かたつむり
朝三時に待ち合わせた場所に、舞花と僕が戻ってきたのは、夕方だった。
「日が沈みそうだな」
「うん」
ものすごく、太陽を意識した一日だった。
こういう日を過ごすのは、心を豊かにする上では良さそうだ。
人の心を動かすような写真を撮るのにもつながるかもしれない。
☆ ○ ☆
そして週末が終わり、週の初め、月曜日の放課後。
僕と舞花は勉強を図書館で一緒にした後、図書館の屋上でのんびりとしていた。
屋上には、植え込みがたくさんあり、緑の占める割合が高い。
さっきまで雨も降っていたので、光沢のある、でもエメラルドとはまた違った緑だ。
いやエメラルド見たことないけどね。
「そうそう、市の発表会の募集要項だけどね」
「あ、読んでない私。見せてくれる?」
「いいよ」
僕は舞花にちょうど募集要項のページを開いたスマホを渡した。
「ペア枠っていうのがあるんだ」
「そう、なんか二人で同じテーマとか、なんか繋がりのある写真をとるんだ。そしてその組み合わせで作品として、出品するってこと」
「なるほどね」
「これ、出てみる?」
「私これがいい」
「僕もこれがいいな」
だって、たくさん二人で写真を撮ったんだから。
「あれだな、そしたらまずどんな写真にするか決めないとな」
「たしかに。なんか面白いペアの写真思いつかないかなあ」
「パッと思いつくのは無難なのになりがちだね」
「うんうん」
舞花も僕も、屋上から見える晴れ間を見ながら考えた。
例えば雲の中の唯一の晴れ間と、快晴の中の唯一の雲とか?
普通だななんか。
まあ……慌てて考えてもいい考えになるはずもないので、普通じゃないのが浮かんでくるまで、地道にすごすしかないかも。
写真提出までは二週間くらいしかないんなんだけどね。
まだ暗くならないうちに、舞花と僕は図書館から家に向かった。
「あ、すごい大きいかたつむり!」
舞花がコンクリートの低めの壁の前でしゃがんだ。
ほんとだ。
親指と人差し指でできる丸くらいの大きさの殻をお持ちの、びよーんと伸びた、かたつむりだった。
舞花も僕も写真を撮り始める。
ゆっくりとコンクリートの壁を登っているんだけど、思わず一番上に着くまで見ていたくなる。
というか実際見てしまった。
舞花も僕も。
「コンクリートの壁が乾く前に帰らないとって急いでたのかなあ」
また歩き始めながら舞花がつぶやく。
「そうかもな。なんか想像が膨らんでいいね」
「うん、そして、写真をまた後で見返すと、その時も色々考えられるんだよね。それがいい」
「わかる、そうなんだよなあ」
舞花と僕は、写真の良さについて話しながら、進んで行った。




