えてた」
舞花がうなずいて胸元のリボンをいじる。
舞花は今日は制服を着ていた。
舞花はあんまり制服が好きじゃないらしいけど、今日は日直もあって遅くまで学校にいたので制服のまま僕と会うことにしてくれたみたいだ。
舞花の制服いいんだけどね。
別に舞花が大人っぽいわけでも、制服のデザインが大人っぽいわけでもないけど、なんか制服を着た舞花は高校生真っ只中に見える。
そんな舞花は、紅茶をゆっくり混ぜて、それから空に小さな指をむけた。
「こう、雲をつまむとか、ありきたりなのなら思いつくんだけどな」
「うん、でもそういうのでもやり方次第で今まで誰も撮ってなかったタイプの写真になるんじゃない?」
「たしかに。だとしたら被写体の方を珍しいのにしないとだね」
「だな」
「あっ、珍しいで思い出した」
「ん、どうした?」
「今日、皆既月食がある」
「そういえばそうだった。たしかにそれは珍しいし、発表会関係なく写真に撮っておきたいな」
「ただ、それが多分無理で」
「あ、もしかして、今日夕方から雨か」
「そう。ていうかもう降ってるかな」
見れば、小粒な水滴が窓にいろんな角度で当たっていた。
……そうだ。プールで水滴いいなって思ったんだったな。
水滴と風景と錯視。
これを全部取り入れたペアの写真。
「……舞花。ちょっと試したくなったことがあって。雨の日の風景の写真で」
「お、なんか思いついた? それでどこで試したいの?」
「池かなあ、近場の公園の池でいいから」
「池ね。早速行ってみる?」
「あ、いいの?」
「いいのっていうか行こうよ。写真がペアなら、私たちももちろんペアなんだし、遠慮とかいう概念ないよ」
「ありがとう」
「それに私、雨の日に、秀映と狭い傘に入って移動してみたいってなってるしね」
「あ、それはつまり、傘持ってないのか」
「そう、そういうこと! よくできましたってことで、秀映一緒に入れてくれる?」
舞花が僕の前で、花丸の軌道を作る。
僕だって傘持ってるって言っても、小さい折り畳み傘だ。
だって雨降ることは知らなかったし。
舞花と二人で使うことももちろん知らなかったし。




