水滴
一周流される少し前くらいの頃、舞花がつぶやいた。
「私、泳げるようになるかなあ」
「別に泳げなくても授業さえ過ぎ去ればそんな困らないし大丈夫だよ」
「うん、そういう感じならいいけど」
「あとバッティングもボウリングも結構コツ掴んだらすぐできるようになったから、意外とどんどん泳げるようになったりして」
「そうだともっといいんだけど」
舞花がそういうと同時に、シャワーがたくさん並んだ、水の壁をイメージしたようなところに差し掛かる。
降ってくる水滴は、あらゆるところで跳ねる。
舞花の頭、きっと僕の頭でも跳ねてるし、舞花の肩でも胸でも跳ねてるし、浮き輪でも、腕についているロッカーの鍵でも跳ねている。
大雨とは違う、こういう一定間隔の水滴ってなんだか珍しい。
それこそ写真に撮りたいけど、今はカメラはもちろん持ち込んでない。
「なんか泣いてる感覚になりそう」
「なるほど、そう言われると水滴がやたら頬をつたるな」
「うん、あと前が水滴に覆われて見える」
「だな」
そう話している間に、シャワー群を通り抜けてしまった。
シャワーの下にいつまでもいようと、流れに逆らって泳ぐ小学生たちがいた。
「なんか、川を上る魚みたい」
「そうねえ」
水滴がなくなって、舞花がよく見えるようになった。
だから舞花がうなずいたのもよくわかって。
そんな舞花は言った。
「そうすると、私たちはどういう魚なんだろう?」
「なんだろうね、流されていく魚?」
「てきとうだね」
「うん、てきとう」
てきとうさだけ確認しあった僕たちは、水滴がついた姿で見つめ合い、笑った。
「あと一周流されたらさ、ウォータースライダー行かない?」
頭上を巨大シーボルトミミズのようにうねるウォータースライダー。それを僕は見上げた。
「うん行きたい! あ、でも秀映は怖くないの?」
「これは大丈夫。そんな怖くないでしょ」
流石にジェットコースターと比べたらね。
確かにここのウォータースライダーはスピードも出て長くて有名だけど、まあ流石に怖いというより楽しいっていう感じだろうな。
ウォータースライダーは大人気。
水着で人が列をなしていた。その列の最後尾に舞花と僕は並ぶ。
一応身長制限があって、だから前の小さな子供がなんだか乗れるか不安そうである。
当然みんなで好き勝手滑るとカオスになるので、監視員の人が一人一人順番に滑らせている。
「うわあ。結構ひゅんひゅんいくね」
「だな」
筒の中を進む影を見て、僕たちはそう話したりしていた。




