とても可愛い
舞花と僕の順番が近くなってきた。
「舞花先いいよ」
「ありがと」
「……次の方、どうぞー!」
「行ってらっしゃいー」
「行ってきます」
舞花がスタート地点に腰かけ、そして筒の中に消えて行った。
舞花が見えなくなってしばらくすると、
「次の方、もう大丈夫ですよ〜」
監視員のお姉さんがそう言うので、僕も腰かけて、そして滑り降りた。
十センチもない浅い流れに乗り、どんどんと加速する。
ま、ジェットコースターよりだいぶ遅いし、そんなインパクトもないな。
と思っていたのは初めの方だけで。
あれ? これっていつまで加速するんだ?
え? まだ下りしかないけど。
かなりのスピードで、舞花に追いつくんじゃないかと思ってしまう。監視員さんが行っていいですよって言ったタイミング的に、多分舞花はもう出口にいるはずだけど。
と、突然、目の前が真っ暗になった。どっちに曲がるのかもわからないまま、まだまだ加速する。
え、まさか、これ怖いやつ?
となったところで、暗闇から抜けた。
すると今度は上半分だけでなく、下が透明になっていた。
え、え、え。
こういうのも苦手なんですけど……。
しかも加速し切ったスピードを維持してるし。
僕は薄目で景色を確認。
段々と地面が近づいてきて……出口。
ずっぼー。
僕はプールに投げ出された。
はー。
恐ろしきウォータースライダーだった。
「あ、秀映きた」
プールサイドで座って待っていた舞花が立ち上がってこっちにきた。
すごい楽しかったあって顔してる。ほんと。
「すごい長くてよかったね!」
「うん。よかった」
「ふふっ、あはは」
「え、なに?」
「顔にちょっと怖かったって書いてある。可愛いなあ」
「書いてないよ。そんなこと思ってないし」
「怖かったら私の胸の上に手を置いて」
「そんなことしなくていい!」
舞花が手を握って胸に引き寄せるので慌ててしまった。
「わお、冗談にそんなに反応するところも可愛い。私も見習って可愛い雰囲気出せるようにしよ……うんげっ」
え、どうした舞花……と声を発する前に状況を理解。
ビーチボールが舞花の背中に綺麗に当たっていた。
「お姉さんごめんなさい」
遊んでいた小さな子どもがが謝りにくると、舞花はにこにこなお姉さんになった。
「大丈夫。はいボール」
「ありがとうございます」
礼儀正しい子どもは去っていった。
「ああ、とっさに出る声って、ほんと自分から出てる声で一番可愛くないなあ……」
「舞花の『うんげっ』可愛かったよ」
「真似して再現しなくていい!」
「はいはい」
やった。いつの間にか僕の一方的に不利な状態が解消されてるぞ。
ぐおおおうううう!
え? 今度はなにが起こった……?
のか分かってしまいましたね。
「ほんとーうに可愛くなくてごめんなさいね!」
舞花がお腹を押さえて言った。
うん、お腹すいてるもんね。もう午後二時近いし。




